あのメロディーで絵本がもっと楽しめる!? 作者が教える裏ワザ紹介
第42回 講談社絵本新人賞受賞・伊佐久美の『タコとだいこん』制作日記第7回
2022.07.29
第7回 タコは四拍子
1979年に創設され、歴代受賞者には、かがくいひろし氏、シゲタサヤカ氏(佳作)、石川基子氏など、絵本界の綺羅星のような才能を輩出しています。新人賞受賞作品は、単行本として刊行されるため、絵本作家デビューを目指す多くの人が、こぞって応募します(21年度は579作品が集まりました)。
第42回講談社絵本新人賞を受賞した伊佐久美氏。受賞からデビューまでの裏側を、受賞者自身に「制作日記」形式でルポしてもらいました。創作の裏側が覗ける貴重な同時進行ドキュメントをお届けします。
今回は音楽のお話です。
昨年末のことでした。最後の二つの絵を見開きにするために、『タコとだいこん』の構成を考えなおしていた頃のこと。
なかなかいい考えが浮かばないので、タコの気持ちについて考えてみることにしたのです。
タコが大根をとりに行こうと思い立ってから、海に帰ってくるまでの気持ちを、できごとと並べて歴史年表のように箇条書きにしていきました。
大根をとりに行こうと決めたときは、ワクワクドキドキでいっぱいだったはず。そして陸にあがるときには、不安と緊張でだいぶ腰が引けていたはず。
それでも勇気をふり絞って前にすすむタコ……なんてけなげでかわいいんだろう!
それまでは、タコ、がんばってるな~。えらいじゃん。くらいしか思っていなかったのに、タコへの愛が突然あふれてきて、思わずそのとなりに、タコの呼吸状態表と、グラフも書いてしまいました。(謎ですね)
すると解決策が思い浮かんできました。
タコのテンションを上げて見開き絵につなげたらいいのかも?
嬉しくなってすぐに浮かれ状態のタコのラフスケッチを描き、タコの気持ち表と一緒に編集者Nさんへと送ったのでした。
しかし、今度はさらにその前のページとつながらないような気がしてきました。
Nさんと考えこみ、編集部の他の方たちの知恵も借りることになりました。
結果は、「途中でリズムが変わる感じがして違和感がある。前の方が良かった。」とのことでした。
なるほど~。それまでゆっくり四拍子で歩いてきたタコが、急に三拍子で踊り出したような違和感ですね。たしかにこのタコには四拍子が似合います。
四拍子といえば、タコの音楽ってどんなだろう?
大根をとりに行こうと思った海の中のシーンは……『キラキラ星』なんて良いのでは? 歌詞はなし、ハミングです。
ちょっとかわいすぎるような気もしますが、このタコ、本当はとてもかわいいタコなのですよ。
キラキラ星→ネコふんじゃった→とおりゃんせ→おおブレネリ→ジングルベル→きよしこの夜(ぜんぶ歌詞は関係なくメロディーで選びました)
音楽だけで内容をとてもうまく説明できました~。『タコとだいこん』はこんなお話です!
この順番でハミングしながら読むと、臨場感がでて、とても良いはず。おすすめです。
そういえば、後半を見開き絵にする計画がどうなったか、お話していませんでした。
最後の方の四ページを見開き絵にする以外は変えないでラフスケッチを描き、全体を眺めなおしてみると、不思議ですね。するっとつながっているのです。見慣れたせいでしょうか?
まあいいや。こうして見開き絵問題は解決したのでした。ついでにBGMも決まってしまいました♪
ところで、さっき載せた大根をぬいているタコの絵を、表紙と思っていらっしゃる方が多いようなのですが、大不評だった応募時の表紙は違うものなのでした。
タコは黄色が好き。タコは黄色が好き。と唱えながら『タコとだいこん』を見ると、なるほど。と思ってもらえるシーンがいくつもあるのですよ~。
ほかにもよおく見るとタコたちの秘密がいろいろわかってくるはずです。たぶん。
そして、これが8月8日タコの日に刊行される『タコとだいこん』の表紙です♪
贈呈式の時もたくさん励ましていただきました。村上先生、ありがとうございました。
来月の制作日記が掲載される頃には『タコとだいこん』は発売されている予定です。
本屋さんでタコを見かけたら、どうぞ手に取ってご覧になってくださいね。そしてタコをお家に連れて帰っていただけたら、タコも私もとてもうれしいです。
タコがどこかに張り付いたりする心配はもうありません。ご心配なく~。
ではまた来月お会いしましょう♪
伊佐 久美
1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。
1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。