中学受験に親が伴走 4年生・初めての夏期講習のすごし方 大手進学教室『SAPIX(サピックス)』ベテラン塾講師がアドバイス
中学受験伴走 知っておきたい中学受験生の夏休みの過ごし方 #1 ~4年生編~
2024.07.17
教育ジャーナリスト:佐野 倫子
中学受験をすると決めたら、避けては通れないのが「夏期講習」です。
「夏期講習が終わってから、塾の先生たちの言葉がいかに大事だったかを実感しました」と話すのは、2024年2月に長男の中学受験伴走を終えたばかりの、教育ジャーナリスト・佐野倫子さん。
そこで今回は、大手進学教室『SAPIX(サピックス)小学部』の白金高輪校 校舎責任者・竹浪和伸先生に、「学年別の夏期講習の乗り切り方と、子どもを伸ばせる親の伴走」について、佐野さんが聞いてきました。
(全3回の1回目)
佐野倫子(さの・みちこ)
東京生まれ、早稲田大学卒。航空業界・出版社勤務を経て作家・教育ジャーナリストに。2024年2月、中学受験伴走終了。主な著書に『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)。2児の母。
4年生の失敗は想定どおり⁉
──中学受験では、新4年生(3年生の2月)から通塾を開始する子が多いです。4年生にとって、夏休みはようやく塾に慣れたころ。そこでまずは、4年生の夏休みの過ごし方からお伺いしたいと思います。初めての夏期講習、心がけるべきはどんなことでしょうか?
竹浪和伸先生(以下、竹浪先生):4年生は、本格的な受験勉強が始まってから迎える初めての夏期講習です。勉強が思ったとおりにうまく進んでいない子もいるでしょう。
例えば、今日学んだ単元が、明日テストに出てくることがあります。でも、多くの子が1日では、完全に身についていません。それなのに保護者の方が、1日で無理やり復習を終わらせようとすると子どもは焦るし、「あれ? やったはずなのにうまくいかなかったな」と感じてしまいます。
4年生の夏は、「基本うまくいかない」という前提でまずはどっしり構えることですね。
復習は講習合間の休みの日に!
──とはいえ、復習が予定どおりにいかないと、まだ余裕がある4年生でもやっぱり焦るものです。どういう心持ちで勉強を進めたらいいのでしょうか。
竹浪先生:当日に消化できなくても、それはそれ! 講習の合間にお休みがあるので、そこで復習をじっくりやることがおすすめですね。できれば手元にテキストと確認問題や小テストがある状態で、「先生が言ったことが、こういうふうに問題に出るんだ」と実感しながら復習してみてください。
子どもたちも、4年生だとまだ「テストに出るから勉強しなきゃ」という意識はありません。まだまだ、「お母さんやお父さんが喜んでくれるから勉強頑張る!」という意識でやっています。
だから夏の勉強も、子どもたちは一生懸命スケジュールを立てて、見せてくれるんですけど、それがなかなか無謀なんですよね(笑)。例えば、9時から12時は塾、12時から19時は家で勉強というスケジュール。でも、もちろんそのとおりにならない。でも、それでOKなんですよ。
1週間ぐらい経って、私から「どう? 予定表どおりに勉強進んでる?」と聞きますが、「先生、無理だった。もう止める!」と。その場合は、「じゃあ、何時間ぐらいならできるの?」と、また聞いてあげるようにしています。
──子どもは、ゼロか100かみたいに考えがちですから、そこを大人がうまく導いてあげるというわけですね。まずは自分でやってみて、うまくいかないときに、手を差し伸べてあげればよい、と。
竹浪先生:そうです。「自分は2時間ぐらいなら集中できるんだ」ということを知るのが大事なんです。
最近の子は、昔の子に比べて「遥か遠い目標に向けて頑張れ!」というのは苦手な傾向があります。でも逆に、ちょっと頑張ったらいけそうな目標に対しては頑張れます。成功体験を元に、それを発展させるっていうのは現代っ子の方が得意な気がしますね。
1学期の復習・積み残しはどうする?
──夏休みを迎えるにあたって、1学期の既習範囲に積み残しがある場合、夏休み中にその復習もやらなきゃ、と焦る保護者の方々へ、なにかアドバイスはありますか?
竹浪先生:確かに、ものすごく頑張れば、4年生なら1学期分すべての復習はできます。
だけど、あまり完璧主義にならず、例えば「夏前のテストでできなかったこの単元はやり直しておこうね」「ここは苦手だから集中して見直しておこう」というぐらいの気持ちで取り組んでください。
──確かに、ずっと前の教材に気を取られすぎると、夏期講習の復習と相まって大変になってしまいますよね。
竹浪先生:復習ってきりがないですし、積み残しがゼロじゃないとだめだ、と追い詰められるのは得策ではありません。それに4年生の保護者会でもよく申し上げていますが、この時期はミスを気にしすぎるのはやめてあげてください。
子どもなので、計算ミスとか、解答欄をずらして書いたとか、そんなことはたくさんします。「そのミスがなければ○点取れて、上のクラスにいけた」と、お子さんを𠮟る保護者の方も多くいらっしゃいますが、それは他の子もしていること。
ミスはどの子もするし、わが子だけミスがすぐ直るということもありません。それなのに、してしまったミスのことをずっとくどくど言われると、子どももやる気をなくしてしまいます。
もし4年生の子がミスをしたら、「ミスはするもの! ミスをしてもいいから頑張りなさい」と言ってあげてほしいですね。6年生になると、そうも言っていられませんから。
4年生の夏だからできること
──夏期講習から少し離れますが、4年生の夏休みはどういう過ごし方がよいのでしょうか? この時期は、塾一色ではなく、勉強以外にしておいたほうがいいことはありますか?
竹浪先生:いろんな体験をしてほしいと思います。生活に根差した、小さなことでいいんです。
例えば、交通系ICカードを使わないで、あえて小銭で計算しながらお出かけをする。乾燥機を使わないで洗濯物を干してみる、など。
そうすると、頭で計算しながら乗車するし、洗濯物も表面積が広いほうが早く乾くな、と勉強にもつながる経験や体験、実感が積み重なっていきます。
──実際に見たことがあると、習ったときに理解するスピードに差が出ますね。そういう経験をたくさん積むために、保護者はどのように導くべきでしょうか?
竹浪先生:子どもが「やりたい」と言ったことを止めないことです。保護者はつい、「もっとこっちのほうがいいんじゃない?」と言いたくなることもあると思います。でも横から口を出すと、子どもが「やりたい」と言わなくなってしまいます。
まずはどんなことも、どんどんやらせる。ときには大人からみると無駄なこともあるでしょう。ですが、それはきっと子どもにとっては無駄じゃないことが多いんですよ。
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保護者の立場からすると、本格化した受験勉強にうまく順応しなくては! と緊張する気持ちもあるかもしれません。
しかし、まだ10歳前後の子どもが、急に集中力を発揮するのは難しいもの。竹浪先生のお話を聞いて、「急に伸びる」「急にスイッチが入る」という思い込みは捨てて、長い目でみるべきだと改めて整理できました。
大切なことは、子どもの自主性を尊重し、失敗のチャンスを奪わず、辛抱強くはぐくむこと。この中学受験生として迎える初めての夏は、じっくりと勉強の足腰を鍛えていけたらいいですね。
次回2回目では、5年生の夏休みの過ごし方について、引き続き竹浪先生にお伺いします。
撮影/日下部真紀
取材・文/佐野倫子
中学受験生 夏休みの過ごし方連載は全3回
2回目を読む(5年生編)。
3回目を読む(6年生編)。
(※2回目は2024年7月18日、3回目は7月19日公開。公開日までリンク無効)
佐野 倫子
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57