「絵本×動画で“あたらしい絵本”が生まれることに期待!」『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』特別審査員・ つむパパさんインタビュー〔後編〕

つむぱぱ 子どもたちは大人が想像している以上にクリエイティブで、絵本だってただの読み方をしないし、なんなら自分たちで勝手におはなしを作って遊びます。そういう意味では、絵と文字があって、大人が子どもに読み聞かせるといった「絵本らしい絵本」からすこしはみ出していると明確に言えるような絵本があってもよいのかなと思います。

例えば、文字のない絵本や擬音しか出てこない絵本なんていうものも登場していますよね。そんなふうにある種の制約をかけることで、今まで見たことがない絵本が「あたらしい絵本大賞」を通じて生み出されると、とても有意義なコンテストになるのではという期待があります。

──「あたらしい絵本大賞」は、デジタルデータでの応募という点が特色です。つむぱぱさんの制作環境はいかがですか?

つむぱぱ 僕は最初からデジタルです。絵本やInstagramの漫画はペンタブレットを使っていましたが、今はiPadで「Procreate®」というアプリを使っています。

デザインの仕事をペンタブレットでやっていたので、その流れで使っています。本当は、手描きで描きたいなという思いは、ずっとあります。やっぱり伝わる温度感が違うなと思っていて。でもなかなかできないのは、手で描くのとデジタルで描くのではスキルが違うからです。今から手描きを一から始めて、もう1回スキルを高めていくという時間的余裕がどうしても持てず、ついつい今もデジタルで描いているという感じです。

──つむぱぱさんのTikTok動画の「しりとり」シリーズはおもしろくて、ずっと見ていられますが、ふと「これが“あたらしい絵本”なのかな」と考えました。お子さんたちの生の声に合わせて、アニメーションを作っていますよね。「あたらしい絵本大賞」には「動画部門」もあるので、こういった作品もアリかと思いました。

つむぱぱ 音声もアリなんて、いいですね! 実は、本物の子どもの声にアニメーションをつけるという手法自体、意外と今までやられてなかったんですよ。たぶん、僕の動画をみなさんが見てくださったり、「おもしろい」と言ってくださるのは、シンプルにコンテンツとしての新しさがあるのかなとも思っていて。

「あたらしい絵本大賞」の話を聞いたときに思ったのが、1年でもかなり大幅に技術が進歩するほど、ドラスティックに変わっていっている現代だからこそ、チャンスもすごくあるということですね。今までの絵本ではできなかったことを、技術によってブレイクスルーするみたいな発想で考えられたら、まだまだおもしろいものがたくさん出てくると思います。

──実は絵本と動画は相性が良く、今後さらに豊かな世界が生まれると考えています。つむぱぱさんが「動画部門」の応募作に期待していることはなんですか?

つむぱぱ 動画部門は、特に「絵本」という定義にこだわらず、「これが自分の絵本だ」と思ったら、絵本として応募してほしいですね。それはもう、期待いっぱいです! 絵本は「紙」とか、「ページをめくる」みたいな既成概念があるので、そこに「動画」という手法をかけ算にしたら、どんなものが生まれるのか! そもそも世の中に「動画絵本」が少ないですし、できることはたくさんあると思います。僕のInstagramでやっているのも絵本と言ってしまえば絵本なので、ハッとしました。僕も応募しちゃおうかな(笑)。

紙の絵本が大事にしてきたことから、あたらしい絵本を考えてみよう

──つむぱぱさんの創作の源は、子どもの姿を作品にして残しておきたいという思いからだとおっしゃっていました。それを、自分だけではなくみんなに見せる作品や動画にしていくコツや、つむぱぱさんご自身が作品作りのときに考えていることなどを教えていただけますか?

つむぱぱ コツ……になるかどうかはわかりませんが、僕のケースをお話ししますね。僕は元々、アートディレクターとして、テレビCMの企画を考える仕事をしていました。テレビCMは、15秒、30秒という尺の決まりがあり、その中で起承転結をつけて、視聴者の耳目を引かなければならないという、すごく難しい仕事なんです。

1本のCM作品を作るのに、100のアイデアを考えるんです。それくらい日々企画を考えて、どんなオチをつけたらいいのかとずっと考えていました。その基礎があるので、Instagramの10枚の画像にエピソードを入れて、最後にオトすという流れを考えることができる。楽しんでもらう方法論の基礎は、たぶんそこにあるのではと思います。

先ほど話題に出た、新しい技術を組み合わせて新しい絵本を作るとなったときに、絶対に外してはいけないのが、「絵本に受け継がれている、古典的で大切なエッセンス」を大事にすること。新しいことと古いことのバランスをうまく取っていくところが、ひとつポイントになってくるのかなと思っていて。「起承転結がはっきりしている」など、絵本がずっと大切にしていることはたくさんある。めくるときにダイナミックな展開を期待する読み手の気持ちに、どう応えるのか、はたまたどう裏切るのかみたいな部分を、きちんと計算するのも大事かなと。

──絵本のエッセンスと一度しっかり向き合ってから、新しいものを使うのか、変えるのかを考えてみようということですね。「人に見せる」という意味では、アナログもデジタルも基本的には同じ作業が必要ですね。

つむぱぱ そうです。「なにか新しいことをやろう」というところから考えるのではなく、順番を守って、絵本で大切なことはなんだろうという発想から始めると、「ここをこう変えたほうが、新しく見せられるんじゃないか」というアイデアが浮かび、絵本というフィールドの中でおもしろいことができるのではないかと思います。

──絵本ナビとしては、実際に手に取って楽しめる紙の絵本が大切だという考えが、大前提にあります。しかし現実として、今の子どもたちの周りには、たくさんのデバイスやメディアがあふれていますし、デジタルの本の需要も増えています。今後生まれてくるデジタル絵本の可能性や、逆に「ここだけは変わらないでほしい」と思うところはありますか?

つむぱぱ 少しだけ未来の話で想像すると、毎回読むたびに絵やおはなしが違う絵本が、AIで自動生成されてタブレットに表示される世界が、もうすぐそこまで来ていると思います。

AI化の波が押し寄せる中で、人間の手で創造するものにどんな価値を与えられるのか。あるいは、紙であるからこそ発揮できる価値はなにかといった、対AIという視点での新しい価値の作り方というのが大事になってくると思います。今、僕たちは、その過渡期というか、大きな波が押し寄せる一歩前の時間を歩んでいるのではないかと。

もしかしたら「あたらしい絵本大賞」から、今後の絵本の在り方を決定づける一打が生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。淘汰されるというよりは、新しい価値を見つけようというフェーズに入ってくると思いますので、それがどんな世界なのかと想像すると、ワクワクしますね。

「あたらしい絵本大賞」は新しいコンテストですから、正直だれも正解がわからない。僕自身も、どんな作品が応募されるのか予想がつきませんし、何を基準に評価したらよいか迷うと思います。そういった意味で、自分がこれがいいと思ったものを応募する場としては、ぴったりなのではと。何も気負うことなく、どんどん参加してほしいなと思いますね。1回目は、出した人が勝ちです!

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