中学受験「天王山」 6年生の夏期講習の乗り越え方 大手進学教室『SAPIX(サピックス)』ベテラン講師が伝授
中学受験伴走 知っておきたい中学受験生の夏休みの過ごし方 #3 ~6年生編~
2024.07.19
教育ジャーナリスト:佐野 倫子
大手進学教室『SAPIX(サピックス)小学部』の白金高輪校 校舎責任者・竹浪和伸先生に聞く、中学受験生の夏休みの過ごし方。
前回は、内容が難しくなった5年生の過ごし方についてお聞きしました。今回は6年生についてです。中学受験の6年生の夏休みは「天王山」といわれるほど重要な時期。この時期の過ごし方によって、成績が大きく左右するとも言われています。
また、6年生の夏期講習は全部で23日間。ほぼ毎日のように塾の授業があります。連日の塾通いに加え、家庭学習も長時間にわたるため、体調面のサポートも重要です。
「わが家も6年生の夏期講習で親子ともに気力も体力も消耗しました……」と語るのは、2024年2月に中学受験伴走を終えたばかりの教育ジャーナリスト・佐野倫子さん。
そこで竹浪先生に「6年生の夏休みの過ごし方」について、佐野さんが聞いてきました。
佐野 倫子(さの・みちこ)
東京生まれ、早稲田大学卒。航空業界・出版社勤務を経て作家・教育ジャーナリストに。2024年2月、中学受験伴走終了。おもな著書に『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)。2児の母。
勝負の夏に忘れてはいけないことは?
──6年生の夏は「天王山」と例えられ、親には「ここで頑張らないと大変」という緊張感があります。まず、夏を迎えるにあたって先生からアドバイスをお願いします。
竹浪和伸先生(以下、竹浪先生):保護者の方からも、しばしば「もう夏が来るのに、まだ子どもが本気モードになってない」とご相談をいただきます。でも子どもは、受験生だからといってある日爆発的に集中して、「怒濤の夏!」みたいにはいかないのが普通です。普段の勉強量がちょっとずつ増えていくだけ。でも思い出してください。半年前と比べてずいぶん勉強しているはずです。
──親の期待値が高すぎるというか、勉強スイッチがどこかで入ることを願って、そのギャップに焦ってしまうんですね。
竹浪先生:はい、多くの保護者の方が、「理想の受験生像」を作っているのだと思います。今は極端すぎる中学受験情報がすぐインターネットやSNSから入ってくるので、仕方ない部分もありますが。実際には、完璧な受験生がゼロとは言いませんが、今までみてきた子どもたちでも数えられるというレベルです。
──なんと! それはお聞きして安心しました。ちなみに実際、夏期講習が始まると、ほぼ連日のように塾の授業があります。休みが少なく、日々完璧に復習をしていくのは難しいとわかっていますが、どういう心持ちで進んでいくべきでしょうか?
竹浪先生:お子さんの性格にもよるのですが、真面目で完璧主義の子だったら、「取りこぼしを気にしすぎず、休みの日にしっかりやればいい」と声をかけてあげてください。のんびりタイプの子なら、保護者の方が復習の積み残しがあることは適度に気にしながら、どこかでキャッチアップのために踏ん張ろう、と意識づけさせることが大事です。
終わらなかったことを気にしすぎて、前のことばかりやろうとすると、今日の復習がおろそかになります。ルーティンが崩れないように、ある程度リズムを持って進んでいくのがいいですね。
毎日のスケジュールの組み立て方
──サピックスの6年生夏期講習は、13時半~19時半ですね。子どもたちの1日のスケジュールはどう組み立てればよいでしょうか?
竹浪先生:授業は19時半に終わり、帰宅すると21時近い方も多いでしょう。少しでもその日の復習を少しはしてほしいですが、とにかく睡眠時間が優先! 22時には寝てほしいですね。その分、朝は6~7時くらいに起きて、前日の復習をしっかりやりましょう。
──午前中の使い方が大切ということですね! あとは、「夏は全員頑張るから、頑張ってもなかなか成績は上がらない」というような意見がよく聞かれます。これは本当でしょうか?
竹浪先生:マンガやドラマの影響もあるかもしれませんが、そんなはずはありません。成績の変動は、夏だけでも相当ありますよ!
夏にがんばった子のエピソード
──夏に頑張ったお子さんの印象に残っているエピソードはありますか?
竹浪先生:7月の組分けテストで、下のクラスに落ちてしまった子がいました。私のところにやってきて、もう元のクラスに戻れないって号泣して……。根性がある子なのは分かっていましたから、「その悔しさを絶対に忘れないで、夏、本気で頑張るんだぞ」と話したら、その子は秋に元のクラスに戻ってきたんです。
そのときも号泣していて、本当にすごく、すごく頑張ったんだと思います。夏前にクラスが落ちたって、子どもが本気で頑張ればまだまだ変動しますよ。
──先生から見て、夏の前後で子どもに変化がありますか?
竹浪先生:そうですね。毎日見ているとわかりづらいですが、別人のように成長しますね。私はその姿を見るのが楽しくて、長い間、講師を続けています。困難を乗り切ったぞ! という子どもたちはまるで別人です!
直前に伸びる子の特徴とは?
──しかし、夏に全員が伸びるわけではなく、夏休み以降に伸びることもありますよね?
竹浪先生:確かに、伸びる時期は子どもによります。遅い子は入試直前期まで伸びますね。
過去に、直前期にすごく伸びた子がいました。11月の保護者面談時に、「このままでは、この受験パターンだと全滅もあり得ます」と申し上げました。すると保護者の方は、お子さんと話し合い、すぐに本人が「先生、どうすればいいですか?」と聞きにきたんです。
そこからやるべきことを指示したら、すべて残さずやってきました。それを毎週のように繰り返し、12月に再度相談したときには「全滅はなさそうです」と伝え、また追加でやるべきことを伝えました。これまた、その子は全部頑張った。本当に頑張り抜いて、1月の最後、私は全部受かると思っていました。結果、全勝です。ちなみに秋の模試は合格の可能性が20%でした。
──竹浪先生から見て、そういうお子さんの共通点は何でしょうか?
竹浪先生:子ども本人が絶対、何がなんでも合格したいと思うこと。そして、嫌なことから逃げないでコツコツやる習慣があること。真面目にやってきたんだけど、なかなか芽が出ないタイプの子が、6年後期になって、ぐっと伸びる例を私はたくさん見てきました。
私は「地頭」って言葉が嫌いなんです。「地頭」で決まらないのが、中学受験のいいところでもあると思っています。努力は大事なんだと、毎年子どもたちから教えてもらっています。
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「中学受験は地頭で決まらない」。竹浪先生のこの言葉は少々意外でしたが、今まで多数の生徒を送り出してきた先生の言葉には説得力がありました。
中学受験の勉強に向き不向きがあるのは否定できないと思いますし、子どもですから成長曲線や性格、タイミングも関係することもあるでしょう。
それでも、努力することで、それぞれの壁は超えられる。そして、勉強して身についた力と努力し続けたという自信は、合格に関係なく必ずその子のその手に残ることでしょう。
受験生の夏はハードです。6年生の夏が、「頑張った! やり切った!」と胸を張れる40日間になることを心から祈っています。
撮影/日下部真紀
取材・文/佐野倫子
中学受験生 夏休みの過ごし方連載は全3回
1回目を読む(4年生編)。
2回目を読む(5年生編)。
佐野 倫子
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57