「正社員の落とし穴」シングルマザーを待っていた“魔の2年間”【後編】

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「正社員になれば楽になる」と信じていた私が感じた違和感

正社員になって2年目までは、思うように収入は上がりませんでした。入社して間もない私には任される仕事も限られ、昇給や賞与もすぐに大きく増えるわけではなかったからです。

それでも、勤務時間はパート時代より長くなり、残業や持ち帰り仕事も増えていく。収入はなかなか増えないのに、息子と過ごす時間だけは確実に減っていきました。

「いつまでこんな毎日が続くんだろう」と不安になるばかりの日々。けれど、「頑張ったら、きっと評価してもらえて、暮らしぶりがよくなるに違いない」という、根拠のない未来を信じて耐えるしかありませんでした。

そのころ、同じシングルマザーという共通点で仲良くなったママ友がいました。彼女はパートで働きながら、児童扶養手当も満額に近い形で受け取っているようでした。当時の私は、正社員として働くことで公的な支援が減り、息子との時間も削ってまで仕事をしているのに、生活は少しも楽にならない現実を、納得できないと感じていました。

だからこそ、彼女の様子を見て、「同じシングルマザーなのに、どうしてあの人のほうが余裕があるように見えるんだろう」そんなふうに思うことが、何度もありました。正直に言えば、「私はこんなに働いているのに」「あの人はパートなのに手当ももらっているんだ」と、相手を責めるような気持ちになったこともあります。

今振り返れば、それぞれの家庭に事情があり、見えていない大変さもあったはずです。それでも当時の私は、自分のしんどさでいっぱいで、誰かと比べずにはいられませんでした。誰かと自分を比べても仕方ない。何より自分で選択した正社員の道です。なのに、どうしても他人をうらやんでしまう自分が嫌でたまりませんでした。

一方で、こんなに頑張っているんだからと、自分の頑張りを誰かに評価してもらいたい思いにも駆られていました。だけど現実は、頑張れば頑張るほど、生活は苦しくなり、息子との時間も減っていく。何か大切なものを手放しながら走り続けているような感覚があったのです。

正社員になり3年目に訪れた変化

「正社員の落とし穴」シングルマザーを待っていた“魔の2年間”【後編】 イラスト:ねこ田ねこ子
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苦しい時期を抜け、正社員になって3年目。会社員としての経験が少しずつ積み上がり、ようやく収入も安定してきました。毎月の支払いに追われる恐怖心が薄れ、生活にわずかな余裕が生まれてきたのもこのころです。

とはいえ、仕事と子育てに追われる忙しさがなくなったわけではありません。責任が増えた分、心身の負担はむしろ大きくなった面もありました。

経済的な不安は少しずつ減ってきましたが、息子と過ごす時間をどう確保するかは、今も手探りの状態です。

それでも、「今月をどう乗り切るか」だけで頭がいっぱいだった頃に比べると、少しずつ選べることは増えてきました。残業をする日と早く帰る日を分けたり、休日は仕事を入れずに息子と出かけたり。完璧にはできませんが、その時々で何を優先するかを考えながら、なんとか日々を回しています。

“魔の2年間”をこれから歩むあなたへ

母子家庭の正社員率が伸びにくい背景には、私が経験したような、正社員になった直後に訪れる「支援が減っていく時期」と「育児の負荷」の重なりがあるのかもしれません。仕事と育児の負担が一気に増える一方で、これまで支えになっていた公的な支援は少しずつ減っていく。私はこの時期を「魔の2年間」と呼んでいます。

正直に言えば、事前にこの苦しさを知っていたら、正社員になることに尻込みしていたかもしれません。ただ、児童扶養手当をはじめとした公的支援は、いつまでも同じ形で受け続けられるとは限りません。

子どもが成長すれば、必要なお金も増えていきます。だからこそ、どこかのタイミングでこの壁と向き合う場面がくるのだとも思います。「正社員になれば生活が楽になる」とは言い切れない現実もあります。

少なくとも私の場合、正社員になった途端に生活が楽になったわけではありませんでした。むしろ最初の数年間は、支援が減り、仕事は増え、息子との時間も減る。想像していた以上に苦しい時期でした。

けれど、あのとき正社員になる挑戦をしなければ、今の私はありません。あのままパート勤務を続けていたら、養育費が止まる不安に怯え続けることも、支援制度の変更に一喜一憂することも、きっと今より大きかったのではないかと思うのです。

私自身、「正社員になれば幸せになれる」と信じていましたが、実際には、公的な支援が減り、仕事に追われ、子どもとの時間も削られるという、想像以上に苦しい「魔の2年間」が待っていました。

もし今、「こんなに頑張っているのに、どうして生活が楽にならないんだろう」と途方に暮れているママがいるなら、それは決してあなただけではないと伝えたいです。

「正社員になればすべて解決する」とは言い切れません。それでも、あの苦しかった時期に積み重ねた経験や働き続けた時間が、少しずつ今の生活の基盤となり、自分と子どもの将来の選択肢を広げてくれていると感じています。

文/構成・橘サチ
※制度内容や条件は取材当時のもので、自治体によって異なる場合があります。

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