シートンが「環境保護運動の先駆者」といえるワケ…児童書作家が解説

オオカミ王ロボ、愛犬ビンゴ、NYのノラネコ・キティ

(写真アフロ)
近年、シカやイノシシ、サルなどの野生動物による被害が大きな社会問題になっています。

「駆除」という発想ではなく、SDGsの観点から野生動物への理解と共存をはかっていくうえで、私たちはどう考えていったらいいのでしょうか──。

『シートン動物記』の翻訳を手がけた児童書作家の石崎洋司氏に、シートンの現代性と、親子で「名作」を読むことの効用について解説していただきました。
アーネスト・トンプソン・シートン

やっぱり名作は子どもたちに読んでもらいたい!

児童書の世界には、いわゆる「名作」と呼ばれるものがたくさんあります。

『赤毛のアン』、『宝島』、『小公女』、『海底2万マイル』、『ファーブル昆虫記』……。

読書好きの方なら、一度は読んだことがあるのではないでしょうか。

“自分も読んでためになった、将来の教養としても、ぜひ子どもたちにも読んでほしい”──大人としてはそう思いますよね。

ただ、お話の舞台が古かったり、現代のアニメや小説にくらべて物語の展開が地味に見えたりと、なかなかいまの子どもたちにアピールしないのも事実。無理に読ませて、本ぎらいになられても本末転倒だし……。

児童書作家のわたしも、実はそう思った時期がありました。

けれども、世界の名作の翻訳や、偉人の紹介をしているうち、気づきました。日本で、そして世界で長く読み継がれてきた作品には、やはりそれだけの「力」がある、と。

そして今回、『シートン動物記』の翻訳にとりかかるなかで、また新しい「力」を発見しました。=「現代と未来を生きる指針になる力」です。

シートン動物記には「いま」がつまっている

シートンが活躍したのは、日本でいえば明治時代の半ばから第二次世界大戦のころまで。55話あるといわれる動物の物語も、いってみれば、すべて「戦前のお話」です。

では、ノスタルジー感いっぱいの古くさいお話なのかというと、とんでもない!

むしろ「いま」が、いやというほどつまっているのです。

19世紀末から20世紀半ばまでの世界は、いうまでもなく激動の時代でした。

世界的規模で戦争や紛争が続き、経済活動が格段に拡大。生活が豊かになった地域もありましたが、さまざまな環境破壊も発生と、いま、わたしたちが直面している問題の多くが、この時代に端を発しています。

ある意味、すべて人間の都合で起きたこれらのことを、自然と野生動物の立場から見つめたのがシートンです。これは、当時としては画期的なことでした。

たとえば最近、野生のクマやイノシシ、サルなどが住宅地に出没したというニュースをしばしば目にしますね。こんなとき、たいていは彼らを駆除することになります。人間の生活のためにはしかたのないことです。しかし殺される側はどうなのか──これについて、シートンは、120年近くも前に、クマの視点から描いた『タラク山のくま王』を書いています。

では、野生の動物への理解と共存のためには、どうしたらいいか。たとえば、国立公園を整備して自然と野生動物を保護し、同時に人々が彼らを観察できる環境を用意するとか──これについてもシートンは、すでに120年以上前『子ぐまのジョニー』という読み物を通して問題提起を行っています。

いま、SDGsが話題にのぼることが多くなっていますが、シートン動物記を親子で読むということは、まさに持続可能な社会、地球を考えることにもつながるんですね。

シートン動物記の新しい楽しみ方

とはいえ、シートン動物記の舞台は北アメリカ大陸。しかも、ある意味、古典。読んでもらうためには、工夫が必要です。

そこで、完訳とはいえ、現代の子どもたちにもわかりやすく、また、お話の世界にすぐになじめるように、説明や表現をくわえたりしました。

お話のセレクトも工夫しました。定番の『ロボ──カランポーのオオカミ王』にくわえて、ペットブームをふまえて、シートンと愛犬の物語『ビンゴ』と、ニューヨークはマンハッタンのノラネコの話『キティ』を収めることにしました。

微笑みと涙があふれる愛犬とのやりとり、まるでディズニーのアニメを見ているかのようなキティの冒険は、名作を読み慣れていない子どもたちにも、きっと楽しんでもらえるでしょう。

なにより、つがおか一孝さんによるイラストは、この本の最大のハイライトです。毛並みの一本一本まで生き生きと描かれた動物たちの姿は、見ているだけでも心がわきたってくること、まちがいありません。

絵/つがおか一孝(『シートン動物記 ロボ──カランポーのオオカミ王ほか』より)
そして、もうひとつ。新しい楽しみ方を提案させてください。

それは、本文中の地名をたよりに、スマホやパソコンを使って、グーグルマップを検索、その場所をグーグルストリートでながめながら読むという方法です。

たとえば『わたしの愛犬ビンゴの物語』に出てくる、カナダのマニトバ州カーベリー。ここでは、いまでも360度地平線の大平原を見ることができます。

「こんなところで、シートンとビンゴは暮らしていたんだね!」と、びっくりすることでしょう。

『ニューヨークのノラネコ・キティの話』は、ニューヨークのロウアー・イーストサイドが主な舞台。さすがに100年以上たった現在、お話の面影はありません。それでもニューヨークの下町のふんいきや、お話のなかでは建設中のウィリアムズバーグ橋の現在のすがたや、その橋のたもとのようすから、キティが暮らしていたころの下町の面影が想像できて、がぜん楽しくなってきます。

さらに、キティが一時期連れていかれたニューヨーク北部の避暑地のようすや、そこからキティがマンハッタンをめざしたルートをたどると、まるでキティといっしょに冒険をしている気分になることでしょう。

“名作だから”“読書だから”と、肩ひじをはる必要はありません。とにかく楽しく読むこと。それを第一に本を手にしてください。それで、結果として、さまざまな気づきと学びがある──それこそが、名作の名作たるゆえんなのです。
シートン動物記 ロボ──カランポーのオオカミ王ほか(アーネスト・トンプソン・シートン/著 石崎洋司/訳 つがおか一孝/絵)
シートンの飼い犬だった、いたずら好きの「ビンゴ」。けっして人間につかまらず、「人狼」とおそれられたオオカミ王「ロボ」。ニューヨークの下町で力強く生きるノラネコ「キティ」。シートンが愛した動物たちの、生きるための知恵と戦い、悲しみを描く傑作3編を完訳でお届けします。
石崎 洋司(いしざき ひろし)
東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。『世界の果ての魔女学校』で野間児童文芸賞、日本児童文芸家協会賞受賞。主な著書に、「黒魔女さんが通る!!」シリーズ(講談社青い鳥文庫)、『杉原千畝 命のビザ』『福沢諭吉 「自由」を創る』(講談社火の鳥伝記文庫)、翻訳の仕事に『クロックワークスリー マコーリー公園の秘密と三つの宝物』(講談社)、「少年弁護士セオの事件簿」シリーズ(岩崎書店)などがある。