【私史上、一番上手い絵】ボツと描き直しの果て 楽しい絵本を作るのはアホっぽい絵か、それとも…

【後編】2022年講談社絵本新人賞佳作受賞『おんぶねこ』出版記念! 作者・殿本祐子さんによる絵本制作日記

絵本作家:殿本 祐子

絵本出版のお話、なくなるん????

『おんぶねこ』より
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いったん絵は描けたけれど、テキストはまだ何度もやり直し……。

この時点での担当者さんの感想は「まだお話が分かりにくいかなぁ」。

そして、モニターの書店さんからも、「お話の展開についていくのが大変」「置いてきぼり感がある」とのご意見が集まっていました。

オチがよくわからない問題は解決したと思っていたのになぁ。

初めて読む人が感じた「置いてきぼり感」をなんとかしなければ……。

描いている本人にとって、自分の作品を初めて読む感覚になるのは難しいのですが、2024年春、テキストだけでなく、絵も数ページラフから描き直すことになりました。

描き直して少し経った6月、担当者さんからいつもとは感じが違うLINEが届きます。

「一度、原画を拝見しながら一緒にお話をしたいので、そちらに伺いたいと思います」

ん? ん? ん~~~~!?

いつものビデオ通話じゃダメなお話?

カップルが別れるときって、わざわざ会ってするよね? あの感じ?

絵本が出版されるお話、なくなるのかなぁ……。

ご飯の味がしないよぉ……。ていうか、ご飯がのどを通ってくれない……。

神戸での打ち合わせ

次の日、担当者さんからのLINEで、出版のお話はなくならないと分かり、一安心。

とはいえ、今回の神戸での打ち合わせ、やっぱり心配……。

担当者さん、打ち合わせの日には、原画は応募作品と書き直ししたもので同じシーンのものをワンペア持ってきてくださいって言ってはったなぁ。

そして1ヵ月後の打ち合わせ当日、その心配は的中します。

まず、絵が応募作品のほうがゆるくてかわいくて、絵本らしかった。描く時間があまりなかったのがかえって、よかったと。

確かに、応募作品のほうは制作期間が5ヵ月間で、それも週休2日の仕事の休みの日に描いたもので、精一杯描いていても、力が抜けたアホっぽい絵だった。

それに比べて後から描いた本番のほうは、すごく気合が入っていた。これが印刷されるんだぁー! と。

時間に余裕があったので丁寧に描けたし、お高い絵の具も追加で買った。

そして絵が前より上手くなっていた。これがよくなかった。

絵がリアルになって、アホっぽさが減って、かわいさも減っていた。

でもこれは、にゃんとかにゃる!

濃い色のところはパステル調に。輪郭の線はぼかす。とにかく、やわらかく、かわいく、リカバリー!

神戸での打ち合わせ 続き

実は深刻なのは、もう一つのほうでした。

いったん描き上げた32ページと表紙と裏表紙、その内の15ページと裏表紙がボツになりましたーーーー!

前の私ならショックで駄々をこねたかもしれません。がんばって描いたこの場面が、みんなに読んでもらえないのいやや~! と。

ただ、この日の私は、1ヵ月前に「出版のお話がなくなるのでは?」と勘違いして、落ち込むというのを丸1日、予行練習していたので、たとえ半分近くの描き直しのお話でも、案外大丈夫だったのです(人生ってうまくできてるなぁ)。

担当者さんの提案は、「おんぶのお話を広げるのではなく、掘り下げたほうがいい!」「セリフをしゃべる登場人物を、おとうさんねこと、こねこの2人に絞り、お話が散漫に広がりそうな場面は省いて、おんぶ解放のゴールまで、ひたすら2人のおんぶのお話に徹する」というものでした。

たぶんこれは私のような新人の作品にありがちなのだと思いますが、特に応募作品は、その1つの作品で奇跡のような狭き門に挑まなければならないので、すごい作品、目立つ作品を描こうと、あれもこれもと要素を詰め込んでしまう。

そのせいで、おもしろい場面がわからない作品になってしまう。

思い返せば、担当者さんは早い段階で散漫に広がりそうな場面のカットを提案してくれていたのに、残したいという私の希望を尊重してくれたから……(私のアホぉ~!)。

せっかくの対面の打ち合わせ、ここでボツになった場面のアイデアだけでも絞り出したる~~!

ここでポンと出たアイデアが、本作の一番の見せ場となるのです。

楽しい! 大量の描き直しだけど楽しい!

『おんぶねこ』より
ボツになった場面の、ラフの手前のラフラフから描き直しです。

でも、大変なはずなのに、楽しい~~!

この絵本の正解はこれだ! という感覚があって、ゴールテープは離れてしまいましたが、以前より、そのゴールテープがはっきり見えてる気がしました。

親や友達から「いつ絵本出るの?」と何回も聞かれて、それまで言い訳のような返事をしていましたが、このときは「もういつでもいいねん!」という気分でした。

そして、リアルになってよくないと思っていた画風が、本作の見せ場のシーンで活かされます。

全ての道のりは、このページのためにあったのか!(ということにしたい!)

私史上、一番上手い絵が描けました。

応募作品と描き直した作品をビフォーアフターでみなさんにお見せしたいくらいです(笑笑)。

この作品に的確な助言をくださった先生方、いいね! と賛同してくださったみなさま、出版OKを出してくださった編集長さま、一流の職人技で絵本の制作、宣伝に携わってくださったみなさま、多忙な中、丁寧な感想をくださった書店のみなさま、一番最初にファンになって今日まで寄り添ってくださった担当者さま。

多くの人に月日をかけて大事に育ててもらっていると感じていました。本当にありがとうございました。

こうして生まれた絵本が、読んでくださったみなさんの楽しい時間のお役に立てたら最高です!

そして今、『おんぶねこ』の中のこねこは、私の頭の中で、ちょっとずつ成長して、おとうさんねこは、やっぱりこねこに振り回されながらがんばっています。

『おんぶねこ』2025年3月27日に発売!

物語のラストと「作者史上一番上手い絵」は、ぜひ絵本を手にとってお確かめください!

作/殿本祐子 講談社刊
*ひとりで読むなら小学校低学年くらいから
*読んであげるなら4歳くらいから
*すべてひらがな
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とのもと ゆうこ

殿本 祐子

Yuko Tonomoto
絵本作家

第43回(2022)講談社絵本新人賞佳作『おんぶにゃにゃいとにゃく』を改稿した『おんぶねこ』でデビュー。保護猫といっしょに兵庫県で暮らしている。

第43回(2022)講談社絵本新人賞佳作『おんぶにゃにゃいとにゃく』を改稿した『おんぶねこ』でデビュー。保護猫といっしょに兵庫県で暮らしている。