ニース&モナコ取材旅行記 ~オーシャンズ2の冒険~ 第6回

はやみねかおる先生と担当編集が行く珍道中の旅!

第6回

Scene04 10月27日(土曜日) かじのろわいやる。

いよいよ、今日はカジノへ行く日。

はやる気持ちを抑えて、朝の散歩。昨日より少し波が高い。でも、まだ泳いでいる人がいる。いいなぁ……。9時半、ホテルに来てくれた垂水さんと一緒に駅へ。

途中、雨にぬれた道で、走ってきたフランス人青年が思いっきりこける。すぐに立ち上がり走り去ったけど、垂水さんが感心する。

「さっきの人、すごいですよ。こけてから立ち上がるまでの短い時間に、悪態を3つ言いましたよ」

フランス人の青年、侮りがたし……。

ニース・ヴィル駅からモナコへ出発!

切符を買う。

タッチパネルをチャッチャと操作する山室さんと垂水さん。ぼくは、日本語のタッチパネルでも操作できないので、まるで魔法を見るような気分で2人を見ている。

買った切符をチェックする機械が故障していて、チェックしないまま改札を通る。改札は、係の人がいるわけでも、機械が通せんぼしているわけでもない。切符を持っていなくても通れる。このやり方は、ドイツでも同じだった。

切符を買わずに列車に乗り、もしバレたら何倍もの運賃を払わなくてはならない。だから、ほとんどの人がちゃんと切符を買う。

列車は、大きい! しかも、一部2階建て! 当然、2階席に座って、モナコに向かう。


さて――。普通に、「モナコ」と書いてるけど、モナコはフランスではない。独立都市国家だ。

えらそうに「独立都市国家」と書いてるけど、詳しいことは知らない。各自で調べてほしい。

〈解説〉
⇒モナコは、1861年にフランス保護下の公国として独立。バチカン市国についで世界で2番目に小さい国で、広さはだいたい東京ディズニー・リゾートぐらいの大きさです。


ぼくが知ってるのは、モナコにはカジノがあるということや、モナコGPぐらいだ。

モナコの駅に着いたのは、10時半ぐらい。駅の周辺は、ニースと違って、ゴミゴミと賑やか。郊外の巨大ショッピングセンターに来たような感じがする(個人の感想であり、モナコ駅周辺を正確に表現しているものではありません)。

入り江には、大きなヨットやクルーザー。

ただ、道路は、フェラーリやポルシェなどの高級車だけでなく、大衆車も、ものすごく汚れた車やボコボコにへこんだ車も走っている。どうして走れるのだろうというぐらい、壊れた感じの車もあった。

一番衝撃的だったのは、ボンネットの代わりにビニールシートを貼った車。日本なら、警察に止められるレベルだ。写真を撮れなかったのが、つくづく残念。

指さしてるけど、山室さんの車ではありません。

歩いて、丘の上のカジノへ。カジノの駐車場には、マセラッティが停まっていた。

「はやみねさん、写真を撮ってください!」

山室さんが、少年の瞳で言った。裸婦像と撮ったときより、目がキラキラしている。 山室さんは、まさにスーパーカー世代。マセラッティを見たら、黙っていられない気持ちは、じゅうぶん想像できる。

カジノの前には、団体観光客など、たくさんの人。みんな、11時の入場を待っている。

入り口には大きな体の黒服が2人。たとえアメリカ大統領が来ても、時間にならなければ通さない! という雰囲気で立っている。

ぼくは大統領でもないし、そこまでして早く入場したくないので、おとなしく時間が来るのを待つ。

1878年開館のカジノ・ド・モンテカルロ。

でも――。11時になっても、入場できない。他の観光客は、時間におおらかなのか、カジノ前で記念写真を撮ったりして気にしてない様子。

「黒服の人に、訊いてきます」

垂水さんが、サッと動く。

「工事の関係で、一般の入場は午後2時からになったそうです」

すぐに帰ってきて報告する垂水さん。フランス語を話せるというのは、本当に凄い。ぼくなら、この説明を聞き出すのに5~6年ぐらいかかるところだ。

3時間の余裕ができたため、ぼくらは丘の反対側にあるモナコのお城に向かう。途中、「カジノ」という名前のスーパーマーケットや、「PLANET SUSHI」という店を見つける。

「プラネット スシ」……。日本語にしたら、「惑星寿司」。いったい、どんなお寿司を出してくれるのだろうか……?

 ドイツのスーパーマーケットで、無茶苦茶な寿司の作り方をビデオで流していたのを思い出した(お米を酢で煮ていた段階で、別の食べ物だと思う)。
お城は、丘の上。行くには、長い坂を登らなくてはいけない。いろんな国の人が、ふぅふぅ言いながら、坂を登っている。考えてみたら、城に行くのに苦労するのは当然だ。簡単に行けるような城なら、すぐに攻め落とされてしまうだろう。

お城から、グレース・ケリーのお墓があるモナコ大聖堂へ向かう。

グレース・ケリーというのは、アメリカの女優さん。どこかの王女様になったという話は聞いてたけど、詳しくは、各自で調べてほしい。あと、『ダイヤルMを廻せ!』は、おもしろい。

〈解説〉
⇒グレース・ケリー(1929―1982年)。1956年にモナコ大公と結婚し公妃となったが、52歳のときに自動車事故で急逝。


大聖堂も、多くの観光客で賑わっていた。こんなに賑やかだと、グレース・ケリーも安らかに眠っていられないのではないかと心配になる。

大聖堂の次は、モナコの水族館。ぼくは、水族館や動物園、博物館などに行きたがる人は、知的レベルの高い人だというイメージを持っている。現に、山室さんや垂水さんは、目を輝かせている。

ぼく?

正直、海に潜って魚を見てるので、わざわざ水族館に入らなくてもという気持ちはある。でも、楽しそうな2人に水を差してはいけないという気持ちと、地中海の魚はどんなのだろうかという興味で、中に入る。

しかし、魚は魚。地中海でも近所の海でも、そんなに違いはない。現に、タイやヒラメもいるし、ベラによく似た魚もいた。

たいていの魚は、美味しく食べられそうだった。山室さんは、ぼくがベラを食べるというと驚いていた(関東の人って、ベラを食べないんですよね……。そういえば、ボラも泳いでいたので「ボラのヘソ」って食べたことあります? って訊いたら、妙な顔をされた。ボラのヘソ、美味しいのに……)。

ニモの大群

垂水さんは、水族館の魚を「旨そうか不味そうか」で見る人は初めてだと、感心というより呆れていた。たくさんクマノミが泳いでる水槽があったので、「一網打尽にして、唐揚げにするのがいい」というと、

「ニモを唐揚げにするなんて!」

と獣を見るような目を向けられた。ちょっとばかり映画にでたからといって、小魚であることに変わりはない。小魚は、高温の油で揚げて、骨ごと食べる――これが基本だ! ……と思うんだけど……。

水族館を出たところで、雨。雨宿りを兼ねて、昼食を取る。ぼくら3人が注文したのは、魚料理とワイン。水族館に行って、3人とも魚が食べたくなったようだ。

お店のマスターも奥さんも、日本のことをよく知ってるようで、折り紙の鶴と奴さんをあげたら、店に飾ってくれた。

山室さんが、「鶴、折れるんですね」と意外そうな顔をしたが、ぼくらの世代では、たいていの人が折れると思う。

はやみね先生の折った鶴は、言葉の壁を越えて、現地の人を笑顔にさせていました。良い子のみなさんも、小さいころから折り紙を覚えておきましょう!
※この連載は、2018年の「ニース&モナコ取材旅行記」を再構成したものです。

はやみね かおる

小説家

1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。 「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)などの作品がある。 子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。

1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。 「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)などの作品がある。 子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。