ホラーで親子の絆? お化け屋敷制作者が提案する想定外の情操教育

おばけ屋敷プロデューサー五味弘文さんに 親子で楽しめるお化け屋敷や怖い絵本をきいてみました

編集者・ライター:山口 真央

暑い夏をひんやり過ごすのにぴったりなのが、怪談やお化け屋敷などのホラーコンテンツ。じつは、ホラーは親子のコミュニケーションを高めることができるんです。

そう話すのは、100以上のお化け屋敷をプロデュースした五味弘文さん。今回は、怖いものをエンターテインメントとして楽しむ方法や、親子でお化け屋敷デビューするのに、おすすめのスポットなどを教えてもらいました。

僕にとってホラーは「コミュニケーションツール」だった

お子さまにとって、ホラーが悪影響と考える保護者の方は、少なくないかもしれません。でも、お子さまがきちんと現実にかえれる道を用意してあげれば大丈夫。むしろ怖いものは、大人とお子さまを「対等」につなぐ、貴重なコンテンツにもなりうるんです。

というのも僕は子どもの頃、自分と大人の感覚はとてもかけ離れていて、退屈だと思っていました。自分がおもしろいと思うことに、まわりの大人はまったく興味を示さない。でもある日、僕が自分の部屋にお化け屋敷をつくったら、なかに入った親や親戚が揃いも揃って怖がった。僕にとっては新鮮で、最高にうれしい出来事でした。

怖いことの前では、大人も子どもも関係ない。ときには子どもの僕がつくった怖いもので、大人を驚かせてしまうことだってできる。お化け屋敷づくりを大人と同じ感覚で味わえたことが、僕の原体験となったんです

みなさんもお子さまと一緒に、ホラーを楽しんでみてはいかがでしょうか。ここからは、怖いもの初心者のお子さんにぴったりのホラーコンテンツをいくつか紹介していきます。

怖いけどおもしろい! 初心者にもおすすめのホラーコンテンツ4選

水木しげるの漫画 怖さ:★☆☆☆☆

水木しげる漫画大全集/講談社
もし幽霊にとりつかれてしまったら、お祓いをしてもらわないといけません。一方で妖怪は、それぞれが現れる場所が決まっていて、場所から離れれば助かることもあるから初心者向き。また妖怪は種類が多く、特徴や対処法など、細かいルールが決まっているので、図鑑などでまとめて楽しむこともできます。

そんな妖怪を「キャラクター」として描いたのが、他ならぬ水木しげるさんの漫画です。もちろん怖い妖怪もたくさんいるけれど、どこかかわいらしさやおかしさが込められているのが、水木さんの妖怪たち。僕も幼い頃から大好きで、飽きることなく図鑑を眺めていました。そのなかで「推し妖怪」をつくると、他の絵本やアニメに同じ妖怪が出てくるから、何度でも楽しむことができます。

僕は小学生のときに妖怪が出てくる台本を書いたのですが、お風呂のあかをなめる「あかなめ」は誰もやりたがらず、自ら演じました(笑)。以来、愛着が湧いて「あかなめ」が一番好きな妖怪に。親子でお互いの好きな妖怪について話すと、一層盛り上がるかもしれません。

怪談えほん「いるの いないの」 怖さ:★★☆☆☆

「いるの いないの」作・京極夏彦、絵・町田尚子、編・東 雅夫/岩崎書店
怪談えほんシリーズ「いるの いないの」は、古い家の天井のほうに、いつも誰かの視線を感じる男の子の話。きれいな絵のなかに、どこか不気味さが漂い、ページをめくる手をとめられなくなる作品です。

僕は田舎育ちなので、日本家屋の天井や押入れのなかにある闇の深さには、とても馴染みがあります。その闇のなかに、何かがうごめいているのではないかと、考えずにはいられない。知らず知らずのうちに想像力を働かせていたのだと思うんです。

都会住まいの子どもたちは、日本特有の深い闇に触れることは少ないと思うので、ぜひこの絵本で体験してほしい。たとえ時代や場所がかわっても、闇のなかに「いる」ものに興味を持つはずです。

浅草花やしき お化け屋敷「桜の怨霊」 怖さ:★★★☆☆

花やしき「桜の怨霊」の入り口。
花やしきのお化け屋敷は、僕がプロデュースしたなかでは、かなり初心者向け。お客さんを追い込みすぎないつくりにしました。刺激が長いとなかなかそこから抜け出すことができなくなるので、このお化け屋敷の刺激は短めにつくってあります。

花やしきはもともと、花園(花のある庭園)だったという由来から、桜の花の物語をお化け屋敷にしました。怖いけれど、桜の綺麗なイメージも楽しめるつくりになっています。また、出口をでれば「遊園地」という楽しい世界が広がっているのは、遊園地とお化け屋敷の相性がいいところ。すぐに他の遊びに夢中になれば、怖さを引きずることもありません

まずは家族など、安心できる身近な人と声をかけ合いながら、お化け屋敷に挑戦してみましょう。どうしても怖いときは、歌を歌うのが効果的。次の歌詞を考えることで、意識を紛らわせることができます。

密閉シアター「いるかもしれない」 怖さ:★★★★★

密閉シアター「いるかもしれない」は、オンラインで自宅にいながら、新感覚のホラー体験ができる。
こちらは僕がプロデュースしましたが、先にあげたものと違ってかなり怖いです。怖いのが大好きな子だけ、挑戦してみてください。

密閉シアター「いるかもしれない」は、それぞれのおうちのトイレが舞台。スマートフォンと連動したイヤホンをつけて真っ暗なトイレに入り、便座に座ったら、再生ボタンをおしてみてください。クレプシードラ社の空間音響技術「Re:Sense™」は、音で空間全体を再現してしまう特殊な技術。ひとりしかいないはずのトイレに、誰かがいるような感覚を味わえるかもしれません……。

家のなかでの体験なので、すぐに現実に戻れるという点では安心できますが、小学生のお子さまは大人と一緒にトイレの明かりはつけたまま、片耳だけイヤホンをつけて体験してみてください。怖いものには自信がある大人は、ぜひ両耳をつけておひとりで体験を。しばらく自宅のトイレが怖くなってしまっても、私は責任をとれませんが(笑)。

ホラーで親子の「本気」を共有してもらえたら

見えない暗闇に何が潜んでいるかを想像するという「ホラー」は、お子さんの知識欲を満たしたり、想像力を鍛えたりできる、エンターテインメントのひとつです。好奇心が強い人ほど、未知なる「お化け」や「妖怪」に惹かれるのではないかと考えています。

ホラーといっても、怖さのレベルはさまざま。もしお子さまも保護者の方も、同じように怖いものに興味があるなら、上手に選びながらホラーコンテンツを取り入れてはいかがでしょうか。大人が自分と同じものを「本気」で楽しんでいると感じることで、お子さまの情操はより豊かに成長するはずです
五味弘文さん プロフィール

お化け屋敷プロデューサー。株式会社オフィスバーン代表取締役。1992年、後楽園ゆうえんち(現 東京ドームシティ アトラクションズ)において、『麿赤児のパノラマ怪奇館』を手がけ、以降、30年近くにわたりおばけ屋敷を制作。その数は100本を越える。

代表作に、赤ん坊を抱いて歩くおばけ屋敷『パノラマ怪奇館〜赤ん坊地獄』、本物の廃屋を移築した『東京近郊A市〜呪われた家』、幽霊の髪の毛を梳かして進む『恐怖の黒髪屋敷』、靴を脱いで体験する『足刈りの家』、死者と指切りをしてくる『ゆびきりの家』などがある。
やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。