『きりのなかで』全ページ無料公開！【「あらしのよるに」全７巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー　20年ぶり“奇跡“の新シリーズが３月12日スタート！

と、そのときだ。

二ひきの　あいだに、いわが　ころがりおちてきた。
「ひゃっ、あ、あぶねえ！」
バリーが　とびのいて　しりもちを　つく。
すなけむりが、もあもあと　まいあがる。

「さあ、いまだ！」

ガブは　がけを　すべりおり、メイの　てを　ひくと、はしりだした。
はしって　はしって　はしりまわったあげく、二ひきは、やっと　ちいさな　どうくつに　とびこんだ。

「ハア、ハア、た、たすかったす。ああ、あいつらに　くわれなくて、ほんとうに　よかった。」
ガブの　ことばに、せなかを　むけたまま、メイが　ポツリと　いった。
「ええ、これで、あなたひとりで　ぜんぶ　わたしを　たべられますからね。」
「え？　お、おいら、そんなつもりで。」
「さっき、いってたじゃないですか。ヤギの　にくが　だいすきだって。」
「そりゃ、うまいっすよ。こう、じわ～っと、あぶらの　のった　やつなんて……。
おっと、なにを　いわすんでやんすか。
おいら、やくそくどおり、もう、ヤギの　にくは。」

「フフフ、じょうだんですよ。さっきから　二かいも　たすけてくれて　ありがとう。
まえに『おいらが　たすけてやる。』って　いってたこと、ほんとうでしたね。」
「もちろんでやんす。だって、お、おいら、いまは　ヤギの　にくじゃなくて……。」
ガブは　したを　むくと、ちいさな　こえで　ポツリと　いった。
「ヤギが……すきなんす。」
「そんな、て、てれるじゃないですか。
わたしだって、ガブと　いっしょに　この　おかから　つきを　みるの、
たのしみに　きたんです。」
「そうだ。もうそろそろ、つきが　でるころでやんすよ。」
ガブが　どうくつの　そとを　のぞきみる。

「ああ、だめでやんす。また、どんどん　きりが　こく　なってきてる。」
「おかげで　あいつらに　みつからなくて　すみますよ。」
「でも、おいら、どうしても　みせたかったんでやんす。ここから　みると、やなことなんて、
みーんな　わすれちまうくらい　きれいな　つきなんす。」
「また、まんげつの　ひに、みに　きましょうよ。
でも、わたし、ガブと　はなしてるときも、やなこと、みーんな　わすれてるんですよ。」
「ほ、ほんとでやんすか。お、おいらもです。」
つい　おおごえを　だした　ガブの　くちを、メイが　おさえた。
「しっ、だれかが　ちかづいてくる。」

みみを　すますと、バリーと　ギロの　こえが　きこえる。
「いったい、どこに　いきやがったんだ。」
「おい、ここに　だれかの　あしあとが　あるぜ。」
二ひきの　こえが、どんどん　ちかづく。

「まさか、ガブが　くっちまったんじゃ。」
「でも　ガブには、ひとりじめは　ゆるさねえって、いってあるんですぜ。」
あしおとが　どうくつの　まえで　ぴたりと　とまる。
ガブと　メイは、じっと　いきを　ひそめる。

「また　きりが　こく　なってきやがったぜ、バリー。」
「ああ、おまけに　すっかり　ひが　くれちまってよ。うっかり　あしでも　ふみはずしたら、
たにそこに　まっさかさまですぜ。」
「しかたねえ。きょうは、あきらめるか。」

さっていく　あしおとを　きいて、どうくつの　なかの　二ひきは、おおきく　いきを　はいた。

やがて、ちいさな　どうくつは、たにそこから　わきあがってくる　きりの　なかに、
ふかく　ふかく　しずんでいった。
まるで、二ひきの　ひみつを　おおいかくすかのように。

……『大型版　あらしのよるにシリーズ（４）　どしゃぶりのひに』へと続きます！