中流家庭からプチセレブ一家へ嫁いだライター・華子。愛娘は自分と同じ普通コースで育てようと思っていたものの、義母の一言から、小学校受験への道が始まりました。
まったく未知だった東京のお受験は、庶民にはわからないことだらけ! 受験マニュアルには決して書かれていない(書けない)、お受験の赤裸々な裏話をお伝えします。
第7回は「ママ友のサバイバル社交術」です。
ママ友社交術のテッパン「ほこ先そらし」
「お受験のママ友」と聞くと、ライバル意識バチバチ、ママ同士の激しいバトルを想像するかと思います。
たしかに、そんなママたちもいることはいますが、実際、そんな人たちはごく一部。思うに、通常の社会生活で遭遇する“困ったヒト”と同じ程度、だいたい全体の1割くらいではないでしょうか。むしろ、私の周りのママたちは、世間のイメージとは逆に、敵対どころか水面下で手を組み、協力し合い、助け合って生きていました。
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しかし、一部、悩ましいママがいるのは確かです。通常の大人社会であれば距離を置けばいいだけなのですが、距離が取れないほど狭小なのがまだ未就学の子ども社会。子どもが中心にいるため、どんなにやっかいなママでも我慢して上手く付き合っていかなければならない。そんなハードな環境で生きていくためには、卓越したサバイバル社交術が必須だったのです。
なかでも、もっとも簡単なワザは「ほこ先そらし」です。それは、自分に向けられる意識を他へ向けさせる術。つまり、共通の敵を作り、自分を同じ“敵と戦う仲間”と認識してもらう作戦で、そこには、これ以上ないほど適したターゲットが存在していたのです。
それは、ズバリ“夫”です。
お受験業界に生きるママにとって、この“夫”の悪口ほど、ストレスを解消できるネタはありません。この世界では、これまで男子同様に努力して得た学歴や社会的地位は全く通用せず、求められるのは時代錯誤な“良妻賢母”像ばかり。あらゆる場面で「母親次第」「合否を左右するのは母親」などと、母方ばかりにプレッシャーをかけられ、過酷なノルマが課される。そんなお受験業界の「男女不平等な価値観」に、心底疲弊しているママたちの不満のほこ先が、ふと気付けば“男”というだけで難を逃れている“夫”へ向くのです。
そんな“夫”の悪口は、多種多様な人材が集まるママ友コミュニティーで、みんなが心をひとつにして盛り上がれる、もっともピースフルなトピック。この話題に敵味方や上下関係は存在しません。おそらく、国や宗派を超えるほどワールドワイドでママたちが結束できるテッパントークなのではないでしょうか。
だからといってリアルに“夫婦の危機”のような重たい話をするのではありません。あくまでも、子どもが幼稚園に行っているわずか2〜3時間の間にみんなで楽しくグチれる、お茶菓子レベルのソフトな話にとどめるのが暗黙のルールです。たとえば……
お受験することはお互い合意のはずなのに、なぜか他人事のような夫。そもそも、大多数が社会人経験者である現代ママからすると、家事&育児より外で働く方が“断然ラク”。なのに、そんな“ラクな方”を取っている夫が、なぜ、ひとり「大変だった〜」感を出し、帰宅後にリラックスモードに突入できるのか。こっちは朝から息つく暇もないくらい動きっぱなしなのに。たま〜にふれる程度の家事をしたり、子どもの面倒をみようものなら、もうそれだけでドヤ顔。はぁ?
……てなことをグチり合うのです。もう盛り上がる、盛り上がる!
「うちのかわいい妻はそんな話には参加しないだろう」と思っている殿方がいたとしたら、相当おめでたい。第三者から見たらどんなに円満で仲良しそうな夫婦でも、私の周りでこの話題を嫌がったママは現在まで1人もいません。
ひとたびこの話が出ると、みんな嬉々として話の輪に加わる。そこは安らぎのユートピア空間。ほんの少しの罪悪感や秘密を共有することで、やたら結束感が強まり、たとえ犬猿の仲のママ友であっても、一時休戦して和平協定を結ぶことすらあるのです。それは「敵の敵は味方」に似ている関係性。そんなテッパンネタを絶妙なタイミングで投入し、適度なガス抜きを図ることが、ママ界で起こる暴発や紛争を避けるために、必要不可欠だったのです。