こども家庭庁が23年発足 ホントに全ての子どもに役立つ? 保護者との関係は?

東京大学教授・山口慎太郎先生に聞く「こども家庭庁」#1 ~「こども家庭庁」の役割と私たちの生活の変化~

東京大学教授:山口 慎太郎

子育て支援の経済学/著:山口慎太郎(日本評論社)
著書『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)は、第41回サントリー学芸賞を受賞。  撮影:森﨑一寿美

――確かに子ども関連の政策が充実をするのはとても嬉しいですが、一方で財源として、また税金が増えるのは厳しいというのが本音です。

山口先生:そうですよね。しかし、これは増税で対応するしかないと思います。

一番大事なのは所得再分配、つまり所得の大きいところにはより多く税の負担をしてもらい、それを社会保障給付などの形で、納めた金額にかかわらず広く行き渡らせるようにすることです。しかし高所得者の数は、決して多くないので、それほど大きな金額にはならず、財源とまではいかないため、どうしても広く負担してもらう必要があります。

負担をしてもらう方法にはふたつ可能性があり、ひとつは消費税を上げ、それらを社会保障目的に使用することです。

今の日本の状況から見ると、ヨーロッパ並みの20%程度に上げる余地はあると考えられます。というのも、子育てや家族支援のための公的な金銭的支出である『家族関係社会支出』の国内総生産(GDP)に占める割合を各国で比較すると、OECD(経済協力開発機構)の加盟国の平均より日本は低く、支援が特に充実しているフランス(3.68%)やイギリス(3.60%)、またスウェーデン(3.54%)は、日本(1.61%)の2倍近いという大きな隔たりがあるからです。

そしてもうひとつは、社会保険の一部として子育てに関する支援をしていくということです。広く回収できるお金なので、十分財源に達することができると思います。

いずれにせよ先ほどもお話をしたように、将来的には支援をした子どもたちが経済を成長させてくれるので、支出ばかりが増えるわけではないと考えることができるでしょう。

――子どもの支援が拡充されることで、子どもの健全な成長につながり、それが将来的に日本社会全体に好影響を与えるということが分かりましたが、その他の影響はあるのでしょうか?

山口先生:子ども支援は出生率にも好影響を与えることがわかっています。家族関係社会支出のGDP比が高い国ほど出生率も高い傾向にあるデータも出ていて、例えばフランスなどは出生率が1.84(2021年1月INSEEフランス国立統計経済研究所)で、日本の1.30(2022年6月厚生労働省)と比較して、かなり高いことがわかると思います。日本の少子化問題については私が子どものころから取り沙汰されていましたが、一向に改善はありませんでした。

今回の「こども家庭庁」の発足で、子育て支援が強化されることで、先に説明をした子どもの将来をより良いものに導くことに加え、少子化対策にもなるということが考えられます。

ほかにも、新たな取り組みとして日本版DBSの導入(イギリスのDBS[Disclosure and Barring Service])を参考にしたもので、警察のデータベースを検索し、教師や保育士などに性犯罪の前歴がないかチェックをし、「無犯罪証明書」を発行する)も検討されています。過去に性犯罪歴がないことを証明することで、保育や教育の現場で起きる性犯罪を防ぐことを目的としています。

また子どもが事故などで死亡した際の経緯などを検証し、データベース化することで再発を防ぐCDR(チャイルド・デス・レビュー)も検討されています。子どもを安全な社会で育てるという意識もよりいっそう社会に浸透していくのではないでしょうか。

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「こども家庭庁」の発足が子育て支援、特に福祉の面に力を入れようとしていること、そしてこれらの支援が子どもと社会をより良い未来に導くということがわかりました。

ただ、忘れてはいけないのはこの効果はすぐには出ないということでしょう。子どもの成長を見守るように、私たちも「こども家庭庁」から発せられる支援を受けて、子どもたちが大人に成長した30~40年後に、大きなリターンとして戻ってくるという認識を持ち、短絡的な結果だけで、「こども家庭庁」の動きを判断するのではなく、長期的な視点で見ることが必要です。

第2回は、日本のみならず各国でも問題となっている少子化について、その現状と日本がとっている対策などについて、引き続き山口先生に詳しくお話をお伺いします。

取材・文/知野美紀子

2回目 少子化対策を何十年やっても子どもが増えない「根本原因」
3回目 「子どもの貧困」7人に1人が衣食住に余裕なし こども家庭庁は子どもを救えるの?

山口慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学経済学研究科教授。1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。
専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。

子育て支援の経済学/著:山口慎太郎(日本評論社)
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やまぐち しんたろう

山口 慎太郎

東京大学教授

東京大学経済学研究科教授。 1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。 2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。 専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。 『家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞。同書はダイヤモンド社ベスト経済書2019にも選出される。『子育て支援の経済学』(日本評論社)は第64回日経・経済図書文化賞を受賞。 現在は、内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。

東京大学経済学研究科教授。 1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。 2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。 専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。 『家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞。同書はダイヤモンド社ベスト経済書2019にも選出される。『子育て支援の経済学』(日本評論社)は第64回日経・経済図書文化賞を受賞。 現在は、内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。