「 一生分の運をつかってデビューした!」2児の母・めんたまんたさんの「今日一日がんばってみようかな」と思えるシュルかわ絵本

クセになるお野菜キャラ! おじさん顔の小学1年生「ひげとうもろこしくん」こうして生まれた

奇跡のデビュー? 「ひげとうもろこしくん」が生まれたわけ

──「無名のイラストレーターが、一生分の運をつかってデビューした」とおっしゃっていますが、ずばり、今どんなお気持ちですか?

不思議な気持ちです。人生なにがあるかわからないなと。絵を描いて暮らせるようになったことも奇跡的でしたが、さらに絵本を出すこともできるとは。運を使いはたしたとしか思えません。いろんな転機と、地道な努力と、ただひらすら強運が重なってここにつながったと思うので、今はそのすべてに感謝しています。

自分が読者でいるときは、絵本づくりがこんなに大変だとは思いもしませんでした。絵本って、こんなに何度も迷って、いったりきたりして、試行錯誤の末にできているんですね。決まったページ数の中に入れたいことを全部入れつつ、ひとつの物語としてうまくまとめていくというのは、本当に難しかったです。

本をつくるのって大変だ! と思うと同時に、たくさんのおもしろい作品を世に生み出している人たちのすごさが身に沁みた1年半でした。

自分がその世界のはしっこのほうに入れたことが、とても恐れ多く、でもわくわくもする、そんな気持ちです。

──それにしても、「めんたまんた」さんておもしろいペンネームですが、その由来は?

もともとはただのTwitter(現X)のアカウント名なんですが、由来としては、ずばり「めんたくん」です。デハラユキノリさんの明太子モチーフのキャラクターなんですが、『めんたくんのたんじょうび』(作/デハラユキノリ 長崎出版)を読めば、「めんたくん」がなにものなのかよくわかります。

Twitterが流行り始めた大学生のころ、私はこの「めんたくん」に夢中で、アカウント名に「めんた」を入れました。「まんた」は、「めんた」と相性のよさそうな言葉をなんにも考えずにつけ足しただけでした。

最初は個人的なTwitterアカウントでしたが、そこにエッセイ漫画やイラストを載せるようになり、いつしか「めんたまんた」がイラストレーターとしての活動名に。仕事が軌道に乗れば乗るほど、こんなペンネームでいいんだろうかと思うようになり、真剣に悩んだ時期もありました。でもちょっとでも「めんたまんた」を覚えてくれている人がいるならと、改名する勇気が持てず……。いつのまにか「めんたまんた」で絵本作家としてもデビューしてしまいました。

最初から、イラストレーターとしてのペンネームを考えるぞ! と思っていたら、こんなおかしな名前にはしなかったと思います。でも本名はありふれた名前ですし、絵の世界観とも合っていると言われるので、今はこれでよかったんだろうと思っています。

──「ひげとうもろこしくん」を描き始めたのは?

講談社の編集者から突然「絵本をつくりませんか?」というお誘いがありました。キャラクターの絵本をつくりたいというお話でした。いろいろ考えましたが、野菜をモチーフにしたのは、野菜は食べるのも描くのも好きだったからです。スーパーに行けば袋の中身は大半、野菜になりますし、料理を作ればレシピにない野菜を次々と足してしまう。今、ペンネームを考えたとしたら「おやさい」が入りそうな勢いで野菜好きなんです。

トマト、にんじん、ピーマン、たまねぎなど、どれが主人公になってもいいようにキャラクターを考えていたんですが、なかでも特に気に入ったのが、とうもろこしのビジュアル。髪の毛が長くて、眉毛もひげもあって、描き出した野菜キャラクターのなかでもいちばんかと。なんだかすごく気になる存在感があったんです。
最初に描いたとうもろこしのラフ
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絵本づくりの打ち合わせをしていたとき、編集者から「ひげづらだけど、それはとうもろこしのひげであって、子どもなんですよね」と言われ、それだ! と思い、「ひげづらだけど子ども」という設定に。ちょうど長男が保育園から小学校に入学するタイミングだったので、舞台は小学校にしました。野菜が小学校に通ったらどんなことが起きるか? キーワードは「ひげとおじさん」でした。子どもはひげが好きですしね。

2人の子どもを育てながらの絵本づくり

──0歳と6歳のお子さんの子育てをしながらの絵本づくりでしたよね?

やっぱり大変でした……。出産して子どもが2人になり、つねにどちらかが病気になるような状態で。とくに秋冬は、手足口病、りんご病、胃腸炎、インフルエンザなど、たくさんの病気にかかりました。なかなか予定どおりにはいかないですね。

絵が描けるのは、子どもが保育園と小学校に通っているあいだ、9時から16時まで。毎日あっというまでした。次男が0歳のあいだは夜中のミルク対応もあったので、ねむたい頭を奮い立たせて絵本づくりと向き合うことも多かったです。

でも、子どもから気づきを得られることも多く、何より完成した絵本を楽しんでもらえることがうれしくて、子育て真っ最中に絵本を作ることができたのは、すごくラッキーだった、いいタイミングだったと思っています。

──絵を描いているめんたまんたさんを見て、お子さんはどんな反応を?

長男は学校から帰ってくるたび、「できた?」「もう絵本できた?」ときいてきました。「まだ」と答えると「続きを描いてあげる」とも。完成を楽しみにしてくれているようでした。
長男が「続き」を描いてくれたラフ(絵本の30~31ページ)
実際に完成した絵(絵本の30~31ページ)
前とちがった展開になっているとすぐに気がつき、残念がったり、それもいいねと言ってくれたり。要所要所での読み聞かせにも付き合ってくれたので、子どもにはこの言葉は難しいんだな、ここが気になるんだなと、絵本づくりの大きな指針になってくれました。

ひげとうもろこしくんの「もろっしもろっし」という口ぐせが登場したときには大笑いしてくれて。何度も見返すうちに、おもしろいのかどうかわからなくなっていた私に、「おもしろいよ」と言い続けてくれたのは、すごく大きな励みになりました。

次男は、私のデスクの上におもしろいものがたくさんあるということはよくわかっていて、さわってやろうといつも狙っていました。今も次男と私で仕事道具の奪い合いをよくしています。(デジタル制作なのでそんなにたくさんの道具はないのですが!)

「ひげとうもろこしくん」のことは、最初は気に入らないようでしたね。完成した絵を見せても「ナイナイ!」と首を横にふっていて。ちょっとショックでした。最近はニコニコしながら見てくれるようになりました。読み聞かせを無視してどんどんとページをめくっていき、途中で満足して「おーぱーぺい(おーしーまい)」と本棚に片づけてくれます。

──めんたまんたさんご自身は、子どものとき、本好きでしたか?

本は好きなほうで、絵本もたくさん読んでいたと思います。特に記憶に残っているのは、『ぐるんぱのようちえん』(作/西内ミナミ 絵/堀内誠一 福音館書店)や『ごろごろ にゃーん』(作・画/長新太 福音館書店)です。文章を全部覚えてぶつぶつ暗唱していたのは『めっきらもっきらどおんどん』(作/長谷川摂子 絵/ふりやなな 福音館書店)。車の中で母に自慢げに暗唱していた記憶があります。『ゴムあたまポンたろう』(作/長新太 童心社)や『キャベツくん』(文・絵/長新太 文研出版)も好きでした。長新太さんが多いですね。
ひげとうもろしくんと同じ6歳のころのめんたまんたさん(後ろは弟さん)
写真提供/めんたまんた
小学生のころには、学校の課題で絵本のようなものも描いていたようです。「わにくん」と「わに子ちゃん」が昼寝していて、起きて、泳いで、唐突に現れた「すずめのチューコ」に「盆踊りの用意はできたの?」ときかれて家に帰るだけのお話。絵を描いたり、物語を想像したりするのも子どものころから好きでした。
小学2~3年生のころに描いた「わにくんとわに子ちゃん」
幼稚園のときに描いた雪だるまと恐竜? の絵。すでにシュールの片鱗が!
めざすは「シュルかわ」! 「ひげとうもろこしくんルーレット」も遊んでね!
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