本上まなみ「『助けて』『できない』が言えない子どもだった」

【大人気連載復活】わたしが子どもだったころSeason2:Vol1.本上まなみさん (3/3) 1ページ目に戻る

ライター:山本 奈緒子

『映画 すみっコぐらし』のナレーションに込めた想いとは

ただ、だからこそ苦しい思いもずっと抱えていました。長く、これが本当に自分のやりたいことなのか分からない、スキルもない、という状態で歩き続けていたので、「自分は何者でもない」という悩みが貼りついている感じで。私は16歳で仕事を始めたんですけど、27歳で結婚するまでずっと、「自分には何ができて、何ができないのか」という試行錯誤と闘い続けていた。そのストレスは、相当なものがありましたね。

10月31日から公開の『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』では、“ひとりで頑張りすぎてしまう子”がテーマとなっていますが、私も当時は「助けて」「できない」という弱音が吐けなかった。私のまわりはみんな、その仕事がやりたくてたまらなくてこの世界に入った、という人ばかりでしたから。本当に苦しかったですね。

©2025 日本すみっコぐらし協会映画部
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だから、物語に登場する空の王国の「おうじ」の孤独に、すごく共感してしまいました。父親である「おうさま」の力になりたいんだけど、何をどうしたらいいのか分からない。スキルもない。それでも頑張りたくて、必死に一歩踏み出そうとする姿は、過去の自分を見ているようで、心に染みて染みて。だけど「助けて」と言っていいんだよ、「できない」と言っていいんだよ、そして助けてくれる人はきっといるから。そんな切なる思いを込めながら、ナレーションを吹き込ませてもらいました。

子どもたちには“好き”を追求する力を蓄えてほしい

でもそうやってもがきながらも、さまざまなお仕事を経験させてもらっていくうちに、自分は何が得意で何が苦手なのか知っていくことができたと思います。私の場合は幸運にも、“なりたい自分”が見つかる前から、そうなっていける機会を与えてもらえた。だけどこれはかなり特殊なことで自分の子どもたちには当てはまりません。皆、日常の暮らしの中で、自力で、自分の得意なこと、苦手なものを発見していかなければならない。だからこそ子どもたちにはそれをつかみ取れる人になってほしい、そう思いながら子育てしています。お母さんの人生は参考にならないので、「いろいろな人から話を聞いてごらん」と伝えているんです。

そのうえで、「好きなことはどんどんやってみればいい」とも言っています。もちろん苦手なことも、ある程度はできるようになったほうがいい。でもそれ以上に、“好き”を追求する力を蓄えるほうが大事だと私は思っていて。そのほうが、これからの時代を生きていくうえで絶対に強いと思うんですよね。

©2025 日本すみっコぐらし協会映画部

子どもたちは今、上の娘は大学1年、下の息子は中学1年になりました。娘はもう大人なので、自分の好きなものがしっかりと分かっている。そのうえで「この勉強がしたい」と大学は自分で選びましたし、趣味も持っていて、そこにまい進もしています。算数が苦手で、今でも数字に弱いところはありますが、好きなもの、得意なものが分かっているので、「私はこういう人間だから」と自己承認できているといいますか。のんびり屋さんですけど、自分の芯をしっかり持っているようなので、親としては「良かった」とちょっとホッとしている次第です。

一方、息子はまだ中学生で、思春期らしい繊細なところもあって。もうしばらく成長を見守りながら、慎重にサポートの声がけをしていけたらなと思っています。息子が小学校1年のとき、一緒に河川敷を散歩していたら、地元のサッカーチームが練習をしていたんですね。それをジィーッと見ていたので、「入ってみない?」と声をかけてみたところ、息子は「うん」とうなずいて、その後6年間ずっと続けたんです。そのチームは中学生になると卒業になるのですが、今でも同級生仲間とときどき顔を出して練習しているほど。そうやって、自分なりに自分の居場所を作っているよう。そこからまた世界を広げていってくれたらなと、そっと願っています。

本上まなみ
1975年5月1日生まれ。東京都出身、大阪府育ち。俳優として多数の映画、テレビ、CMなどで活動。近年の出演作に映画『リバー、流れないでよ』、連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)など。また『newsおかえり』(ABC)では火曜コメンテーターを担当している。エッセイストとして書籍も多数刊行しており、最新刊に『みんな大きくなったよ』(ミシマ社)がある。2002年に結婚、1女1男の母
『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』  ©2025 日本すみっコぐらし協会映画部

『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』
2019年に初めて劇場アニメが公開されて以来、2023年に公開されたシリーズ第3弾まで累計観客動員数が300万人を超えるなど、大ヒット映画シリーズに成長。今作では、雨続きのすみっコたちの町に、空から〈おうじ〉と〈おつきのコ〉がやってきて、新たな物語が始まります。深刻な水不足に陥っている王国を救おうと、一人で頑張っているおうじ。すみっコたちが加わって、雲の上の大冒険にいざ出発! ナレーションを務めるのは、今作も井ノ原快彦さんと本上まなみさん。10/31(金)から全国ロードショー。

映画のシーン画像をたっぷり使った絵本も同日発売!

映画のお話を何度でもじっくり味わえます。

映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ

映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ

小宮山 みのり(文・構成)  日本すみっコぐらし協会(協力)

発売日:2025/10/31

価格:定価:1210円(税込)

HM 笹浦洋子/STY 吉村由美子/衣装 humoresque/アクセサリー SOURCE/カメラマン 柏原力

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幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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