「作者の生きている“今”を感じることができたら」『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』特別審査員・ 磯崎園子(絵本ナビ編集長)〔後編〕

絵本ナビ編集長・磯崎園子さんのメッセージ

磯崎 子どもの頃に読み親しんできた絵本を、今も新鮮な気持ちで驚いたり楽しんだりすることができる。ここに絵本の大きな魅力を感じつつも、最近の新しい作品の中で味わったことのない感覚や楽しみ方に出会うことができた時にはすごく嬉しくなります。やはりそこには、作者の生きている「今」を感じることができるからだと思うんです。

どんな生活をしていて、どんな感情が生まれてきて、どんなことに興味があるのか。そういうものがベースになって生まれてきたものに惹かれてしまいます。それでいて、時代が変わっても変わらないものが見えてきた時、そこに更なる愛おしさを感じます。

──そういう意味では、世代によって触れてきたものがだいぶ違いますよね。

磯崎 だからこそ、新しい感覚で育ってきた方が生み出す「あたらしい絵本」にも期待してしまいますよね。今までの「良き絵本」のイメージと違うもの、例えばデジタルネイティブ世代が読みたい絵本はどんなものなのか。あるいは、私と同世代や上の世代の方が新しい感覚に触れた時にどんな世界が見えてくるのか、そこも楽しみです。

「あたらしい絵本大賞」をきっかけの一つとして利用してもらいたい

──さらに「あたらしい絵本大賞」の特徴として、デジタル応募という点や、動画部門の存在などがあります。

磯崎 絵本の紹介を20年近く続けている身としては、やはり当然「紙の絵本」の大切さを実感しています。一緒に読む楽しさ、自分でめくる喜び、その重みや質感、所有することへの憧れ等々……皆さんが感じていることと同じだと思います。

けれど一方で「絵本は紙でなくてはいけない」という思い込みがあるのは、実は私たちの方なのかもしれないとも思ったんです。絵本をどんな場面で活用していくのか。どんな読み方をするのか。絵本という要素がもっと広がっていくとすると、どんな形があるのか。そこの可能性を制限してしまうのは勿体ないのかもしれない。このコンテストが、そういった可能性を探っていく第一歩になっていってくれると信じています。

──具体的にはどんな作品が求められているのか。応募者としてはそこが気になるところかと思います。

磯崎 作品を生み出すきっかけとしては、作者の内側から湧きあがってくるものを形にする方法もあるでしょうし、「こんな絵本が欲しかった」という出発点もあるかもしれないですよね。「絵本業界に一石を投じたい!」というような強い意思のある作品ももちろん大歓迎ですし、ありふれた日常のさりげない瞬間の中から生まれたような絵本も大歓迎です。

審査も、まずは傾向を決めずに、子育てに役に立つ、赤ちゃん絵本、キャラクターの登場する絵本など、普段はコンテストの大賞に選ばれにくいジャンルも含めて、フラットな視点で選んでいきたいと思っています。

──締め切り直前にはなってしまいますが、最後に応募を考えられている方にメッセージをお願いします!

磯崎 ある一冊の絵本の登場をきっかけに、誰かの生活に影響を与えていくことがあるかもしれません。その一冊で世の中ががらりと変わることはないかもしれないけれど、少しずつ変化を起こしていくことはあるかと思います。そんな志を持っている方々が「読者と選ぶ あたらしい絵本大賞」をきっかけの一つとして、大いに利用してもらえるとうれしいです!

「読者と選ぶ あたらしい絵本大賞」の応募締め切りは2025年1月31日(金)、最終選考作品の発表予定は2025年4月28日(月)の予定となっています。詳細は追ってお知らせしていきます。

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