小学校低学年が「消えたい」「生きるのがしんどい」 子どもの「自己決定力」の育て方とは?〔精神科医〕が解説

精神科医さわ先生に聞く、「ちょうどいい親子の距離感」 #3

精神科医 さわ

思春期を「自立のプロセス」ととらえる

では成長して思春期を迎えた子どもにはどのように対応するのがよいのか。

思春期だと反抗的な言動が目立つことがありますよね。例えば、「先生が言っていることがおかしい」など、言われたことに対して強く反発したり。

私は、これを単なる反抗ではなく、「大人に対しても、自分の意見が言えるようになってきた」証だと、保護者の方には前向きに受け止めてほしいと思っています。それこそが、自立に向かう健全な成長の過程の一つだからです。

日本では「協調性」が良いこととされる傾向が強く、「先生にとって都合が良い生徒」が良い子とされがちです。しかし、物事を批判的に考える力や、「それはおかしい」と感じる感性も育てたいと思っています。

もちろん、子どもの意見に親がすべて同意する必要はありません。

まずはジャッジせずに、「あなたはそう思ったんだね」「どんなところが納得できなかったの?」と受け止め、その上で、「先生はこう思っているかもしれないね」「人によって考え方は違うこともあるよ」と伝える。そして、「意見の違いがあってもいい」という視点を持たせてあげることで、子ども自身の視野を広げる力になると思っています。

親の間違った介入とは?

写真:years/イメージマート
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一方で、注意したいのは、親の励ましが逆効果になる場合があるということ。

例えば、思春期の子どもが容姿の悩みを打ち明けたとき、「そんなことない、あなたは十分かわいいよ!」と返したとしましょう。それ自体は善意でも、子どもは本気の悩みを軽く否定されたように感じてしまい、心を閉ざすことがあります。

「どうせ話してもわかってもらえない」と思ってしまうと、子どもは次第に本音を話さなくなってしまうことも。

子どもの感情を否定せず、まずは受け止めること。「正しさは親の中ではなく、その子自身の中にある」ことを忘れないでくださいね。

───◆─────◆───

さわ先生は、「私が思う子育てのゴールは、『きっとこの子は大丈夫』と親が思えること」だと言います。

さらに、「親だって悩んでいいし、迷ってもいい。誰かに助けを求めたっていい。それは弱さではなく、人として自然なこと」だとも話してくれました。

「きっとこの子は大丈夫」と思える日まで。親もまた、悩んだり迷ったりしながら、少しずつ前に進んでいくものなのかもしれません。

取材・文/山田優子


精神科医さわ先生の連載は全3回。
1回目 〈学校の行き渋り〉を読む
2回目 〈子どもとスマホ〉を読む

『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』著:精神科医さわ(日本実業出版社)
『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』著:精神科医さわ(日本実業出版社)

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せいしんかい さわ

精神科医 さわ

Seishinkai Sawa

塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。 1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。 発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。 患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」といった声が多く寄せられ、「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。 主な著書に『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』、2025年8月22日発売予定『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』 (共に日本実業出版社) YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)や、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。 塩釜口こころクリニック https://shiogamakokoro.com/ 精神科医さわHP  https://dr-sawa.net/

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塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。 1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。 発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。 患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」といった声が多く寄せられ、「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。 主な著書に『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』、2025年8月22日発売予定『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』 (共に日本実業出版社) YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)や、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。 塩釜口こころクリニック https://shiogamakokoro.com/ 精神科医さわHP  https://dr-sawa.net/

やまだ ゆうこ

山田 優子

Yamada Yuko
ライター

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。