中流家庭からプチセレブ一家へ嫁いだライター・華子。愛娘は自分と同じ普通コースで育てようと思っていたものの、義母の一言から、小学校受験への道が始まりました。
まったく未知だった東京のお受験は、庶民にはわからないことだらけ! 受験マニュアルには決して書かれていない(書けない)、お受験の赤裸々な裏話をお伝えします。
第9回は「裏口入学」です。
お受験に疲れきった頃 誘惑が忍び寄る
何年かに1度、週刊誌なんかで目にする小学校お受験の「裏口入学」話。何やらうさん臭く怪しげな人たちが登場し、欲望うず巻くストーリーが展開される。
「またまたぁ〜、そんなのあるわけないでしょ」と半信半疑ながら、ありそうで、なさそうで、やっぱりありそうな筋書きに、ついワクワク……いや、ドキドキしながら野次馬根性でじっくり読み入ってしまう。しょせん他人事だったから。
しかし、お受験の渦中にいると、「実際に裏口入学がある」という噂話がゴロゴロと聞こえてきて、実はちっとも他人事じゃなくなったりするのです。
そして、「まさか!?」と思いながらも、信じてしまいそうになる。
それというのも、裏口入学を持ちかけるのが、社会的信用がある職業や地位の高い人だったり、志望校の“学校関係者”にルートがありそうな人だったりするからなのです。
過酷なお受験生活で心身共に疲弊しきったところに、そんな頼もしい(?)面々が現れ、慈善事業のようにスッと手を差し伸べるのだから、ウッカリ術中にハマってしまうのも無理はない。
通常なら冷静な判断ができる親でも、子どものこととなると我を失ってしまうです。
しかし、どんなに信用のおける人であっても、たとえそれが親友や身内であっても、仲介者がいて金銭を要求してくるような話は「詐欺」。
そして、話を持ちかけた人や仲介者は「詐欺師」です。
だいたい“追い込み期”といわれる8月ごろになると、そういったキナ臭い話がチラホラ出てきます。私がママ友から耳にしたのは……。
① 「友人(士業)が、志望校の関係者〇〇さん(政界人)と知り合いでね。その友人を通じてその人にお金を渡せば“口利き”してもらえるって言われたんだけど……怪しいよね?」
② 「夫の仕事関係者(会社経営者)が、〇〇(著名人)と仲が良いらしいの。いくらか包めばその人に頼めるって。本当かしら?」
です。
その答えは、もちろん、
ウソです。
なぜなら……
その「政界人」も「著名人」も、私と同じお教室にいたからです。
そう、学校関係者であれ、出身者であれ、名家、旧家、老舗企業の御曹司や各界の著名人であっても、はたまた目を見張るような長者番付常連の大金持ちや超有名な芸能人であっても、みんな時間とお金をかけてお教室に通い、必死にお受験対策をしているのです。
望めば何でも手に入れられそうな親子でさえも、同じように先生の厳しい指導を受け、みんな徹底的にしごかれている。
そんな光景を目の当たりにしていると、私立小学校受験の「裏口」や「口利き」の話など、「そんな甘いもんじゃない」とフンッと鼻息で吹き飛ばしたくなってしまうのです。
名門私立の伝統『ご挨拶』が誤解を招いた!?
これまでしつこく話してきたとおり(→過去ログ参照)、名門私立小学校を目指すお受験生活は、並々ならぬ労力を要します。
ペーパーなど、いわゆるお勉強のお教室のほかに、体操や音楽教室にも通い、さらに佳境に差しかかってくると、模試も週末に入ってくる。気付いたら週7日フルで動いているということもザラなのです。
しかも、ダブルヘッダーやトリプルヘッダーという日まである。もう息つく暇もないくらいキツキツなスケジュールで、体力的にも精神的にも疲労困憊。
もし、自分の持つ地位や権力やコネを使い“一括払い”ですんなり入学できるなら、そんな時間も体力もお金もかけてギチギチにお教室に通い詰めることなど誰もしやしない。
ポンと一回お金を払うだけで入れるなら、そんな楽なことはないのです。
それに富裕層の世界やお受験業界は非常に狭く、皆どこかでつながっているのです。そんな裏ワザ(奥の手)が有効なら瞬く間に広がって、我先にと皆こぞって利用しているはず。他人に紹介している場合ではない。
でも、もしかして……、もしかしたら……、「私の知らない世界」があるとも限らない。こんな時は、情報ツウの山の手マダム(第1回、第8回で登場)に聞いてみるのが一番!
【1回目】小学校合格の下準備「お教室面接」には高級果物と身上書!
【8回目】小学校受験「個人のお教室」中元・歳暮の常識 「ダイ」ってナニ!?
「そういう噂話はあることはあるけど、それは“金銭の授受”といったかたちではなく、母校の先生に『お手紙』や『ご挨拶』をするといったものじゃないかしら。伝統校は代々通う家も多いですからね。
私の叔母も子どもの受験のときに『パリのお土産を持って恩師にご相談に行った』らしいけど、それが通じるかは分かりませんよ。上の子はご縁があったけど、下の子はダメでしたから」
なるほど、いかにも上流階級らしい婉曲的なアプローチ。言われてみれば、私の周りでも「必ず同窓会に出席して先生にご挨拶している」とか、「毎年、暑中見舞いや年賀状を出している」といった名門私立校出身者の話はよく聞きます。
でも、だからといって全員が合格しているわけではないので、それは単に言葉どおり“ご挨拶”でしかなく、最終的には試験結果で合否が決まるのでしょう。
ただ、名門私立のご挨拶を大切にする昔からの良き風習が、部外者に「特別扱いでは?」と疎外感を覚えさせたり、「袖の下でも渡しているのではないか」と不信感を抱かせたりしている可能性はあります。
そこに目をつけた詐欺師が「私なら口利きできますよ」と親の心の隙につけ入り、親もまたそれにすがってしまう構図があるのかもしれません。
だとすれば、そんな部外者の不安を掻き立てるような「ご挨拶」の慣習は、残念ながら今の時代、考え直す必要があるのかもしれませんね。