加藤晶子の絵本『てがみぼうやのゆくところ』制作日記
第35回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第6回『てがみぼうやのゆくところ』
2022.06.05
「制作日記、読んでいます!」という声をきくと、絵本ができあがるまでを楽しんで待っていてくださるのが伝わってきて、とても励みになりました。ありがとうございました。
そして、この掲載とほぼ同時、2014年5月末に、絵本『てがみぼうやのゆくところ』はいよいよ出版となります。
最後の作業 装丁
どの装丁家さんにお願いするかは、あまり知識がなかったので迷うところでしたが、担当編集者(N)さんから「加藤さんのあふれる思いをくみとってくださいそうな方にしましょうか。田中久子さんはいかがですか」とのことで、決定いたしました。
田中さんとの装丁打ち合わせには、私も立ち合わせていただくことになりました。じつは、頭に表紙のイメージはあったものの、微妙なレイアウトに迷っていたところでした。田中さんに相談したところ、びしっと決まりました!
帯や見返しの色、細かい配置などについても、細かく相談にのってくださいました。これが絶妙~なバランスで、さすがです。
田中さんはお忙しいなか、何も知らない私に、紙や色についてもていねいに教えてくださいました。実際お会いして、こんな素敵な方に担当していただけるのと思うと、うれしく安心しました。
色校
印刷所で印刷された「色校」というものを初めて目にしたのですが、これが最初、2種類の紙に刷られたものを見くらべても、まったくちがいがわからず……、「あんまり変わらないような気がします……」とすっとぼけたことを申しておりました。
(N)さんには全然ちがうように見えているらしく、色校の見方を、また手取り足取り教えていただきました。 部分に分けて細かく見ていくと、だんだん目が慣れてきて、確かに! だまし絵を見るかのように、ちがいが「見えて」きました。
しかも、原画と見くらべると一目瞭然。そんなわけで、私たちの「赤字」添削が始まったのです。
全体の赤みを落とす、ここの黄色とあその黄色を合わせる、うんぬん……。印刷屋さん、この赤字を見たら、絶対一度開いて閉じるよね……というくらい、修正依頼の「赤」が入ります。
真っ赤なゲラを戻しては、つぎの再校、念校と、最後の最後まで、(N)さんも含めずいぶんとねばってがんばってくださいました! ありがとうございました。
緑薫る5月初旬、こうして『てがみぼうやのゆくところ』は、無事に責了を迎えたのでした。あとは、印刷・製本されてくるのを待つばかりです。
この先は、販売部や宣伝部の皆様にお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします!
1冊の絵本を作るのにどれだけの方がかかわってくださっているのかと思うと、本当に絵本はひとりでは作れないのだと感じます。
私の手元を離れた「てがみぼうや」。
ここからどんなところへ行って、どんな人の手元でかわいがってもらえるのでしょうか。『てがみぼうやのゆくところ』に幸あることを祈りつつ、これにて制作日記を終わらせていただきます。半年間、つたない文章におつきあいいただきありがとうございました。
昨年8月のはじめにうれしい連絡をくださったのが、担当編集者の(N)さんでした。
私の絵本や、絵本への想いをとてもよくくみとってくださり、よき理解者であることの安心感、信頼感は何事にも代えがたいことでしたし、かといって決して甘いわけではなく、妥協なく取り組んでくださったことは本当にありがたいことでした。
「出版には気の合う編集者さんと出会うこと」というのは方々できいていましたが、「ああ、こういうことなのだなあ」とひしひしと感じた一年でした。
ちょうど一年ほど前、ある人に、
「ここまで続けてきたのだから、まだまだと思わずに、自分が今できる範囲で形に(出版)することを考えてもよいのでは。そこからまた見える事もあるはず」
と背中を押されました。
(N)さんもいつだったか、「扉があったら開けてみる」とおっしゃっていたことがあります。
選考委員のこみねゆらさんの、
「描く人それぞれの本気の表現がきっとどこかで誰かの心を動かす」
というコメントもとても印象的で、今も私のなかにあります。
昨年の私同様、絵本作家を目指している方もたくさん読んでくださっていることと思いますし、また、これからの自分自身にも向けて最後にちょっとだけ……。
これから開ける扉が必ずしも良い扉ではないかもしれませんが、それはまだその時期ではなかったのかもしれないし、開ける扉をまちがえたのかもしれないし、気の合う編集者さんと出会っていないだけのことかもしれません。
絵本に限らないと思うのですが、私も含めてとにかくめげずに、焦らずに、しつこく扉を開き続けていくことなのだと思います。