自分の“好き”を見つけるのが 絵本作りの第一歩『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』特別審査員・横山だいすけさんインタビュー〔後編〕
2025.01.19
横山 絵本に関わる中で知って驚いたのが、1年間に2000冊もの絵本が世の中に生まれているということです。『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』には審査員という形で関わることになりましたが、僕は、ひとりでも多くの方に絵本づくりを、作品を生み出していくということに挑戦していただきたいですね。
ですから、選ぶというよりも、自分もいっしょに「新しい世界」に触れてみたいなという気持ちが、率直なところです。絵本作家を目指している方や、絵本を描いてみたいと思っている方も含めて、なにか形にするという行為の後押しというか、背中を押して一歩踏み出すためのきっかけになれたらいいなという気持ちが大きいです。
僕は歌が大好きで、うたのおにいさんを通して歌の大切さや良さを伝えてきました。そして、絵本も同じくらい大好きです。これから絵本を描きたい、今描いている、描こうか迷っている人には、「やっぱり絵本が大好き」という気持ちがあると思うんですね。だからみなさんの「好き」をぜひ、表現してもらいたい。
自分なりの150%の「好き」が絵や文字に宿ったときに、その「好き」がどれだけ人に伝わるか。「読者と選ぶ」ということは、我々審査員だけではなく、いろんな人の「好き」を受け取れるかだと思うんですね。なので本当にみなさんの「好き」がたくさん集まったら、すごく素敵なことだと思います。
──「こんな絵本が欲しい」というリクエストではなく、描いた人の「好き」を受け取りたいから、応募してほしいという気持ちが強いということでしょうか。
横山 たくさん、応募してほしいですね。人それぞれ「好き」って違うと思うんです。優しい表現が好きな人も、元気な表現が好きな人もいるでしょう。そんなみなさんの「好き」に触れられることが、審査員だけでなく読者のみなさんもうれしいことだと思います。
──気持ちを込めて歌を歌う横山さんならではの視点で、作品に気持ちを込めるコツを教えてください。
横山 僕は歌を歌うときに、最初に歌詞を見ます。そこで自分が一番共感できるところや、自分が表現したい歌詞を見つけるところから始めます。
例えば、童謡の『シャボン玉』を歌うときは、最初の「シャボン玉とんだ 屋根までとんだ」というフレーズを大切に歌いたいと思うんですね。そして「シャボン玉ってふわふわっとしている」ということを、優しい表現で伝えたいなと考えます。そして歌うときには、子どもがふぅーっとシャボン玉を吹いて、ふわっと飛んでいく様を頭で思い描きながら歌うんですね。
やはり歌詞にも作り手の思いが込められていて、必ずストーリーの山があります。その山場で自分はこういう思いを伝えたいんだと決まったら、そこに向けてどんなふうに歌っていけば僕の気持ちが届くかなと、だんだんと逆算して考えられるようになりました。
僕は歌の観点から伝えましたが、絵本づくりでどこから手をつけていけばよいか迷っている方がいたら、まずは自分の「好き」があふれるもの、これだけは伝えたいというポイントを見つけるところから始めるとよいと思います。なぜ絵本が好きなのか、どんなところが好きなのかを探っていく中で、自分はこの絵本のこんなところが好き、こんなことが描きたかったという発見もできるんじゃないかなって。
周りの友だちに絵本が好きな気持ちを伝えてみたり、いっしょに絵本の話をしていく中で、自分の気持ちや、こんなことを描いてみたかったという願望を発見するのもよいと思います。
──「こんな気持ちで絵本を作ればいいんだ」と思える、素敵なアドバイスをありがとうございます。
横山 僕は絵本を作ったことがありませんが、歌の作り方にはこんな方法があるなと思って。僕は歌詞を見てストーリーを作るのが得意なんです。「シャボン玉」の1番歌詞は、屋根まで飛んだシャボン玉が、こわれて消えたという内容で、単純にシャボン玉ができては消えていく現象の楽しさが感じられます。2番歌詞では、シャボン玉が飛ばずに消えてしまったことが書かれていて、最後に「風 風 吹くな」とあって、ちょっと悲しげな感じがしますよね。作詞家の方が子を思う個人的な気持ちが込められているという説もあるようです。
そこで、僕自身が感じた楽しい気持ちと、子を思う親の気持ちを、歌う箇所で分けて伝えていく。自分の考えたストーリーと、作詞家が考えたであろうストーリーを合わせて、ひとつの歌になっているように歌いたいなと考えて。そこから何を感じるかは聞き手の自由ですが、歌い手としてそんなふうに考え、思いを込めて歌っています。
──今のお話を聞いていると、歌の世界と絵の世界の接点が見えてくるようです。絵本、読み手、聞き手の3点の繫がりがあって立体的になるという意味では、絵本と歌は近いものかもしれませんね。
デジタルは絵本と出会う機会を増やしてくれる味方にもなる
──『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』は、デジタルデータでの応募という点が特色です。絵本ナビとしては、実際に手に取って楽しめる紙の絵本も大切だという考えは大前提としてありますが、現実として、今の子どもたちの周りには、たくさんのデバイスやメディアがあふれています。そこで、デジタル絵本としても質の良いものが生み出せたらという、チャレンジをしています。
新しい分野に挑戦するときに、横山さんが「ここだけは変わらないでほしい」という部分や、逆にデジタルの可能性やおもしろさを感じる部分はどこですか?
横山 僕は紙が大好きですが、デジタル化によってどこにいても、どんな場所でもすぐに絵本を読むことができる環境は、絵本やおはなしの世界が身近になるし、今の時代にすごく沿っているなと思うんですよね。それを受け入れる受け入れないというよりも、あるものをどう活かしていくのかという新しい視点で考えるとよいかなと思います。
ひとつの端末から、いろいろな絵本をどんどん読むことができるというのはすごいことで、より多くの絵本に触れられるチャンスでもあります。ですからたくさんの絵本に触れる中で、自分の心や家族の心に刺さる作品をどれだけ見つけることができるか。そういう大切な作品に出会うと、何度でも読みたくなりますし、絶対に手元に置いておきたくなるんです。そうなったらぜひ、紙の絵本を手に取ってもらいたいです。本を手に取って開いたときの感動は、絶対になくならないと思いますし、それを味わう機会を大事にしていきたい。
ページをめくりながら親子で指さしをしながら、ああだこうだと見つける楽しさや、読みながら自然と会話が生まれ、コミュニケーションが育まれるのは、本を手に取っていっしょに読むからこそだと思います。デジタルでより多くの本に手軽に出会うチャンスが増えれば、手に取りたい本や好きな本が1冊、10冊、100冊になるかもしれないと考えると、デジタルをプラスに捉えられるのではないかと思いますね。
──それは絵本ナビの考え方と同じですね! 本屋や図書館に加えて、デジタルでも絵本が読めたら、絵本との出会いの場が増えることに繫がります。
横山 もうひとつ描き手の立場から考えると、デジタルアートの発達によって、表現の幅が広がったと思います。手描きとデジタルでは、また違った良さがあると思うんですよね。時代はどんどん進んでいくので、古きものを大切にしつつ、新しいものを受け入れていく中で、絵本の新たな楽しさが生まれるかもしれない。絵本の未来は、まだまだこれからだと思います。
ですから、描き手のみなさんも「絵本はこうだ!」と決めすぎず、絵本でこんなことができる、あんなことができるという「新しさ」を作っていただきたいですね。我々絵本好きからすると、まだ見ぬ絵本の可能性は無限大。それを生み出せるのは、新しい考えを持った人だからこそで、そんな作品に出会うことができたら、私たちも「わあ、こんなことがあったんだ」と感動できるし、その出会い自体が幸せなことだと思いますね。
──審査員の立場としては、どんな作品が来るのか楽しみです。そして審査の中で「新しいとはこういうことなんだ」という道が拓けていくといいなと思います。子育て中の親御さんは、デジタルとの付き合い方で悩んでいる方も多いですが、横山さんご自身は、子育ての中でデジタルとはどんなふうに付き合っていますか?
横山 自分も親になってみてわかりましたが、親は子どもにまっすぐに育ってもらいたい、立派な子に育てたいという思いがあると思います。その思いが強くなりすぎると、自分自身が苦しくなるし、今日もスマホで動画を見せてしまったと落ち込むこともあると思います。
でも親である自分自身が一番楽しめる方法で、子どもと笑い合えることが一番大切なことであって、そのために何を使うかは、自由でいいと思うんです。例えばスマホを長時間見せるのはよくなかったなと思ったら、その分の時間を子どもと向き合って思いっきり楽しむ。例え同じ時間ではなくても、集中して子どもと向き合う時間を作るなど、みなさんの中で楽しさをみつけていくことが、子育てで大切なことだと思いますね。
──最後に、応募を迷っている人に向けてメッセージをお願いします。
横山 絵本には、昔からの「王道」と言われる作品はもちろん、たくさんの新しい作品があります。応募を考えているみなさんが固定観念に縛られることなく、自分が好きだと思う絵本、自分が新しいと思う絵本をぜひ形にしてみてください。その可能性を拡げるのは、あなた自身です!
──ありがとうございました!