「誰よりも漫画を読んできた」ことが子どもの強みになった! 漫画研究家の父親の漫画の与え方とは?

「漫画研究家の本棚」 #3 京都精華大学マンガ学部教授・吉村和真先生

国際的コミュニケーションにも漫画は強い武器に

──子どもと漫画の関係を近くで見守ってきて、どのような想いがありますか?

吉村先生:僕自身、漫画が好きで、漫画の影響を受けて研究をしていることもあり、漫画というコンテンツを非常に信頼しています。

漫画を信頼するからこそ、子どもにはたくさん良い漫画に出会ってほしい。でも、長所だけでなく短所、面白いところだけでなく怖さもあるので、全体を見渡したうえで、幅広い視点から漫画を捉える必要があると思っています。

今の日本では、漫画と接触せずに生きていくのは難しいほど、私たちの生活のあちこちに漫画があります。「たくさんの漫画を読んできたという留学生と「小さいころはよく読んでいたけど、今はあまり」という日本人学生とで読んでいる総量を比べると、実はあまり変わらないんです。それぐらい、日本に住んでいると、好きとか嫌いにかかわらず、いつのまにか多くの漫画に接することになるわけです。

この環境をうまく自覚して活用できれば、自身の視野をもっと広げたり、表現の受け皿を大きくしたりできるかなと思います。また、漫画が世界でポピュラーカルチャーになった今、たくさんの漫画を知っていることは、将来の国際的なコミュニケーションの場においても、子どもたちの強い武器になると思っています。

最後に息子が、「『同い年の誰よりも漫画を読んでいる』という、誰にも負けないものが軸にあるおかげで、だいたいのことはへこたれないようになった」と言っていました。

たぶん彼の思考や価値観の半分以上は、漫画がもとになっていると思われます。僕のこうした育て方というか、彼の育ち方が良かったのか悪かったのか、全くわかりませんが、息子の個性を形成した大切なところに漫画があることを、嬉しく思っています。

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吉村先生は、漫画を信頼しているからこそ、息子さんに制限なく読ませ、その結果が強みと個性へつながったという言葉に、漫画の持つ力を改めて感じさせられました。

つい言ってしまう「漫画ばっかり読んで!」という言葉を、たまにはぐっと飲み込んで、好きなだけ漫画を読ませる機会を作ってあげることで、子どものさまざまな面の成長へとつながるかもしれませんね。

「漫画研究家の本棚」連載は全3回。

吉村和真(よしむら・かずま)

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1971年、福岡県出身。立命館大学大学院博士後期課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員を経て、現在、京都精華大学マンガ学部教授。2024年末、学校法人京都精華大学理事長に就任。専門分野は思想史、漫画研究。
執筆や講演活動を続けるなか、2001年の日本マンガ学会設立、2006年の京都国際マンガミュージアム開館を担当、近年は全国の自治体や省庁と連携するなど、マンガ研究のための環境整備に取り組んでいる。

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