自由な時間割やインクルーシブ教育 トモエ学園はモンテッソーリだった?

『窓ぎわのトットちゃん』をモンテッソーリ教育の視点で考える #01

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

「トモエ学園は、モンテッソーリの小学校のよう!」コクリコでも人気のモンテッソーリ教師の田中昌子先生が、黒柳徹子さんの自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』をモンテッソーリ教育で読み解きます。
連載1回目は、トモエ学園とモンテッソーリ小学校に共通する、羨ましい「教育の形」についてです。

『窓ぎわのトットちゃん』が2021年3月で発売40周年と伺い、とてもびっくりしました。
ちょうど昨年2021年11月で結婚40周年を迎えたのですが、結婚して初めて買った本が『窓ぎわのトットちゃん』だったからです。

手元にある本の奥付には1981年12月24日とあり、すでに第45刷になっていて、驚異的な売れ行きだったことがよくわかります。

長年大切にしてきた『窓ぎわのトットちゃん』を手にした田中昌子先生。写真提供/田中昌子

今でこそ、国際モンテッソーリ協会(AMI)公認のモンテッソーリ教師資格を持ち、子育て支援を続けていますが、結婚した当時は、子どもなんか大嫌い、自分が子どもを産むということすら想像していませんでした。

昔の自分が今の自分を見たら、「信じられない!」と言うでしょう。私が一番、このような人生に驚いていますし、だからこそ子育てに悩むお母様たちの気持ちがわかるのかもしれません。

そんな私が子どもに関するこの本を買ったのには2つの理由がありました。

ひとつめは『窓ぎわのトットちゃん』というタイトルに惹かれたこと。

当時、窓ぎわ族という言葉がありましたが、それは仕事のできないおじさんのイメージであり、トットちゃんという可愛らしい名前との取り合わせが不思議でおもしろかったのです。

ふたつめは、表紙のいわさきちひろさんの絵です。

大学で学芸員の資格を取るための勉強をしている過程で、ちひろさんの絵が大好きになり、当時はまだ古い民家のような建物だった石神井のちひろ美術館に足を運んだり、そこで買ったポスターを額縁に入れて飾ったりしていました。

昨年、講談社から出版していただいた『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A 68』の絵をいわさきちひろさんのお孫さんでいらっしゃる松本春野さんに描いていただけることになり、御縁を感じました。

私の本は内容に合わせて絵を描いていただきましたが、『窓ぎわのトットちゃん』は、後から絵を選定したのに、場面にぴったりの絵が掲載されているのが不思議でした。

『窓ぎわのトットちゃん』の挿絵は、いわさきちひろさん。『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A 68』の挿絵の松本春野さんは、いわさきちひろのお孫さんにあたるというご縁。写真提供/田中昌子

40年前に読んだときも、ベストセラーになるだけのことはあると、もちろんとても楽しく読みましたが、子どもがいなかったこともあり、そこまでの思い入れがあったわけではありません。

ところがその後、紆余曲折あって、あれほど「あり得ない」と思っていた子どもを産み育てることになり、『モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』(著:相良敦子 講談社)でモンテッソーリ教育に出会いました。

モンテッソーリの勉強を進める中で、ふと思い出したのが、『窓ぎわのトットちゃん』だったのです。

棚にしまいっぱなしになっていた本を慌てて引っ張り出し、ページをめくっていくに従い、「これはモンテッソーリ教育そのものではないか」という想いがふつふつとこみ上げてきました。

以前、コクリコの記事で、小学校の教師でいらっしゃる熱海康太先生が、

このトモエ学園の取り組みは、いま話題のモンテッソーリ教育やイエナプラン教育に似ています。”

と書いていらっしゃいましたが、モンテッソーリ教師としての観点から、もう少し具体的に本の中から共通項を取り上げてみましょう。

トモエ学園にみるモンテッソーリ教育との共通項

1.自由席


“前の学校は、誰かさんは、どの机、隣は誰、前は誰、と決まっていた。ところが、この学校は、その日の気分や都合で、毎日、好きなところに座っていいのだ。”

(『窓ぎわのトットちゃん』より)

現在でも一般の小学校では、「前の学校」と同じように席は決まっています。

でも、モンテッソーリ教育では、トモエ学園と同じように、自由席です。そもそも机の形も配置もバラバラですし、時には床にじゅうたんを敷いてするということもあります。

日本には残念ながらまだ文部科学省が認可したモンテッソーリ小学校というものはありませんが、海外のモンテッソーリ小学校やモンテッソーリ園をご覧いただければ、本当に自由席であることが、おわかりいただけるでしょう。

アメリカのモンテッソーリ小学校。表面積を求める5年生。写真提供/田中昌子
アメリカのモンテッソーリ園。数を数える5歳児。写真提供/田中昌子

2.時間割なし


“ふつうの学校は、1時間目が国語なら、国語をやって、2時間目が算数なら、算数、というふうに、
時間割通りの順番なのだけど、この点、この学校は、まるっきり違っていた。
 (中略)
だから生徒は、国語であろうと、算数であろうと、自分の好きなのから始めていっこうに、かまわないのだった。だから、作文の好きな子が、作文を書いていると、うしろでは、物理の好きな子が、アルコール・ランプに火をつけて、フラスコをブクブクやったり、なにかを爆発させてるなんていう光景は、どの教室でも見られることだった。”

(『窓ぎわのトットちゃん』より)

現在でも一般の小学校では、「ふつうの学校」と同じように、時間割がきっちり決まっていますが、モンテッソーリ教育ではトモエ学園と同じように、100年以上前から、時間割はありません。

私のモンテッソーリIT勉強会の卒業生に、お子さんが通っていらしたアメリカのモンテッソーリ小学校の様子をレポートしていただきました。あくまでも一例ですが、その時間割をご紹介します。​

【アメリカのモンテッソーリ小学校の時間割】

8時15分~11時15分 午前のお仕事(自分で選び好きな活動をする)
11時15分~11時45分 ランチ
11時45分~12時15分 外遊び
12時15分~15時15分 午後のお仕事(自分で選び好きな活動をする)
*火曜日は体育または芸術、水曜日はスペイン語
 
他の小学校のように、算数、国語、というふうには分かれてはいません。

時間の管理も自分たちでするために、アナログの腕時計を持たせていますが、お仕事の始まりと終わりの時間を、時計を見て、紙にメモします。日々の経験の中で「時間の管理」を学んでいきます。

たとえば、「かけ算のお仕事を11時から開始したら、本を読む時間がなくなってしまった。明日からは、もっと早くかけ算のお仕事を始めよう。」といった具合に自分で考えるうちに、自己管理能力が自然と身についていきます。

2週間に1回、子どもと担任の先生の1対1のミーティングがあり、進行状況を話し合うのだそうです。

学校でしっかり勉強してくるので、宿題は一切ありません。「宿題しなさい!」を言わなくてすむので、親は楽です。

(ウィスコンシン州在住の卒業生のレポートより)

モンテッソーリ教育では、子どもの活動のことを「お仕事」と呼んでいます。

アメリカのモンテッソーリ小学校。左の子は算数を、右の子は言語の文法、やりたいことを各自時好きな場所でする。小学2年生。写真提供/田中昌子

トモエ学園もモンテッソーリ小学校も、子どもたちには羨ましいのではないでしょうか。

3.インクルーシブ教育


“「私と一緒に電車の教室で、旅をした仲間」”

(『窓ぎわのトットちゃん』あとがきより)

トモエ学園では、小児麻痺の泰明ちゃんや肉体的な障害のある高橋君といった子どもたちも、ごく当たり前に同じ教室で過ごしていましたね。

インクルーシブ教育という言葉自体新しいもので、2006年の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示されたものです。

最近でこそよく耳にするようになりましたが、以前はやはり養護学校や特別学級など、障害のある子どもとない子どもは分けて教育する方がよいという考え方が主流でした。

戦前(昭和12年=1937年~昭和20年=1945年)という時代背景を考えると、いかにトモエ学園が画期的な方針を持っていたのかがわかります。

一方、モンテッソーリ教育は、そもそも障害児教育からスタートしています。

その後、障害のない子どもへと対象を拡げていきましたので、障害の有無には関係なく、すべての子どもは等しく子どもであり、分け隔てなく教育するという、今のインクルーシブ教育に当たる考え方が、最初からありました。

マリア・モンテッソーリがローマに最初の子どもの家を開いたのが、1907年(明治40年)です。今でもモンテッソーリ園やモンテッソーリ小学校では、すべての子どもを同じ環境で受け入れています。

私の勉強会にも、障害のあるお子さんの保護者や、一般の小学校の特別支援学級の先生方がたくさんモンテッソーリ教育を学びにいらしていますが、どの子にも当てはまる教育法であることを実感しています。

この他にも、散歩に出かけたり、”畠の先生”を招いたり、といった自然体験、実体験を重視するなど、モンテッソーリ教育と共通するところはまだまだたくさんあります。

引き続き、この連載で紹介していきたいと思います。

アメリカのモンテッソーリ小学校。自分たちですべて計画と準備をしてサイクリングに出かける3年生から6年生の子ども。写真提供/田中昌子

◆次回は、第2回「モンテッソーリ教師が絶賛『窓ぎわのトットちゃん』ママの非凡な子育て」(2022年2月11日公開)です。(リンク先は記事公開まで無効です)

『窓ぎわのトットちゃん』(文:黒柳徹子 絵:いわさきちひろ)
黒柳徹子さんの小学校時代を描いた自伝的小説。いまでも発売当時のままの形で売られている、戦後最大のベストセラー。
『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A 68』(著:田中 昌子 講談社)
身近な悩みを通して、モンテッソーリ教育の考え方を知り、自分で悩みを解決できるようになる!と評判の1冊。
たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。  

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。