小児性加害者は絶対見抜けない! 気をつけるべきは「怪しい人」より「危険な場所」

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生に聞く 小児性犯罪の加害者の実態#4「防犯対策」

大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士:斉藤 章佳

子どもにかかわる仕事に就く中で、顕在化してきた自身の性嗜好に気づく人もいるという。犯罪を防ぐために親や社会ができることとは。  写真:アフロ
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子どもを狙った性犯罪が後をたちません。報道されているのはごく一部であり、声をあげられない子どもに対する性加害は、おおやけの数よりもはるかに多く起こっていると考えられています。

200人以上の小児性犯罪者の再犯防止プログラムに携わる加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生も「加害者は透明人間となり、どこかに“潜んで”います。どこにいるか分からない」と警鐘を鳴らします。

第1~3回では、加害者の実態やその巧妙な手口について伺いました。今回は、性加害から子どもを守るために親ができることなど、防犯という観点から斉藤先生に伺います。

※4回目/全4回(#1#2#3を読む)

斉藤章佳(さいとうあきよし)PROFILE
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士・社会福祉士。現在まで治療に関わった性犯罪者の数は2500人以上、小児性犯罪者は200人以上に及ぶ。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)ほか著書多数

大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳先生。

加害者は“普通の人”  見抜くことはできない

普段から「怪しい人に気をつけて」と子どもに伝えているママパパも多いと思います。しかし、実際に子どもに性加害をするのは「いたって普通の人であり、見抜くことは困難」と斉藤先生は断言します。

「彼らは“透明人間”になります。つまり、怪しげな特徴はなく、周りの風景に溶け込んでいる“普通の人”だということ。むしろ、やさしくて人当たりのいい人がほとんどです。

また、痴漢・盗撮を繰り返す人たちは、四大卒・妻子持ち・サラリーマンの男性が多いのですが、小児性犯罪者のバックグラウンドについては、とても個別性が強い。事前に見抜くことは至難の業です」(斉藤先生)

小児性加害者の人物像の特定は、外見では難しい。外見上、特徴的な傾向がないからこそ「彼らはどういうところで犯罪行為をしやすいのか」について考えることが大切だと続けます。

「犯罪学には、犯罪空間に関する学問領域があります。犯罪の動機を抱えた人が、犯罪ができる機会に出会ったときに初めて犯罪が成立すると考える『犯罪機会論』という学問があるんです。つまり、犯罪は機会(チャンス)やその環境によって起こるものだということ。

性犯罪が起きやすいのは【入りやすくて見えにくい場所】です。犯行場所は公共トイレがよく知られていますが、団地の階段裏や公園の遊具の裏なども危ないです。

子どもを守るためには、『怪しい人に気をつけて』『不審者に注意』は間違ったアドバイスです。『こういう場所は、こんな理由で危ないよ』と、より具体的に正しい表現に変えて子どもに伝えてください。

また、日中と夕方、夜間では景色がずいぶん違います。こうした犯行機会の日内変動に関しても、注意を払う必要があります」(斉藤先生)

気をつけるべきは「怪しい人」ではなく、「危ない場所」。通学路や公園、習い事への道のりなど、子どもが普段から利用している場所や環境を、加害者の目線から今一度、親子で確認してみましょう。人通りの少なさや、死角になりやすい場所など、改めて気が付けることも多いかもしれません。

再犯防止に期待される「日本版DBS」

この「犯罪機会論」を実践しようとしているのが、「日本版DBS」です。これは、子どもと接する仕事に就く際に性犯罪歴がないことを確認する仕組みのこと。

しかし、学校や保育所、児童養護施設などに利用を義務づける一方で、学習塾やスポーツクラブなど民間事業の利用は任意とされたことに疑問視する声も多く聞かれ、法案の提出は今年(2023)の臨時国会から来年の通常国会以降に先送りされているのが現状です。

「実際にクリニックに通院している小児性加害者には、過去の職歴に教師や保育士のほか、塾講師やインストラクター、ボランティアスタッフ経験者だった人もいます。より包括的で細やかな制度設計をしなければ実効性は低く、今回は正直先送りにされてよかったと思います」(斉藤先生)

「日本版DBS」は、あくまで再犯を防ぐ制度です。再加害率の高い小児性犯罪にとって大きな抑止効果が期待されますが、そもそも「初犯」を防ぐことはできないのでしょうか。

アダルトコンテンツに触れる前に家庭でも性教育

2500人以上の性加害者に、再犯防止プログラムを通して関わってきた斉藤先生。

「ほぼ全員が逮捕されてから来院しているため、初犯は防げないが再犯は防げるというのが加害者臨床の現場での実感」とする一方で、今、期待されているのが「包括的性教育」だとも話します。

「包括的性教育」とは、身体や生殖の仕組みだけでなく、「自分や自分以外の人も大切にする」という人権の尊重をベースに、人間関係や多様性、ジェンダー平等など、広義にわたる性について学ぶ人権教育のことで、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが提唱しています。

「例えば、知らない人に『虫がついてるよ』と声をかけられ、『服の中に入っていっちゃったから、おじさんがとってあげるね』と手を服の中に入れて体を触られても、子どもはそもそもそれが性被害だと分からないため親に報告しません。

早いタイミングで親につながるように、親子の日ごろからの関係性が大切ですし、そこをつなぐのも包括的性教育だと思います。

どんなに親しい人であってもプライベートゾーンに無断で触ることはおかしい、『自分の体は自分のもの』という性的自己決定権を学んでいくことで、性被害を認識することができるし、早い段階で親につなぐことができるんです」(斉藤先生)

全国の学校等においても、性暴力の被害者にも加害者にも傍観者にもしないことをめざした「生命(いのち)の安全教育」が実施されていますが、家庭でもできることはあります。

「小学校低学年くらいから、性教育に関する本を一緒に読むなどして生物学的な面から教えていきましょう。ある程度年齢がいくと、性に対して『恥ずかしい』『汚い』『隠さないと』などの認識を持つようになるため、性的嫌悪感から学びにくくなってしまうケースもあるからです。遅くとも、最初にアダルトコンテンツに触れる前がベストです」(斉藤先生)

包括的性教育は幼少期から始まる継続的な教育で、最初のステップの対象は5~8歳とされています。性に対して誤った知識を身につける前に、関心の度合いに合わせて性や発達に関する正しい情報を伝えていくことが大切だと考えられています。

また、「性教育」と聞くと難しく考えがちでもありますが、「息子の塾帰りに2人で歩きながら、自分の昔の恋愛話をしたりしますね」という斉藤先生のように、日ごろから子どもと体験談を通して、そんな会話をするのもいいかもしれません。

「その際は、なるべく自分の失敗体験を話すようにしています。私も子どもも、そこから学ぶことのほうが多いと感じているからです」(斉藤先生)

怪しげな特徴もなく、景色に馴染む“透明人間”であるという性犯罪加害者。「子どもも性的欲求があるからよろこんでいる」などと認知をゆがめて自身の行為を正当化し、声を上げない子どもに対して巧妙な手口で加害を繰り返します。

「子どもに対する性嗜好や、加害欲求があることを潜在的に気づきながらも、児童福祉が学べる大学や専門学校へ進学する人もいる」(斉藤先生)というほど、その異常な執着と貪欲性には恐怖を感じますが、まずは彼らの存在を身近な問題として捉えることから始め、その実態を正確に知ること。

それこそが、大切な子どもを守る第一歩となるのではないでしょうか。

「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手ぐちで迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(著:斉藤章佳/幻冬舎新書)。

取材・文/稲葉美映子

※斉藤章佳先生のインタビューは全4回(公開日までURL無効)
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さいとう あきよし

斉藤 章佳

Akiyoshi Saito
大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。