【漢方の専門医が教える】子どもに処方される「漢方薬」との上手な付き合いかた

漢方医学は古くから親子関係に着目していた  親子のための漢方医学レッスン #2

漢方薬には煮出して飲む煎じ薬や錠剤といった剤形もありますが、処方される漢方薬はほとんどが顆粒のエキス製剤です。  写真:Pixta

医学には西洋医学のほかに東洋発祥の漢方医学もあり、子どもの病気治療に利用されています。科学的根拠をもって原因を排除する西洋医学と違って、漢方医学のメリットは、身体的なことだけでなく心の状態を踏まえながら症状に向き合っていくところです。

子どもの病は、時として生活環境や親子関係などの背景こそが重要なことがあります。そのため、病気治療の選択肢として漢方医学を知っていて損はないものの、馴染みがないために距離をおいてしまうという親子もいるはずです。

小児科専門医であり、漢方医学にも通じている草鹿砥宗隆(くさかどむねたか)先生は、西洋医学と漢方医学の両視点から診療にあたっている医師です。

漢方医学、ひいては漢方薬との上手な付き合い方を教えていただきます(全3回の2回目、#1を読む)。

子どもによく処方される漢方薬とは?

漢方薬は、そのほとんどが薬の効能がある植物や動物、鉱物から作られた生薬(しょうやく)が2種類以上組み合わされて作られている、いわゆるブレンドされた薬です。

無数の種類がありますが、そのうち日本では一般用漢方製剤として294処方が承認されています。そのうち、医療用漢方製剤(保険診療で処方できるエキス製剤)は148処方です。

煮出して飲む煎じ薬や錠剤といった剤形もありますが、一般的にはエキス製剤といわれる顆粒の薬が処方されるでしょう。ここからは子どもによく処方される漢方薬の一部を紹介します。

子どもによく用いられる漢方薬

五苓散(ごれいさん)
味:やや辛味

服用方法:水分に溶かしての服用が一般的。ただし吐き気が強いときは水分に溶かさず、顆粒を少しずつ舐めさせて服用させる(吐き気があるときに水分摂取すると吐いてしまうため)

注意事項:上記のように服用方法は状況により工夫が必要。処方医の指導どおりに内服を

たくさんの種類が存在する漢方薬の中で、よく子どもに用いられ、親御さんも耳にするだろう薬は「五苓散」です。

五苓散は漢方医学的にいう「水毒(すいどく)」を改善するための基本処方です。腸感冒のときに嘔吐や下痢症状が出現しますが、嘔吐物や下痢便がまさしく「水毒」です。

特に嘔吐しているときに少しずつ顆粒を舐めさせて、体内の水毒がさばけると吐き気が止まります。従って吐き気止めとして重宝する薬であり、整腸剤などと併用するとより効果的です。

また、親御さんの中には天候が悪いときに頭痛やめまい症状を訴える方がいます。よくお天気頭痛と表現されることがありますが、この症状も水毒が原因と考えられます。このような症状にも五苓散の効果が見込めます。

脱水症状など西洋医学的に対応しなければならない症状や状況はありますが、医師が漢方医学にも通じていると目の前の悪い状況から早く脱するために、漢方薬での医療提案をすることができます。

小建中湯(しょうけんちゅうとう)
味:甘味

服用方法:お湯に溶かして温服

注意事項:冷飲食や胃腸に負担がかかるものの摂取を控える

小建中湯もおなかの症状がある場合に頻用されます。おなかが冷えるなどして腹痛を起こしたり、緊張するとおなかが鳴って下痢をしたりするなど、元来おなかが弱いと表現される状況にはうってつけです。

小建中湯を服用するときは、おなかを冷やさないことが大切なので、もし処方されたら冷飲食を控え、おなかが温まるように生活環境を整えてください。

また、便秘や女性の月経困難にも処方することがあります。おなかの症状でも漢方薬にはさまざまな方向性の薬があるので、相談してみるといいでしょう。

小建中湯は甘味の薬なので、子どもにも受け入れやすい薬です。

補中益気湯(ほっちゅうえっきとう)
味:甘辛味

服用方法:お湯に溶かして温服することが一般的

注意事項:胃腸に負担がかかる飲食は控えること

元気の「気」が足りないことを漢方医学では「気虚(ききょ)」といい、疲れやすさや食欲不振が見られる状態です。そして、漢方薬には気虚の改善を目指し、元気をつける薬があります。

そのひとつが補中益気湯です。前述の小建中湯も同様に気虚を改善する漢方薬ですが、小建中湯はおなかを温める効果があります。

元気になるにはご飯をしっかり食べて、その栄養を体に行き渡らせることが大切です。反対に栄養を吸収する効率が悪いと元気が体を覆ってくれなくなるため、体力や免疫力が低下して風邪やそのほかの病気にかかりやすくなります。

補中益気湯は、消化吸収機能を高めて身体を充実させてくれる漢方薬です。

六君子湯(りっくんしとう)
味:甘辛味

服用方法:お湯に溶かして温服することが一般的

注意事項:胃腸に負担がかかるもの、過剰な水分摂取を控える

六君子湯も胃腸の調子が悪いときに使用する漢方薬です。小建中湯のような温める効果はなく、補中益気湯よりも胃にポチャポチャと水が溜まっているようなときに使用します。

漢方医学ではおなかの症状についてだけでも、最低この程度の使い分けは必要であり、逆にいえば状態に合わせて細やかな使い分けが可能です。実際の漢方診療では胃腸症状があるときは20~30処方程度は区別して処方しています。

消化吸収機能は人体の機能の中でも特に重要です。元気を充実させ健康的な生活を送りたいものです。

漢方薬を他人にあげたり、もらったりするのはNG

同じ病気、同じような症状があったとしても、漢方薬をあげたりもらったりするのはNGです。体質や体の状態によってその人に適している漢方薬は違うので、たとえ家族間、きょうだい間でも共有は控えましょう。

漢方薬は医師や薬剤師に相談してから服用することが重要です。

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