
【女の子の脳は両親に似る】脳が似ていると行動・思考・性格も似るのか 親子の脳の新事実
脳科学から迫る親子の脳の「かたち」 #2 (3/3) 1ページ目に戻る
2025.11.07
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教:松平 泉
脳が似ている=行動・思考・性格の類似性につながる?
──脳が似ている=親子で行動や思考、性格が同じということなのでしょうか。
松平先生:その点に関しては、はっきり「同じです」とはいえません。
今回、言語能力を測定するテストも行っていますが、言葉を使う力が似ている度合いと親子の脳が似ている度合いが一緒かと問われると、ほんの一部のみ関連性が確認できただけなので、脳が似ているから言動や思考が似ているとは言い切れません。
現時点では、脳が似ているのは事実だけれど、それだけで親子間の行動や考え方はリンクするわけではないというのが結論です。
ただし、今後、領域ごとの脳のつながりであったり、もっと脳自体を多角的に分析して別な角度から似ていることが見出せたら、行動が似ていることなどとの関係性がわかるかもしれません。親子の脳が似ている・似ていないに関する研究は、裾野の広い分野です。
親子の脳の「かたち」は子育てのヒントになる可能性も
──先生のグループが解明した親子の脳の類似性は、今後、子育てに関してはどのような役割が期待できるのでしょうか。
松平先生:一番は精神医学の分野で役に立てると思います。精神的な不調が親子間で続くことを「世代間連鎖」といいますが、それに対して貢献できると考えています。
たとえば治療薬だったり、カウンセリングの方法だったり、治療法やケア法を早く見つける助けになるのではないかと思っています。
医療以外では、お子さんがかんしゃく持ちだったり、落ち着きがないといった様子に対して、親子の脳の理解を深めることで子どもの行動や感情にさらに踏み込んだ対応策を考えられるかもしれません。
──たとえば、大谷翔平選手といった理想の人がいて、その人に近づきたいと思った場合、脳の研究が進むことで我が子の夢をかなえる方法にも変化が起こることはあり得るでしょうか。
松平先生:実をいうと、なりたいものに近づく方法を脳から見出すことができるのではないか……と密かに思っています。今はまだ、親子の脳の類似性については研究が始まったばかりなので遠いことかもしれませんが、現在の研究を進めていけば、脳を知ることでどこかで道が開けてくる可能性はあります。
親子の脳の類似性に関する研究は次の段階へ
──先の論文では、親子の脳の類似性について、その入り口を発表されたと思います。今後はどのような研究に深化するのでしょうか。
松平先生:今回は、お子さんの年齢が15歳以上の「親子トリオ」のデータを使って分析したわけですが、「トリオジュニア」と称して、小学5年生から中学3年生のお子さんとそのお父さん、お母さんという組み合わせのデータも収集しています。
「親子トリオ」で行った分析を、次は「トリオジュニア」でも行う計画をしています。
小学5年生から中学3年生のお子さんの脳は、大きさもかたちも変化している最中なので、おそらく、成熟した段階での親子間の脳とはまた違った結果が得られるのではないかと期待しています。
─・─・─・─・─・─・─・─・─
親子関係と子どもの脳の発達にはどのような影響があるのか、というところから親子トリオでの研究をスタートさせた松平先生。
今回発表された研究では、父親も含めたデータを分析することにより、子どもの脳には「父親にのみ似る領域」「母親にのみ似る領域」「両親に似る領域」「どちらにも似ない領域」が存在することなどを発見しました。
親子の脳の類似性に関する研究は、医療や子育てなど、さまざまな分野での応用が期待され、次の研究発表も世界が注目する成果になるに違いありません。親子間の「似ている」が脳科学からさらに解明され、再び驚かされる日も遠くはないでしょう。
取材・文/梶原知恵
─◆─◆─◆─◆─◆─◆─
◆松平泉(まつだいら いずみ)
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教
専門は発達認知神経科学。『家族の脳科学』のプロジェクトにおいて、父・母・子の3人1組=親子トリオの脳や遺伝子からその関係性を分析し、人間の個性の成り立ちを解き明かす研究をしている。親子の脳の「かたち」が似ていることに関する成果は、世界初の研究として注目されている。
【脳科学から迫る親子の脳の「かたち」】の連載は、全2回。
前回を読む
【関連書籍】



梶原 知恵
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。


































松平 泉
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教 専門は発達認知神経科学。『家族の脳科学』のプロジェクトにおいて、父・母・子の3人1組=親子トリオの脳や遺伝子からその関係性を分析し、人間の個性の成り立ちを解き明かす研究をしている。親子の脳の「かたち」が似ていることに関する成果は、世界初の研究として注目されている。 家族の脳科学
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教 専門は発達認知神経科学。『家族の脳科学』のプロジェクトにおいて、父・母・子の3人1組=親子トリオの脳や遺伝子からその関係性を分析し、人間の個性の成り立ちを解き明かす研究をしている。親子の脳の「かたち」が似ていることに関する成果は、世界初の研究として注目されている。 家族の脳科学