前回お伝えした本文の色校と少し遅れて、表紙・カバーの色校と、紙の加工を決める作業をしました。
表紙の絵には背泳ぎをする人が入るのですが、レイアウト作業で配置や大きさを変えられるように、原画では背景と人物を別の紙に描いて、後で合成することにしていました。私の絵ははっきりした境界線がなく淡いタッチなので、切り抜きと合成はもしかして難しいのでは……と心配していましたが、そこはさすがにプロのお仕事、とても綺麗に仕上げて頂きました。
紙の加工は、艶のあるグロスタイプと、艶消しのマットタイプの二つから選ぶ事になりました。
見比べると、グロスの方が絵がはっきりとして主張が強く、マットの方は落ち着いた雰囲気です。どちらもとても良くて、一見するとグロスの方が目を引くのですが、本文の世界観に近く、違和感なく本文に入っていけるのはマットの方、という助言をOさんから頂き、それは全くその通りでした。表紙単体で見てしまうとそれに気持ちが引っ張られそうになりますが、ここで大切なのは絵本全体のバランスなので、マットの方を選びました。
表紙にかける帯の方も、デザイナーの田中久子さんに作って頂きました。帯で隠れる絵の部分を、緑色の単色でうっすら透けているようにデザインして頂き、これがまたとても美しいのです。
その美しい帯に、なんと選考委員のはたこうしろう先生の選評を載せて頂く事に! 何から何まで感動しきりで、身が引き締まる思いです。
これらの作業を終え、ギリギリまで色校の修正やテキストの修正をして、5月下旬に遂に校了となりました。
そして6月始めに出来上がった絵本が手元に届き、絵本制作は終わりを迎えました。
初めての絵本制作は、制作期間中の全てのことが濃密で、日々が発見の連続で、本当に素晴らしい体験でした。
その中でも、第4回の日記でも触れましたが、何といっても本の形にしていく面白さを知ったことと、その際に絵本への愛着がどんどん増していったあの感覚が、深く深く心に刻み込まれています。これから絵本を作る度に思い出して、また新しい想いが芽生えるのだと思うと、楽しみでなりません。
最後に、この絵本の制作中に図書館へ行った時の事を。
図書館の入り口付近に、自転車で来ている親子二組がいました。3歳くらいのまだ小さな男の子と女の子が、先に自転車から降りて図書館の入り口の方へ駆けて行くと、自転車を止めているお母さんが二人に優しく「図書館の中では静かにしようね」と声をかけました。すると二人は同時にぴたっと立ち止まってお互いに顔を合わせると、口元に人差し指をそえて、真剣な表情で「しーっ」と言って再び駆けて行きました。その瞬間そこに広がっていたのは、大人が入り込めない、完全に子どもたちだけの世界でした。そんな微笑ましいやり取りを後ろで眺めながら、「そう、これが描きたいんだ」と、嬉しくなったのでした。
二人が駆けて行った先に、二人がそれぞれ気に入った絵本との出会いがあるといいな、と思いました。
私も、「これ!」と言って本棚から引っ張り出してもらえるような、素敵なことがいっぱい詰まった絵本を作っていきたいです。
ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。
近藤未奈
近藤 未奈
多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業後、おもに個展での作品発表を中心に活動。 2018年、第40回講談社絵本新人賞を受賞し、はじめての絵本となる『まよなかのせおよぎ』を刊行。東京都在住。
多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業後、おもに個展での作品発表を中心に活動。 2018年、第40回講談社絵本新人賞を受賞し、はじめての絵本となる『まよなかのせおよぎ』を刊行。東京都在住。