2022.06.05

ブックマーク

加藤晶子の絵本『てがみぼうやのゆくところ』制作日記

第35回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第5回 「ことばのちから 茅ヶ崎自宅そして講談社にて」

※この記事は、講談社絵本通信(2014年)掲載の記事を再構成したものです。

2014年に入ってから、本格的に本描き(本番の紙に色を塗っていく作業)が始まりました。

「応募時ののびやかなタッチを表現してください!」という担当編集者(N)さんの言葉を胸に、応募時の画稿を脇に置き、自宅にこもってひたすら描く日々が続きました。

手帳に連なる「制作」「制作」と言う文字に、先日亡くなられた「まどみちお」さんが日記に綴っていた「絵をかいて いちんち」という言葉を思い出しました。この言葉をきいた時は、なんて幸せな一日だろう! と思ったものですが、そんな毎日を、私も今、過ごしているのだなあと感慨にふけりながら描いていました。

2月も終わりに近づくと、机に向かいすぎて歩けなくなるのではないかと思ったほど。ほぼ完成したところで、一度確認してもらうべく、講談社へ出向きました。

画稿を全てぐるりと並べて、一枚ずつ、テキストとてらしあわせながら確認していきます。緊張の一瞬です。

ぐるりと並べた画稿

ちょっと気の強い? 「てがみぼうや」な印象。

これで納得のいく「てがみぼうや」になりました。

画稿チェックの後は、テキストの最終チェックに入ります。もちろん、ラフ画の時点でも何度となく推敲してきたテキストですが、色がつくと断然、今まで以上に絵が語り始めます。

幾度なく推敲してきたテキストの束。

テキストに関しては、今までもずっとやってきた方法ですが、まずは(N)さんに声に出して読んでいただきます。

その間、私は絵だけを見ます。その後、こんどは私が声を出して読みます。(N)さんには、絵を見ながらきいていただきます。

これをくりかえすことで、テキストが絵と違和感なくマッチしているか、また声に出すことで、読み心地がよいかがはっきりしてきます。

たとえば、

「てがみぼうやは ぼくじょうのおじさんに つまみあげられました。」

という文章と

「てがみぼうやの からだが ふわりと うきました。ぼくじょうの おじさんです。」

という文章では、印象が変わります。

実際の絵には、牧場のおじさんが「てがみぼうや」をつまみあげているシーンが描かれているので、少々乱暴な印象のある「つまみあげる」という言葉を使わなくても意味が伝わります。

絵で表現できることは絵で表現する。ただし、つぎのような場合もあります。

「てがみぼうやは ふかふかの ほしくさのうえで おしりをかわかすことにしました。」

という文章でも、あたたかいほしくさの感じはでますが、

「てがみぼうやは おひさまを たくさんあびた ふかふかの ほしくさのうえで おしりをかわかすことにしました。」

と書いたほうが、より場面の暖かさが強調されるように感じます。

こんなにも絵本の印象をかえる「ことばのちから」は、とても大きいのです。言葉選びは難しいけれど、ピタリと合う言葉が見つかったときは、本当に気持ちがよいです。

絵本の言葉は子どもたちが最初に出会う日本語なので、できるだけ美しく、正しい日本語を心がけていますが、それと同時に「読み心地の良いことば」「きき心地のよいことば」であることも、とても大切にしています。

この日は久しぶりに、作業後に(N)さんと私の好物のお蕎麦(!)を食しました。

絵本の完成もあと少し! 最後の追いこみに、好物のお蕎麦をぶら下げられて(?)、(N)さんにおしりをたたかれたのでした。(いえいえ、(N)さんに励まされました!)


■おまけのはなし 「てがみぼうや、ボローニャへ行くの巻」

本描き作業も佳境の2月半ば、(N)さんから「3月末に、イタリア・ボローニャで開かれるブックフェアに出張してきます。講談社から刊行されている絵本はもちろん、これから出る予定の『てがみぼうや』もつれていこうと思います!」との一報が入りました。

イタリア・ボローニャで毎年開かれている国際的なブックフェアは、世界中の出版社がブースを出して本の版権を売買する、いわば児童書の見本市です。同時開催される国際絵本原画展は、絵本作家の登竜門でもある公募展で、会場には受賞作品が展示されます。イラストレーターの交流のためのカフェも設けられており、世界中からイラストレーターが来場し、自分の作品の売りこみもできるのです。

ずっと行きたかったボローニャ! これはよいタイミングかも! と思い、思いきって、急遽、私も行くことにしました!

世界中の国旗がはためくブックフェア会場の入り口

ずっとあこがれていたブックフェアの会場入り口に立ったときは、なんだか涙がでそうでした。やはり何事も、やるべき(行くべき)タイミングってあるのですね。

会場では、(N)さんや絵本作家の「藤本ともひこ」さん(第13回講談社絵本新人賞受賞者)とも無事にお会いすることができました。異国の地でお会いするというのも、なかなかうれしいものです。

会場の中には、イラストレーターが自分のポスターや名刺を自由に貼ってよいボードがあるのですが、すでにたくさんの作品が貼られて、あいているスペースは下の方だけ。ちんまり形だけ貼ってきましたが、後からきいたところによると、みなさん、人のポスターの上からがんがん重ねて貼ってしまうそうです……。

す、すごい……。

あわてて作っていったポスターと英語の名刺。
機内で食べたヨーグルトの外箱を名刺入れに代用。
案外かわいくおさまりました。

海外の出版社への売りこみは、撃沈、というよりも、どのブースの方たちも忙しそうで、ほとんど見ていただけず、ジェラートを食べたり、カプチーノを飲んだり、絵本を買いこんだり……、遊んでばかりいましたけど。

それでも、世界は広いなーと改めて実感し、刺激もたくさんいただいて、改めて「目指せ世界!」と思ったのでした。

今回の旅で、直前にもかかわらず、格安航空チケットを見つけてくださった旅行会社の方や、売りこみのために「てがみぼうやのゆくところ」以外の私の絵本を3冊も英訳してくれた友人、ボローニャの情報を細かく教えてくれた友人たちに本当に感謝です。


★次回はいよいよ最終回!「てがみぼうやのゆくところ」をお届けいたします。

こちらができあがった絵本です。

『てがみぼうやのゆくところ』
作:加藤晶子 講談社

加藤晶子さんの2作目となる絵本!

クルツの写真館は、どんなどうぶつも、みんな、ごきげんにしてしまう写真館です。気弱なライオン、あまえんぼうのカンガルー、写真を撮りたがらないふたごのくま。ここにくれば、どんな悩みや問題も、クルツがたちまち解決して、ごきげんな写真を、さあ、パチリ!

『クルツのごきげんしゃしんかん』
作:加藤晶子 講談社

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