澤野秋文の絵本『それなら いい いえ ありますよ』制作日記

第34回 講談社絵本新人賞 佳作受賞からデビューまで 後編

※この記事は、講談社絵本通信(2013年)掲載の記事を再構成したものです。
描きなおした原画を編集担当の弓引き童子さんに渡すと、いよいよ今度は印刷の準備です。

最終的にテキストの調整をして、印刷所さんにお願いしてから1週間で色校が出てきます。
私の場合、絵の中の物が多いので、「大変だろうな……」と踏んでいた色校が、最初からほとんど満足のいく色味が出たので、一安心です。

その後の色校も微調整だけですみました。色校は本の形で渡されるので、「ついにここまで来た」と感動します!

ただ、昔話の意地悪じいさん同様に、だんだんと欲が出て、「可能であれば、肌色のくすみをとって……」など無理を言ってしまうのですが……。
扉のラフや、原画、色校など。色校には、こうして赤字を描きこむのです。(編集担当)
そうでした、当たり前なのですが、本文・表紙の紙選びもします。

何となく絵本の紙の触感って、そんなに種類がないように思っていたのですが、いざ自分のものとなると微妙な紙の違いがはっきりと見えてくるから不思議なものです。

色校など本文の印刷作業と同時並行で、見返しと表紙も作っていきます。表紙はうちの奥さんにもアイデアをもらいつつ、色々なラフをだしました
なんと、表紙になったのは奥さまお気に入りの1枚!(編集担当)
見返しは表と裏でちょっとした仕掛けを入れて……スムーズに進む中、ずっと避け続けていた大問題と直面します。

実はこの段階でタイトルが決まっていなかったのです。

「あした起きたらいいタイトルがひらめくに違いない!」そんな淡い期待を持ちつつ過ごしてきたのですが、もちろん、そんな訳もなく……。情けない話ですが、ここが今回一番悩んだ部分でした……。

何案かタイトルを並べて、書店さんにもご意見を伺い、さんざん悩んで『それなら いい いえ ありますよ』に決定しました。

どうにかこうにか、タイトルが決まると、そのデザインをしたのですが、やっとタイトルが決まった後だったので、気持ちも軽く、何パターンか作ってみました。
まず、ラフだけでこれだけ描いてもらって……(編集担当)
本描きでもこんなに! この中の1枚が、表紙に使われました(編集担当)
これで全部の材料がそろいました。

表紙や見返し、本文の色校をあわせたバラバラな状態でも、まとめてみると、これはなかなかの達成感です!

それから約三週間、きっちりと本になった見本が手元に届きました。「送り出した我が子が立派になって帰ってきた!」驚きはもちろん、少し照れてしまいます。

今度は本屋さんに並んでいるところを見たいと思い、少し足を伸ばして大きめの本屋さんへ行くと、そこには『それなら いい いえ ありますよ』が並んでいます。あれだけ悩んだタイトルも本屋さんで見ると、最初から決まっていたタイトルのように見えて、ついつい笑ってしまいました。

先日、絵本新人賞の贈賞式に参加させていただき、発刊のご挨拶をさせていただきました。あれから一年も立つのだなあ……とついつい感慨に耽ってしまいました。

昨年の授賞式で挨拶をしてから本屋さんで完成した本を手に取るまでのほぼ一年間。

ざっくりと振り返らせていただきましたが、『それなら いい いえ ありますよ』は編集担当の弓引き童子さんを始め、印刷所さん、うちの奥さんや友人など色々な方のお力を借りて完成する事が出来ました。

たくさんの方に読んでもらえる事を願っています。最後までおつきあいいただき、ありがとうございます

こちらができあがった絵本です。

『それなら いい いえ ありますよ』
作:澤野秋文 講談社

澤野秋文さんの新作絵本!

ある日、突然あらわれた「かいじゅうたくはいびん」。お届けものは、だいじなたまご。これを育てなくちゃいけないって、どうしよう!

『かいじゅう たくはいびん』
作:澤野秋文 講談社