授乳期から始める子どもの【低位舌】対策 「離乳食」「歯みがき」「変顔」で予防〔専門家が伝授〕 

口腔内の成長は乳幼児から! 舌が下がることの危険性と生活習慣 #3

口や顔の筋肉を使うことが重要です。親子で楽しみながら動かしましょう! 写真:アフロ

新米のお母さんなら「授乳」や「離乳食」について、最初はわからないことだらけです。育児書や母親、ママ友からの意見を参考にしている方も多いのではないでしょうか。

ところが、当たり前だと思って行っていたことが、実は赤ちゃんにとって負担になっていたり、成長の妨げになっていたりすることもあります。

連載第3回は、正しい授乳方法や離乳食について、舌の重要性を伝えている石塚ひろみ先生に授乳期から気をつけたいことや、親子でできる予防法についてうかがいます。
(全3回の2回目、#1#2を読む)。

◆石塚 ひろみ(いしづか ひろみ)
歯科医師。オウル歯科院長。
「お口はカラダの玄関」を基本理念とし、訪問診療や障がい者歯科(重症障がい者を含む)にも力を入れている。また、低位舌が口腔内のみならず全身に与える影響や、舌の機能の重要性を広めるために、セミナーや講演活動も精力的に行っている。

【舌が下がることの危険性と生活習慣:第1回 第2回を読む】

授乳の仕方にも深い関係が!? 授乳期から幼児期に気をつけたいこと

赤ちゃんにとって授乳期はとても大事な時期です。授乳期には鼻呼吸の定着や、正しい嚥下(えんげ)を身につけます。また、この時期はお口周りやあごの発達にも影響がある時期です。そのため妊娠を希望する女性であれば、妊娠する前から知っておいてほしい大切なことがあると石塚先生は話します。

「子どもの食いしばりが多いという話(#1を読む)をしましたが、実はお腹の中にいるときから食いしばっている赤ちゃんも多いのです。これは、お母さんの姿勢と関係しています。

お母さんの姿勢が悪いと赤ちゃんが圧迫されて、お腹の中でうまく動けません。そのため、赤ちゃんは歯がなくても食いしばってしまうのです。お腹の中で食いしばっている赤ちゃんは、産まれてからも上唇をうまく使えない傾向にあります。身体を真っすぐにすることと舌の重要性は妊娠前から知っていただきたいことなのです」(石塚先生)

授乳期にちゃんと舌が使えていないと、2~3歳になったときに舌が使えない子になってしまう可能性があります。石塚先生は「これは歯科医の間でも意見がわかれるのですが」と前置きしたうえで、授乳の仕方についてこう話します。

「現在は横抱きで授乳する方が多いと思いますが、赤ちゃんのことを思えば、真っすぐ縦に抱いて授乳するべきだと考えます。

普通に考えて、横になって何かを飲むって難しいですよね。よく考えるとおかしいことが育児では当たり前になっているんです。赤ちゃんの首が据わるまではお母さんはちょっと大変かもしれませんが『大変だから』『難しいから』と、やってこなかった結果が、舌に問題のある子どもが増えた現状なのです。

赤ちゃんは、授乳期に吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)をしっかり学ばなければいけません。吸啜反射とは、口に入ってきたものを吸い上げる力のことで、赤ちゃんが母乳を飲むための一連の反射行動のひとつです。

赤ちゃんは、お母さんの乳首を唇でしっかりとらえ、舌と口蓋(こうがい)で乳首を挟んでしごきながら母乳を飲んでいます。横になっていると舌が上がりにくいため、吸啜反射が悪くなってしまうんです。

また、唇で乳首を挟むことを『リップシール』と呼びますが、このリップシールがちゃんとできていれば、本来、ゲップもそれほど出るものではありません。

横抱きで授乳すると、上唇でしっかりシールすることができず空気を飲んでしまうため、ゲップやおならが多く出るのです。そして、空気でお腹いっぱいになるので栄養が足りず、すぐにまたお乳を欲しがるようになってしまいます。

授乳後に背中をぽんぽんと叩いてゲップをさせるのが当たり前のようになっていますが、当たり前を疑わずに現在まできてしまっているんですね」(石塚先生)

舌小帯や上唇小帯(上の唇をめくったとき中央の粘膜から歯茎にかけて見えるスジ)に問題があり、うまく吸啜できない(吸いつけない)場合は、手術が必要になることもあるとのこと。縦抱きが難しいお母さんは「縦抱き用の抱っこ紐などをうまく活用してほしい」と先生はアドバイスします。

縦抱き用の抱っこ紐。いろいろなタイプのものがあるので、使いやすいものを選んで上手に活用しましょう。 提供:オウル歯科

離乳食の正しい与え方とひと口量

授乳期を終えて離乳食が始まったら、食事の与え方にも細心の注意を払ってほしいと話します。

「離乳食が始まったら、赤ちゃんが上唇を使えているか、唇がしっかり閉じられるかを確認してください。お母さんに気をつけてほしいことは、スプーンを赤ちゃんの口の奥まで突っ込まないことです。これは、赤ちゃん自身に食べ物を取ってもらうためです。

スプーンの先を赤ちゃんの下唇に軽く触れる程度に持っていき、赤ちゃんが上唇でしっかりスプーンを挟んだのを確認したら真っすぐ引き抜きます。

上に持ち上げるようにしてスプーンを引き抜いてしまうと、赤ちゃんは自分の唇や舌の力を使わずに食べ物が口の中に入ってしまうので、お口周りの筋力の発達に支障をきたします。『スプーンは奥まで突っ込まない、引き抜くときは真っすぐに』を徹底してください。

また、ひとくち量も大切です。ひとくちの量は『その人の親指の爪の大きさが絶対にむせない量』といわれています。お子さんのひとくち量が多くならないように気をつけてほしいですね。

ただ、いつまでたっても小さく細かくしてあげていたら咀嚼機能が発達しないので、成長に合わせて少しずつ大きくしてみてください。お母さんがスプーンで正しい量を与え、誘導することが大切です」(石塚先生)

意外な盲点!? 咀嚼と味つけの関係

食事の与え方以外にも、きちんとした咀嚼を促すためには味つけにも気を配ってほしいといいます。

「お子さんが自分で食べられるようになってからは、引っ張って食いちぎるような食べ物を与えないようにしましょう。食いちぎる食べ物は、前歯でかむことを覚えてしまいます。

本来、前歯ではあまり食べ物をかみません。食べ物は奥歯できちんと咀嚼して、唾液と混ぜ合わせて消化するものです。奥歯で咀嚼することを覚えないと、直接的な味じゃないとわかりにくくなってしまうので、味覚に鈍感になる傾向があります。すると、あまり味のない食べ物は嫌いになってしまうんです。

ここで注意が必要なのは、食事の味つけです。濃い味つけの料理や刺激の強い食べ物を与えると、よくかまなくても満足感があるので、丸飲みしてしまい、咀嚼を覚えない危険性があります。

また、咀嚼のできない子はいつまでたってもほっぺに溜め込んでいる場合も多いので、#1でお話ししたように(#1を読む)食事時間が長い子になってしまうのです。

ただ、食事時間が長いからといって急かして食べさせると、むせたり戻したりして、それでその食べ物が嫌いになってしまうこともあります。まずはしっかり咀嚼を覚えさせることが大切です」(石塚先生)

咀嚼ができないと濃い味つけを好み、味の濃い食事ばかりだと丸飲みして咀嚼を覚えないというのは、まるで延々と負のループから抜け出せないような状態です。

食べ物を丸飲みしてしまう子は、往々にして大食いの傾向にあります。「たくさん食べるからといって、きちんと咀嚼ができているかを確認しないまま、親が喜んで次々と食べさせてはいけません」と石塚先生は警鐘を鳴らします。

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