『バッテリー』や『NO.6』など数々の名作を世に送り出してきた作家・あさのあつこさんが、「登場人物に血があり、肉があり、心がある」「人をこうやって描ける作家さんはすごい」と感嘆した一冊があります。それが、新人作家・ひなたきなさんのデビュー作『放課後死体クラブ(仮題)』です。
児童文学界の第一線を走り続けるあさの先生の心を、新人作家が生み出した物語はいかにして捉えたのでしょうか。スランプから生まれた起死回生の舞台裏から、プロとして書き続けるための覚悟まで、熱い対談の模様をお届けします。
小学生のとき、死体役の練習をしていました
あさの:『放課後死体クラブ(仮題)』を読ませていただきました! 主人公のひよりとクラスの嫌われ者の由木(ゆき)が、死体を練習するっていうアイデアがまず斬新ですよね。ふたりの関係は仲間意識とも友情とも少し違う。でもお互いが理解を少しずつ深めていく、そんな関係性に魅力を感じました。
ひなた:ありがとうございます。じつは『放課後死体クラブ(仮題)』は、スランプから生まれた作品なんです。講談社児童文学新人賞に10回以上応募し、2024年に初めて最終選考に残していただいて。「いよいよだ!」と思った矢先、落選の通知を受けとりました。
あさの:それはショックですね。
ひなた:はい。そのときにもう何を書けばいいのか、わからなくなってしまって。一度新人賞のことは置いておいて、とりあえず何か書かなきゃいけないと思いました。そこでずっと頭の中にあった、女子生徒ふたりが死体のふりをしていて、クラスメイトが逃げていくシーンを物語にすることにしたんです。
あさの:そのシーンは、どうしてひなたさんの中にあったんでしょう。
ひなた:小、中学生のころホラー映画が好きで、私自身が死体役の練習もしていたんです(笑)。
あさの:なるほど! 実体験に基づくお話だったんですね。
ひなた:はい。道徳的にダメだろうと思って、作品にはしてきませんでした。でも女子生徒ふたりが死体のふりをするシーンを入れざるを得ない設定をつくればいいんだ、と考え方を変えていったんです。
あさの:そうなんですね。私も小説を書くときは、いくつかのシーンが先に頭に浮かぶのでわかります。お話を伺っていて『放課後死体クラブ(仮題)』が書けたのは、ひなたさんがひよりという主人公に巡り会えたからなんでしょうね。
ひなた:そうかもしれません。ひよりは私自身でもあるんです。
あさの:そうですよね。ひよりという人物にリアリティがあるから、彼女が死体のふりをすることがふさわしく描かれている。それはひなたさんに、書き手としての力量があるからだと感じました。
ステレオタイプの人物では、作品は面白くならない
あさの:主人公の魅力もさることながら、私は登場人物の凛珠(りず)にすごく惹かれました。他の女子を扇動して、由木に嫌がらせをする女の子です。でも凛珠の思わぬ一面を知る台詞が後半にあって。この文章を読んで「この子には血があって、肉があって、心がある」と思えました。
ひなた:とても嬉しいです……! 私は設定でお話を進めがちで、人物を書くのが苦手で。だから『放課後死体クラブ(仮題)』も、何度も登場人物の描写を書き直しました。特に凛珠は難しかった。最初は典型的な一軍の女の子になってしまっていたので、人間らしくするために試行錯誤しました。
あさの:苦手とは気づきませんでした。「こんなふうに書けるひなたさん、すごいな」って感心していましたよ。たとえば、どんなことを試しましたか。
ひなた:インフルエンサーの子たちのTikTokをいっぱい見ました。動画についたコメントを読んで「10代の子はこういうコメントもらうと、どんな気持ちになるんだろう」と想像しながら凛珠をつくりあげていきました。
あさの:その過程で、ひなたさんの中にある凛珠に行き当たったのでしょうね。どんな作品でも登場人物が典型的なステレオタイプだと、あのように面白くはなりません。『放課後死体クラブ(仮題)』に出てくるひより、由木、凛珠は、みんな心に食い込んでくる子たちでした。ひなたさんは、そういう少女を生み出した自分を誇っていいのではないかと思います。
ひなた:あさの先生に褒めていただき、光栄です。いまはやっと自分の作品が読者の方に届けられたことが、何よりの喜びで。読者の方からいただいた感想を読んだときは、涙がとまりませんでした。
あさの:読者の方からのメッセージには、励まされますよね。私もいつも力をもらっています。
執筆は「シャベル」で自分を掘り続ける作業
ひなた:あさの先生にお伺いしたいことがあります。『NO.6』も『バッテリー』も『ガールズ・ブルー』も、あさの先生が描く人物は、深みがあって魅力的です。特に『NO.6再会』では、ネズミに人間らしい弱さや揺らぎが描かれていて目が離せません。あさの先生の描く人たちは、どんなきっかけで生まれるのでしょうか。
あさの:先ほど「ひよりは私自身」とおっしゃっていたけれど、まったく同じではありませんよね。自分の一部は書けたけど、ほかにも「書きたい人間」が埋もれているんじゃないでしょうか。
ひなた:たしかに、そうかもしれません。
あさの:ひなたさんはきっと『放課後死体クラブ(仮題)』で、自分を掘るためのシャベルを手にいれたはず。自分を掘るための道具、あるいは武器と言えるかもしれません。私はこのシャベルで、ずっと自分を掘り続けているんです。
ひなた:なるほど。だからあさの先生の描く人物には説得力があるのですね。
あさの:作家業を35年続けている立場から偉そうなことを言わせてもらえるなら、ひなたさんにはそのシャベルで掘るべき場所を、きちんと見極めてほしいなと思います。そして誰に何を言われても「私はこの人を書きたいんだ」って言い切れる強さを持つことも大切。デビュー作や生み出してきた人たちに対して、恥じない書き方を続けてくださいね。
ひなた:アドバイス、ありがとうございます! ちゃんとした作品が書けるか不安で、揺らいでしまうこともあるんですけど、登場人物に責任を持って書きたいと改めて思いました。
あさの:揺れない人にいい作品書けないですから。揺れて揺れて、時には見失って、その中で書くことを諦めなかった人だけが残っていくんだと思います。頑張ってください。
ひなた:はい! 映画がずっと好きなので、これからも精進して、いつか映像化できる作品を書きあげたいと思います。本日はありがとうございました。
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あさのあつこ原作の近未来SF小説『NO.6』。TVアニメ放送15周年を記念し、2027年6月6日(日)スタァライト劇場にてスペシャルイベントの開催が決定!
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山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。