捨て犬から人を助けるお仕事犬に…日本初のセラピードッグ「チロリ」から学ぶこと

第1回「生きることをあきらめてはいけない」と教えてくれたチロリ

ライター:高木 香織

暖かな春です。子どもに「犬とお散歩したいな」とおねだりされることもあるでしょう。そんな子どもたちにぴったりの本を見つけました! 今注目を集めている『命をつなぐセラピードッグ物語』には、いろいろな犬が登場します。

この犬たちは、つらい時を過ごしたけれど、セラピードッグを育てる活動をしている大木トオルさんに助けられて、今では立派に人の役に立つお仕事をしています。

セラピードッグって、どんなお仕事をするのかな? そこで、著者の大木トオルさんに「日本で最初にセラピードッグになったチロリ」のお話を伺ってきました!
日本初のセラピードッグとなったチロリ(国際セラピードッグ協会提供)
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犬が病気や体の不自由な人の治療やリハビリを手伝う

──『命をつなぐ セラピードッグ物語』に登場する犬たちの中で、チロリはひときわ輝いています。チロリは、どんな犬だったのですか?

大木トオルさん:瞳のとってもきれいな、ふわふわした毛の雑種犬です。そのうるんだ大きな目でじっと見つめられると、お年寄りも体の不自由な人もつい頰が緩んでしまうような犬だったんですよ。
(国際セラピードッグ協会提供)
──どこで出会ったのですか。

大木さん:ぐうぜん通りかかったゴミ捨て場に、5匹の子犬たちと一緒に段ボール箱に入れて捨てられていたんです。近所の子どもたちがお世話をしていました。子どもたちと一緒に貰い手を探したのですが、最後に残ったのが母犬のチロリで、私が家族として迎えることにしました。

──とってもきれいな、やさしそうな犬ですね!

大木さん:そうなんです! でも最初は、ドロドロに汚れていて、棒で叩かれたのか後ろ脚が曲がってしまっていたんですよ。前の飼い主にいじめられていたのかもしれませんね。家に連れていっても、しばらく人間に対しておびえていたんです。

──どうやって心を許してもらったのですか。

大木さん:私のベッドで一緒に寝て、暖かな部屋で過ごして「ここは安全なのだ」と分かってもらったんです。大切なのは、チロリの心がほぐれるまであせらず待つことでした。やがて、外国から連れてきた犬たちと一緒に、セラピードッグになるための勉強を始めたんですよ。

──セラピードッグのお仕事を教えてください。

大木さん:お医者さんと一緒に、お年寄りや体の不自由な人の治療やリハビリのお手伝いをします。犬がそばにいると、人は「犬に話しかけたいな。なでたいな。一緒に歩きたいな」という気持ちになるんですよ。「動物介在療法」といって、犬には人が生きる意欲を呼び戻す力があるんです。

つらさを知っているからこそ、弱い者に寄り添える

──チロリは、日本初のセラピードッグですね。なぜチロリをセラピードッグにしようと思ったのですか。

大木さん:そのころ、すでに外国にはセラピードッグがいたんです。でも、外国ではセラピードッグは限られた犬種の犬しかなれないと思われていました。

チロリが家にやってきたのは、私が日本でセラピードッグを育てる活動を始めたころでした。やがてアメリカから連れてきたセラピードッグのシベリアン・ハスキーが病気になって苦しむようになると、チロリはその犬をなめてあげたり、一緒にゆっくり歩いたりして励ましてあげたのです。

そんなチロリのやさしさを見て、私は「雑種の犬でもセラピードッグになれるのではないか」と思ったんです。いじめられ捨てられたつらさを知っているからこそ、弱い者に寄り添えるのでしょう。チロリは私の期待に立派に応えてくれました。


──チロリはどんな活動をしたのですか。

大木さん:お年寄りの施設に行ってリハビリなどを手伝って、大活躍したんですよ。チロリは「生きることをあきらめてはいけない」と私たちに教えてくれました。日本で育ったセラピードッグの第1号として、多くの人たちの心に残る犬となったのです。もう亡くなりましたが、私にとってとても大事な、かわいくて大好きな犬でした。
命をつなぐセラピードッグ物語 名犬チロリとその仲間たち
(国際セラピードッグ協会提供)
大木トオル(おおき・とおる)
音楽家、(一財)国際セラピードッグ協会創始者。弘前学院大学客員教授、社会福祉学者(日米)。東京・日本橋人形町生まれ。東洋人のブルースシンガーとしてアメリカで活躍しつつ、動物愛好家として日米の友好・親善に尽くす。また、ライフワークとして殺処分寸前の捨て犬や災害にあった被災犬たちを救助してセラピードッグに育て、高齢者施設や障がい者施設、病院、教育の現場などで多くの人々の心を支える活動をしている。著書に『動物介在療法 セラピードッグの世界』(日本経済新聞出版社)、『わがこころの犬たち ─セラピードッグを目指す被災犬たち』(三一書房)、『犬とブルース』(鳥影社)ほか多数。
高木香織(たかぎ・かおり)
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
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たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。