加藤晶子の絵本『てがみぼうやのゆくところ』制作日記
第35回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第1回「てがみぼうやの気持ち」
2022.05.31
「てがみぼうやのゆくところ」で第35回講談社絵本新人賞をいただいた加藤晶子です。
自分の心臓の音が聞こえるほど興奮した8月の受賞連絡から、もう4ヶ月近く経ちました。この4ヶ月の間に受賞式と打ち合わせ数回、受賞前から予定していた個展も無事終了し、ついに制作日記の執筆にも取りかかり始めました。
今回の受賞がいろいろな巡り合わせ、タイミングであったことはすでに私のブログにも記載しているのですが、日が経つにつれ、より深くそのことを感じています。
約7年ずっと個展で手作りの絵本を発表し続けてきて、ありがたいことに、来てくださる方からも絵本に(出版)して欲しいという声が年々増えていました。
そろそろ、形にすることを本気で考えなくてはと思い始めた矢先、まずはと応募したのがこの公募。講談社の賞には初めての応募で、1次、2次の選考結果がホームページで発表されていたのも気づかないほどののんきっぷりでしたが。
今まで絵本のワークショップにもいくつか通い、同じく絵本に熱い想いを持つ編集者の方や仲間とも出会い、刺激もたくさん受けました。
今回の受賞はそんなたくさんの方の想いが後押しをしてくださった形だと思っています。選考委員の方はもちろんですが、その裏でずっと私を応援し続けてきてくださった方々にも同じくらい感謝しています。改めて、ありがとうございました。
そして何より、今回受賞したことで、担当編集者(N)さんと出会えたこと。このことはまた追々綴っていきたいと思います。
さて、今回の制作日記、出版されるまでのストーリーだけでなく、絵本への想いや、私のバックグラウンドなども織り混ぜながら進めていきたいと思います。今月から約半年間、どうぞおつきあいください。
絵本コーナーで待ち合わせた担当編集者(N)さんと私。
児童書の棚を見ながら、まず(N)さんから聞かれたのが、
「絵本ができたらどの本の横に置かれたいですか? どんな装丁にしたいですか? 本の大きさはどのくらいにしましょう?」
「ええ~?! そんなこと、決められるのですか、新人なのに??」実際、希望どおりになるかはともかく、そんなこと考えてもいませんでした!!」
しどろもどろな私に、(N)さん、絵本の書棚がどんなふうに構成されているか端から丁寧に教えてくださいました。ところどころ専門用語が混じり、いちいち質問するのでその度、中断……。
しかも(N)さんは長いこと、児童文学に携わっていた方なので、児童文学の書棚から赤ちゃん絵本の書棚までも含め、「将来、加藤さんが挿絵や赤ちゃん絵本も携わるかもしれませんから」といきなり将来も見据えてお話してくださいました。頼もしい……。
絵本の背表紙のでき方とか、表紙の加工のこととか、大きさとか、ふむふむ、なるほど~。と知らないことばかりで、まるで新入社員。
そう、仕事を始めたばかりの新入社員の時のような、ワクワク感。またこんな気持ちを味わえるとは思っていませんでした。私の絵本が実際に書棚に並んでいるところをイメージしながら、モチベーションがあがっていきます。
その後、「丸善」内のカフェに移動。実際の作品についての初打ち合わせです。
初回はまず、作品を1ページずつ見ながら、「視点」をそろえることを指摘されました。ここでは主人公であるてがみぼうやの視点でお話を進めていくことです。
その視点がそろっていると、読者はてがみぼうやの気持ちになって、感情移入しながらお話を読み進めていくことができます。それが、ところどころ、てがみぼうやの視点からずれている。その後の制作においても、このことが非常に重要でした。
迷ったら、「てがみぼうやの視点に立っているか?」。
これを基準に考えると大抵のことは解決していきました。というわけでいきなり1ページ目から変更。
その他にも大きく変更したのが場面構成や構図。お話は大きく変わっていないのに構成や構図を変えるだけで、ずいぶんと印象が変わります。
より良くするために(N)さんにうまく引き出されているという感じです。
昨年の受賞者・種村有希子さんが、制作日記の中で「本当に楽しい」と記していましたが、私もまったく同じ気持ちです。
自分でも気になっていた点もいくつかあり、そのひとつが「てがみぼうや」のフォルムというか仕様。もとの絵では、封を閉じた方、いわゆる裏側に顔があり、切手が貼られていました。
宛先のある表側に切手と顔、そして宛先の住所がある方が、より自然なのですが、応募した時には封を閉じた絵にてがみらしさのこだわりを持っていました。
でもやはり、気になる。これを機に再度見直して、何枚も「てがみぼうや」を描いてみました。
すると、あらあらふしぎ。いともかんたんに問題解決。
子どもの方が意外と常識的だったりするそうで、できるだけ、無駄なひっかかりは取り除きたいと思っていました。うまく問題解決できたもののこれにより、ほぼ、全編描き直さなければいけないことも決定……。(どちらにしろ、ほとんどの方が全編書き直すみたいですが。)
今思うと、「てがみぼうや」が訴えていたようにも思います。
右と左の靴をまちがえて履かせられたような、セーターの前と後ろを逆に着せられていたような気持ち悪さを感じていたのかもしれません。てがみぼうや、ごめんね。
「加藤さん、カレー食べませんか。煮詰まったときはお腹に何かいれて、頭を切り替えましょう!」
というわけで、我々、「丸善」のカフェ一押しのカレーを食しました。ところで、(N)さんは児童文学の部署でも絵本に携わっておられたそうですが、絵本の部署に異動になって、私のような新人と絵本を作るのは今回が初めてとのこと。
私にとっては大事なデビュー作ですし、お互いに記念すべき1冊目。
本当においしいカレーだったのですが、それぞれの想いがあってスタートとなったこの日のカレー、また格別な味だった気がします。
すっかり夜遅くなってしまった、この日。帰りの(N)さんのメール、「我々、充実していましたね。」もうこのひとことにつきる、打合せでした。
ところで、「てがみぼうやのゆくところ」は、男の子がおばあちゃん宛てに書いたお手紙「てがみぼうや」が、コトンとポストに入れられるところからお話が始まります。今まさに私は「てがみぼうや」で、コトンとポストに入れられたところ。
無事みなさまのもとに、この絵本を届けられるよう、寄り道しながらですが、進んでいます。もう少しお待ちくださいね。
★次回の制作日記は「やぎ問題?!」をお届けいたします。