
KOKIA「本が苦手な私が3回泣いた」──作家・戸森しるこに明かした『ぼくたちのリアル』の衝撃と創作の秘訣
作家・戸森しるこ×シンガーソングライター・KOKIA スペシャル対談 後編
2026.11.08
ライター:山口 真央
デビュー作『ぼくたちのリアル』で講談社児童文学新人賞を受賞し、作家生活10周年を迎えた戸森しるこさん。子どもたちの揺れる心に寄り添う数々の物語を紡いできた戸森さんが、「人生の心の拠り所」として20年以上にわたり敬愛し続けているのが、シンガーソングライターのKOKIAさんです。
戸森さんの作家生活10周年、KOKIAさんの独立20周年を祝して開催されたスペシャル対談。後編ではKOKIAさんが子育てから生まれた作品づくりや戸森さんの「会社員×作家」のバランス、そして長く表現活動を続けるための秘訣に迫ります。
本が苦手な私が3回泣いた理由
KOKIA:じつを言うと本を読むのがすごく苦手で、活字を声に出して読まないと頭に入ってこないタイプなんです。子どものころも、絵本をピアノの譜面台に置いて、絵から流れてくる音楽を即興で弾いて遊んでいたくらいで。
戸森:なんと……! 生まれながらの音楽家ですね。
KOKIA:そんな私なのですが、しるこさんのデビュー作『ぼくたちのリアル』を読んで、3回も泣いてしまったんです! 「私、この厚さの本を読めるんだ!」と自分でもびっくりしてしまいました(笑)。
戸森:嬉しいです! どのあたりで涙してくださったのでしょうか。
KOKIA:3人の男の子の、心の揺れ動きですね。なかでも一見明るそうに見える璃在(リアル)が、心の中に大きな葛藤を抱えているとわかっていく描写に、ものすごく引き込まれました。私自身、どんなときも明るく振る舞うことを心掛けているので、リンクして胸に迫るものがありました。
戸森:音楽で繊細な心の機微を描き続けてきたKOKIAさんにそう受け取っていただけて、本当に光栄です。リアルは最初、もっと明るい子だったんですよ。でも新人賞の選考委員の方から「もう少し影があるはずだ」とアドバイスをいただいて、改稿を重ねて深みのあるキャラクターに変更したんです。
KOKIA:そうだったのですね。素敵な物語を読ませていただき、ありがとうございました。そういえば、『れんこちゃんのさがしもの』(福音館書店)に登場する男の子の名前は、うちの息子からつけてくださったんですよね。
戸森:はい、KOKIAさんの息子さんの「れおくん」のお名前からいただきました。私の作家デビュー年と、れおくんがお生まれになった年が同じ2016年というご縁もあるんです。
KOKIA:しるこさんから本をいただいたとき、「こんな素敵なことがあるんだ」と感激して、息子にも何度も読み聞かせました。うちのれおも今年で10歳、しるこさんの作家生活と一緒に大きくなってきました。
戸森:KOKIAさんも、お子さんが生まれてから子ども向けの楽曲や絵本を発表されていますよね。
KOKIA:子どもが生まれたとき、音楽活動の軸は保ちつつ、子育てという新しい体験を表現の引き出しにできないかなと考えたんです。そこで始めたのが「動物シリーズ」でした。子どもって「トントン」「ザーザー」といったオノマトペや繰り返しの言葉が大好きじゃないですか。そういった言葉を盛り込んだ歌をつくりたかったんです。
戸森:動物シリーズ、たくさんありますよね! 私は特にカバやクジラ、ワタリドリの歌が好きです。
KOKIA:カバの曲は、うがいをテーマにつくりました。うちの子はうがいが苦手だったので。「動物シリーズ」は、気づけば40曲以上つくりましたね。絵本『ママのだいじさん』は、息子に添い寝しながらスマホの画面で絵を描いたんですよ。「赤ちゃんをほったらかしにして絵本をつくったら意味がない!」と心に決めたんです(笑)。
戸森:添い寝しながらスマホで! そのバイタリティ、本当に尊敬します。
長く表現を続けるふたりの「秘訣」
戸森:最後にお伺いしたいことがあります。KOKIAさんは今年で独立20周年とのことですが、長く表現活動を続けるコツはありますか。
KOKIA:「続けよう」とか「成功しよう」という気持ちは、浮き沈みのある気持ちなので、あまりあてにしていません。大切なのは、自分の中に「伝えたい」という火を絶やさないことでしょうか。私は日々あった何気ない出来事を、ピアノの前で日記のように歌にして昇華してきました。その積み重ねが、気づけば28年という時間になっていたという感覚なんです。
戸森:素晴らしいですね。KOKIAさんの創作の姿勢を見習いたいと思います。
KOKIA:しるこさんはいかがですか。
戸森:書きたくないときは書かないこと、ですかね。そのために、会社員としての本業をずっと大切にしています。専業作家になると、私の場合は「生活のために書かなければ」という義務感が生まれて、逆に書けなくなりそうですが、私は書きたいときにだけ、楽しみながら書きたいんです。
KOKIA:なるほど。そのバランスって大事ですよね。
戸森:中学2年生の教科書に掲載された「セミロングホームルーム」(三省堂「現代の国語2」)というお話があります。ホームルーム中に、同級生の背中にセミがついているっていう話なのですが、これは会社で上司の背中に本当にセミが止まったハプニングから生まれたお話なんです(笑)。そういう楽しいネタに出会えるのも、兼業作家のいいところだと思います。
KOKIA:そうですね。私も日々がネタになっています。今日はしるこさんとお話しして、表現者として通じるところもあって、楽しい時間でした。ありがとうございました。
戸森:こちらこそ素敵な時間をありがとうございました! KOKIAさんの歌を胸に、これからも作家活動を頑張りたいと思います。


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山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。