QuizKnockと講談社がつむぐ「本」と物語の未来とは?「推し文大賞」で広める「ありえない物語」

自分だけの特別な本を持てる喜び、それを「推していく」喜びとは?

「あなたの人生観を揺さぶった物語、心に刺さった一行、胸がアツくなったキャラクターなど。キミの中の大切な一冊を、世界に推してみないか!」そんなキャッチコピーとともに出版大手の講談社が2022年11月13日から2023年1月16日まで募集した読書感想文コンクール「推し文大賞」。その舞台裏を探った。

講談社の目指す「ありえない物語」とQuizKnockの共鳴

そもそも、講談社では「推し文大賞」に先立つ形で、2020年に社是を「Inspire Inpossible Stories(直訳=ありえない物語を創造する)」として一新した。「インポッシブルは、『ありえない』というネガティブな意味ではなく、ネイティブには見たこともないような、ありえないようなポジティブな意味も持ち、これからもグローバルに通用する『ありえない物語』を生み出していこうという決意を表しています」(吉羽治役員)
もともと講談社には「おもしろくて、ためになる」という社是が創業当時よりあり、グローバルブランド戦略の一環として刷新したのだという。
今回の読者感想文コンクール「推し文大賞」は、そんな講談社のビジョンを老若男女問わず、広く知らしめることを目的として朝日学生新聞社協力のもとに開催された。講談社の書籍を対象として人生観を揺るがした物語、心に刺さった一行、胸がアツくなったキャラクターなど深く感銘を受けた内容を読書感想文として全国から募集し、今回、最優秀賞3名(中学生以下の部、高校生の部、大学・一般の部)ほか優秀賞9名、団体賞2校ほか入選15名が発表された。
アンバサダーは、クイズ王の伊沢拓司さんが率いる東大発の知識集団「QuizKnock」。QuizKnockは「楽しいから始まる学び」を目指しており、講談社の「おもしろくてためになる≒Inspire Impossible Stories」という社是と合致していることから、2022年よりQuizKnock×講談社文庫フェア ようこそ! QuizKnockの本棚」フェアなどコラボレーションを多数おこなってきた。

今回の受賞者の中にも「今回の受賞作の本とはQuizKnockさんの講談社文庫のフェアで出会った」(池濱碧衣さん/高校生の部・優秀賞・推し本:『すべてがFになる」森博嗣・著)という声もあるように、QuizKnockと講談社の共鳴関係は浅からぬものであることから、今回のコンクールのアンバサダーをするに至ったという。

伊沢拓司さんの考える「推し文」と読書感想文の違い

伊沢拓司さんは今回のコンクールは通常の読書感想文とは異なり「非常にスポーティな賞」で「非常にトリッキー」だったという。「読書感想文は主観的ですが、推し文は自分が作ったものではないものを他人におすすめするという客観的な視点が必要なうえに、その誰かは自分で決めねばならないという不確定要素が多く、自分で決めることが多いコンクールでした」(伊沢さん)

そんなスポーティでトリッキーだという難易度の高い推し文の受賞作品とはどんなものだったのだろう?
伊沢さんは、中学生以下の部で「私が数学を好きになったきっかけ」で最優秀賞を受賞された城下あかりさん(推し本:『浜村渚の計算ノート』著:青柳碧人)の選定の理由を以下のように続けた。

「15年前自分が中学生のときにこの賞に応募するとなったら、外連味(けれんみ)に溢れる=ちょっと変わったことをして目立ってやろうとしたと思うのですが(笑)、今回の応募作品はきちんとしていて、かつ面白く読み進められるものでした。中学生ゆえの伝える難しさがあると思う。たとえば、大人と中学生の『これまでに読んだことがない』は伝わり方がまったく違います。城下さんの作品はエピソードの選択やまとめ方に客観性がうかがえました。中学生のほうが使える武器が少ないにもかかわらず、真摯に高い壁をよじ登ったということが素晴らしいと思います」

高校生ならではの「悩み」の生々しさ

続いて高校生の部について、同じくQuizKnockの山本祥彰さんは中学以下生の部と比べて次のように評した。

高校生には高校生ならではの生々しさがありました。自分の高校生時代を思い返しても選択肢が増えさまざまな悩みが増えていった時期でした。そんな自分の悩みに精一杯になりがちな高校生という時代に、ほかの人に何かをおすすめする、ということは非常に貴重なことだと思います。今回の高校生の部も悩みをテーマにした作文が多いのがリアルでした。他人に文章をおすすめすることで自分の悩みが鮮明に表れていました。人に本をすすめる面白さがありました」

山本さんから賞状を授与された「みんなが集う場所」で最優秀賞を受賞した玉木まりあさんの推し文は、「人生の選択を迷っている人に向けて『しずかな日々』(椰月美智子・著)を人生を振り返る機会として読んでほしい」という文章で締めくくられており、非常に「悩み」と「人生」がリンクした「推し文」となっていた。

人生経験と読書体験の相関性。そして「推し文」の喜びとは

大学・一般の部について、QuizKnockの須貝駿貴さんは「大学以降で獲得できる専門的な概念や豊富な人生経験が伝わってきました。読書は人生を豊かにし、豊かな人生の経験は読書体験を豊かにするという相互関係があります。それを受けて、その本がその人の人生にどのような特別さを持っていたか、を重視しました」とコメント。
さらに、「『推し文』の『推し』とは『自分にとってかけがえのないもの』も意味しているのではないでしょうか。であるからこそ、他者にその良さを伝えたいと思います。実際、教科書のように誰にとっても同じような効果がある本というものには簡単に出会えるのですが、なかなか特別な本は教えてもらえないんです。たとえ、誰かの特別は自分にとって同じ意味の特別でなくとも、別の何かを呼び起こしてくれるはずです」と続けた。
それを受けて、大学・一般の部で最優秀賞を受賞した南千尋さんは自身の受賞作品「言葉のたび」(推し本:『わたしの芭蕉』加賀乙彦・著)について「普段から、国語教員として働く中で、言葉は思った様には伝わらず、思わぬ様に伝わってしまうと感じていた。自分の思いを伝えられたことを嬉しく思います」と喜びの言葉を述べた。
また、優秀賞を受賞した常楽みちるさん(推し本:『喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima』森博嗣・著)は「学ぶことではじめて遠くがあることがわかる。遠くがわかることで自分が遠くにいける。という一文があり、学ぶことは、遠くへ行く手段であったり、自分の中の確固たるテリトリーをつくることができる、ということと気づかせてもらった」と須貝さんが評したように、受賞者それぞれが「推し本」がいかに自分の人生にとっての「特別」であるかを、受賞の言葉としていた。
誰かの人生にとって特別で、かけがえのない1冊の本=「Impossible Stories(ありえないような素晴らしい物語)」を生み出していけたら……そしてそのことで世の中を少しでもより良いものにできたら……そんな講談社の出版社としての挑戦は続いていくといえそうだ。
写真/市谷明美(講談社写真部)

最優秀賞受賞「推し本」3作品

中学生以下の部 最優秀賞受賞 推し本『浜村渚の計算ノート』 著:青柳碧人
高校生の部 最優秀賞受賞 推し本『しずかな日々』 著:椰月美智子
大学・一般の部 最優秀賞受賞 推し本『わたしの芭蕉』 著:加賀乙彦​​
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