『放課後死体クラブ(仮題)』 中学生のスクールカーストとリアルな友人関係 〔出版ジャーナリスト〕は「学校がしんどい中高生にそっと手渡したい」

出版ジャーナリスト・飯田一史が読み解く 思春期の息苦しさと解放 (2/2) 1ページ目に戻る

出版ジャーナリスト:飯田 一史

クラスの中の面倒な人間関係の描き方がリアル

この本の主要な登場人物は中学2年生の女子ふたりだ。設定や筋立てはシンプルで、本を読み慣れていない人でも読みやすいだろう。

主人公のひよりは、クラスのいわゆる一軍女子に「入れてもらっている」人間だ。グループのほかのメンバー、とくにリーダー格の存在の顔色をうかがって過ごしている。そのあたりの人間関係のめんどうくささの描写は、身に迫るものがある。

そんなひよりと仲を深めていくのが、クラスのなかでは浮いている由木だ。休み時間は心霊やオカルトの本を読むか、席で伏せて寝ている。

ひよりは一軍内で話を合わせるためだけにK-POPアイドルのファンクラブにまで入る。本当は好きでもないのに、話題についていくために義務感で触れるコンテンツがある。

現実でも「あるある」な話だが、「昨日のあれ観た?」に対応するために時間を割き、表層的な関係が切れないようにするのは、当事者にとってはとても気疲れする。

一方で、ひよりには、本当は好きなのに、クラスでは打ち明けられない趣味がある。それがホラー映画鑑賞だ。

写真:アフロ
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ひよりと由木は、ある出来事をきっかけに互いの趣味を知る。そして由木が目標とする「敬愛するホラー映画監督の次回作に出演し、すばらしい『死にざま』の演技をする」ことに、演技経験者のひよりは協力するようになる。

ただ学校では今までどおり、付き合いの薄いクラスメイトのフリをして日々を過ごす。一軍女子が由木をからかい、暴言を吐いても。由木に対する悪口を、ひよりが強要されても。

クラスのなかでいじめがあったとしても、ヘタに介入して自分に矢が飛んでくるのをおそれて、葛藤しつつも何も言えなかった経験がある人、望まずして加担した人も少なくないだろう。こうした気持ちのゆれ動きの描き方もリアルだ。

噓や建て前でできたクラスの秩序を別の虚構でぶっ壊す

よくよく考えると、たまたま学校やクラスがいっしょになっただけの関係のなかから、ぴったり波長や趣味が合う人が見つかる確率は、奇跡に近い。

自分の小中学校時代をふりかえってみても、必ずしも気が合わない人同士の集まりになる可能性のほうが高いだろうと思う。

にもかかわらず、趣味のコミュニティや勤め先なら「合わなければ所属先を変える」ことができるが、学校はそう簡単に変えられない。次にクラス替えがあるタイミングまではいっしょだし、場合によってはほぼ同じメンツで中学や高校の3年間をいっしょに過ごすことになる。

うかつなふるまいをしてクラス内での序列の下位層に転落してしまうと、短くても数ヵ月、長いと年単位でイヤな思いをして過ごすことになる。かといって表面的な付き合いを維持するのも、毎日、精神的にすり減る。どちらに転んでも地獄だ。

ひよりはそういう状況のなかで、本当の自分を隠している。ある意味では、学校では死んでいる。ゾンビのように生きている。クラスでは周囲の視線など気にしていないように見える由木も、家庭には居場所がない。いきいきとした自分としては生きていない。

そんなふたりが、死者になりきることで、本当の事件と見まがうような演技をすることで、生を取り戻す。

くわしくはネタバレになるので書けないが、『放課後死体クラブ(仮題)』ではそんな出来事が描かれる。ここは感動的かつ象徴的なシーンで、ぜひ読んでほしいところだ。

フィクションだからこそ救われる「本当の心」

逆説的な話だけれど、フィクションの中にしか、自分が心の底から満たされるものがないと感じるとか、何かに憑依しきっている瞬間に「本当のこと」に触れている実感を持つ、ということはある。小説を読んで没頭しているときにも、そんな感覚は訪れる。

ひよりと由木のような友人関係が現実でも得られたら、素晴らしいことだ。うわっつらな友だちづきあいを超えた関係性を求めている人に対して、この本は大胆に一歩踏み出すための力を与え、背中を押してくれる。

でも、もしそういう関係を作ることが難しくとも、自分が好きな物語のなかに、コンテンツのなかに、「本物」だと思える輝きを見つけられたら、死んだように過ごしている日常も、どうにか生き延びることができる。ひよりや由木がそうしてきたように。

そしてこの小説は、まさにある種の読者にとってそういう支え、救いになれる作品でもある。

文/飯田一史

放課後死体クラブ(仮題)

放課後死体クラブ(仮題)

ひなた きな(著)  satsuki(絵)

発売日:2026/10/21

価格:定価:本体1600円(税別)

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飯田 一史
いいだ いちし

飯田 一史

Ichishi Iida
出版ジャーナリスト・ライター

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp

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青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp