【起立性調節障害:OD】朝起きられない子どもたち 親が大切にしたい3つのこと

#3 「やる気」や「生活習慣改善」だけでは治らないODとの向き合い方

──子どもの話を聞くときに注意することはあるのでしょうか。

田中先生:病状への不安や、学校生活での問題、勉強についての悩みなど、起立性調節障害(OD)の子どもはさまざまな困難に直面し、悩みをかかえていることが多いものです。ふだんは家族に悩みを話すことはなくても、「いつでも聞くよ」という姿勢を保っていれば、子どもが自分の気持ちや考えを話しだすこともあるでしょう。

そのようなときは、矢継ぎ早に質問をくり出すのではなく、子どものペースに合わせることが大切です。「わかってもらえた」と感じると、それだけで悩みは軽くなり、前向きな気持ちも生まれやすくなります。どうすればいいか、いっしょに考えていきやすくもなるでしょう。答えが出ないこともあると思いますが、いっしょに向き合っていくことが大切であり、子どもにも大きな支えとなることでしょう。

子どもの悩みを聞くときのスタイル

1)傾聴
「正しい解答」を示そうとあせらず、まずはじっくり話を聞きましょう。子どもの言葉を言下に否定したり、反論したりすれば、そこで話は終わってしまいます。子どもは「相談してもムダ」と話をしなくなるでしょう。

2)姿勢同型
子どもが座ってひじをついていたら、自分も座ってひじをつく、子どもが静かでゆっくりとした口調なら、自分も同じように静かにゆっくり話すなど、姿勢や口調を合わせることで話しやすくなるとされます。

ありがとう体験の積み重ね

──なかなか症状が改善しないとき、マイナス思考に陥りがちだと思いますが、そのようなときに心がけることはなんでしょうか。

田中先生:そんなときこそ「ありがとう体験」を増やしていきましょう。

だれかに「ありがとう」と言われたとき、自分がだれかに「ありがとう」と言うとき、自然に笑みが浮かび、なんだかうれしい気持ちになりませんか? 「ありがとう」がある空間は、ホッとできる居場所になるでしょう。

また、どんな出来事も、視点を変えれば「よい点」がみつかるものです。見過ごしたり、聞き流していたりする子どもの行動や発言のなかに、「いいな」と思えることがあったりもします。「できない、無理、ダメだった」と悪いことばかりではなく、「よかったこと」に目を向けていくのも、プラス思考の実践につながります。

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プラス思考を実現する、簡単なお手伝い

田中先生:子どもの自発的な行動を待っているだけでは、「ありがとう」の言葉をかける機会はそう多くはありません。ごく簡単なお手伝いを頼み、子どもが動き出したらすぐに声に出してはっきり伝えます。

「ありがとう」という言葉には、その言葉をかけられた人に、自分の行動は認められている、自分の存在が受け入れられていると感じさせる力があります。子どもの自尊感情を高められる可能性があります。

窓ふき、雑巾がけなど、ときには「ちょっと面倒」なお手伝いを頼んでみるのもよいでしょう。適度な運動にもなり、ストレス緩和にも役立つ可能性があります。

ストレスを緩和させる作用をもつセロトニンという脳内物質は、リズミカルな運動をしているときに分泌されやすいといわれます。しゅっしゅっとリズミカルな動きを要するそうじなどは、よいリズム運動になります。体調のよいときに、ぜひいっしょにやってみてください。

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全3回にわたり、起立性調節障害(OD)について、田中大介先生にうかがってきました。

起立性調節障害(OD)とつきあっていくキーワードは、「無理はしない」「でもあきらめない」。親もダメだしではなく、子どもができていることに、「それでいいんだよ」「大丈夫だよ」というメッセージを送っていってほしいと田中先生。

子どもの状況を理解し、前向きな気持ちで、いっしょにODと向き合っていきましょう。

取材・文/佐々木 奈々子

田中大介
東京都生まれ。1990年、昭和大学医学部卒業。昭和大学病院NICU、公立昭和病院小児科、富士吉田市立病院小児科、昭和大学附属豊洲病院小児科などを経て、現在は昭和大学保健管理センター所長・教授、昭和大学病院小児科教授。戸塚共立おとキッズクリニック小児科等にて、起立性調節障害をはじめ、小児期から青年期の子どもの診療や保護者の相談にあたっている。

『起立性調節障害(OD) 朝起きられない子どもの病気がわかる本』(田中大介/監修)
ODの根本的な原因を知ることが、適切に対応していくための第一歩です。本書では原因や症状など病気の基礎知識から対処法、学校とのかかわり方までアドバイス。ODの実態と悩む子どもの支え方がわかる一冊です。

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