妊娠中「コロナとワクチンの不安」感染症に詳しい産婦人科医が分かりやすく解説

感染症の基礎知識

山口 真央

妊娠中にワクチンを打って良い?感染症に詳しい産婦人科医の茨木保先生にお聞きしました(写真:アフロ)

【改良型ワクチンの接種開始、年内に接種完了を目指す】
2022年9月14日に厚生労働省が、新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した、改良型ワクチンの接種を、9月20日から始める方針を決めました。

4回目接種となる60歳以上の高齢者や基礎疾患のある人、医療従事者などが優先ですが、10月以降は2回目の接種までを終えた12歳以上に拡大します。各自治体へは、希望者へ年内の接種完了を求めています。

コロナ禍でも、妊娠・出産を検討している人も多いはず。しかし「妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合に、どのようなリスクがあるか?」はあまり知られていません。

そこで、現役の産婦人科医で、感染症医学にも詳しい茨木保先生にインタビュー。妊婦が新型コロナウイルスに感染した場合のリスクや、感染症を発症するそもそもの理由、免疫力を高めるためにできること、などをうかがいました。

茨木保(いばらき・たもつ)1962年生。奈良県立医科大学卒。産婦人科医。いばらきレディースクリニック院長。1987〜1989年、京都大学ウイルス研究所で発癌遺伝子の分子生物学的研究に携わる。漫画家・イラストレーター・監修者としても活躍。最新刊は感染症医学を大きく前進させた北里柴三郎の伝記『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』】

いまさら聞けない!「感染症」って何?

◆新型コロナウイルスに妊婦が感染した場合、特別な治療法はありますか。また、胎児にどのような影響があるのでしょうか

「現在は、妊娠の有無に関係なく、新型コロナウイルスに感染したときは、基本的に自分の持っている抵抗力や免疫力で治していくしかありません。

実際、私のクリニックに来ている妊婦さんにも、新型コロナウイルスに感染した方がいましたが、妊婦でも服用できる解熱鎮痛剤を服用して療養していました。

妊婦が新型コロナウイルスに感染した場合、胎児に先天異常が起こる可能性は低いとされていますので、過度な心配は避けましょう。

ただ、妊娠後期に感染した場合、本人の重症化や早産の可能性が高くなるといわれているので、早めにかかりつけの医師を受診することをおすすめします」

◆そもそも「感染症」とは何ですか

「前提として、生き物の体には、あちらこちらから細菌やウイルスが入りこむもの。体内に入っても、悪さをしない細菌やウイルスもたくさん存在します。体内に入った細菌やウイルスが増殖することを「感染」、その結果なにかしらの不都合が起こることを「感染症」といいます。

ウイルスが引き起こす感染症は、新型コロナ、インフルエンザ、ノロウイルス感染症など。細菌が引き起こす感染症には、コレラ、百日ぜき、ペストなどがあります」

ペスト(『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』著:茨木保 より)

◆ウイルスと細菌、感染するとコワいのはどっち?

「ウイルスと細菌、それぞれが引き起こす感染症を比べて、どちらがよりおそろしい病かを判断することはできません。

しかし、ウイルスと細菌の特徴を比べてみると、細菌は、自分自身で代謝したり増殖したりすることができる生命体であるため、研究しやすく、抗菌薬などの開発が進んでいます。

それに比べてウイルスは、もっとうんと小さいもの。自力で増殖することはできず、細胞のなかに入り込み、その性質を利用して増えるので、研究が難しいとされています」

細菌とウイルスの特徴(絵:茨木保)

「また、より居心地のよい場所を探して、変異していくのもウイルスの特徴。最初は動物から動物にのみ感染していたウイルスが、変異を繰り返し、動物から人、人から人へと感染するようになる、というパターンもあるため、医療の対応がすぐには追いつけないこともあります。」

「免疫力」を高めて感染症に負けない体に!

◆人が感染症に打ち勝つことはできないのでしょうか?

「2020年に新型コロナウイルスが発見されてから(※)、2022年8月現在、いまだに決定的な抗ウイルス薬を手に入れることはできていません。

(※編集部注:2019年12月、中国武漢市で原因不明の肺炎が発症、2020年1月、WHOが新型コロナウイルスを確認)

しかし人類の歴史をたどってみると、過去にも数多くの感染症が人々を悩ませ、そのたびに研究者たちが試行錯誤を繰り返し、新薬や治療法を開発してきました。

日本の医学界でもっとも感染症治療に貢献したのは、北里柴三郎です」

北里柴三郎(『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』著:茨木保 より)

「北里は、動物に病原体を打って抗体をつくり、それを抽出してヒトの体に入れることで、毒素を中和する「血清療法(けっせいりょうほう)」を編み出しました。この方法は現在でも、毒蛇に咬まれたときなどに使われています。

新型コロナウイルスに対する抗体カクテル療法も、血清療法を応用した方法です。

北里が治療法がない感染症の対処法を生み出したように、いまも多くの研究者たちが、新型コロナウイルスに抗うべく研究を続けています。いまは彼らの努力を信じながら、自分ができることをして待つしかありません。」

◆感染症から体を守るためには、どうしたらいいですか

「まずは、ワクチンを打って、ウイルスや細菌が入りにくい体をつくるのが一番でしょう。新型コロナウイルスのワクチンだけでなく、国が推奨している感染症のワクチンは、すべて打つことをおすすめします。

感染症のなかには、体内に潜伏するウイルスによって、症状が現れるということもあります。

子どものときに水疱瘡(みずぼうそう)にかかった人が、免疫力が下がったときに帯状疱疹(たいじょうほうしん)を発症するのもそのケース。大人になってからワクチンを打って、免疫を追加することもできます。また、日々の生活を見直して免疫力を高めることもできます」

適度な運動は免疫力アップに効果的(写真:アフロ)

「たとえば、適度な運動。体を動かすと体温が上昇しますが、体温が1℃あがるだけで、免疫力が30~40%上昇するといわれています。

また、腸には免疫細胞の60~70%が集まっているため、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を食べて、腸内細菌を整えることにも、免疫力を高める作用があるようです。

昔から「病は気から」といわれますが、ポジティブ思考の人は免疫力が高いことがわかっています。まだまだコロナ禍は続きますが、心配しすぎるのは体に悪影響。心と体は密接につながっています。

情報に振りまわされずに生活習慣を見直し、感染症にかかってしまったら、早めにかかりつけの医療機関を受診し、適切な対処をすることを心がけてください」

【あわせて読みたい】
妊娠中にコロナ感染…胎児への影響は? 産婦人科医が気になる疑問に回答

■茨木 保(いばらき・たもつ)
医師、漫画家。1962年生まれ。1986年、奈良県立医科大学卒業。同年、奈良県立医科大学 産婦人科医局に入局。1987〜1989年、京都大学ウイルス研究所で発癌遺伝子の分子生物学的研究に携わる。1989年、週刊ヤングジャンプ増刊号にSF短編「遠い手紙」を発表しプロデビュー。以後、数多くの新人賞に入賞。1999年、大和成和病院婦人科部長。2006年、いばらきレディースクリニックを開業。
医師として臨床医学に携わりながら、漫画家・イラストレーターとして医学書・看護学書を中心に活躍。著書に『まんが医学の歴史』(医学書院)、『まんが人体の不思議』(ちくま書房)、『間(あわい)~産婦人科医那須悠介のカルテ〜』(アメージング出版)、『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』(講談社)など多数。
医療監修・取材協力したドラマ・映画作品は『Dr.コトー診療所』『コード・ブルー  ドクターヘリ緊急救命』『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』『ルパンの娘』など。

北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす(著:茨木保)
iPS細胞と人体のふしぎ33(著:小野寺佑紀、監修:茨木保)
いばらき たもつ

茨木 保

Tamotsu Ibaraki
医師・漫画家

医師、漫画家。1962年生まれ。1986年、奈良県立医科大学卒業。同年、奈良県立医科大学 産婦人科医局に入局。1987〜1989年、京...

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生ま...