中学受験 夏休みに中だるみをした「魔の5年生」 大手進学教室『SAPIX(サピックス)』講師が説く「勉強の体力」とは
中学受験伴走 知っておきたい中学受験生の夏休みの過ごし方 #2 ~5年生編~
2024.07.18
教育ジャーナリスト:佐野 倫子
大手進学教室『SAPIX(サピックス)小学部』の白金高輪校 校舎責任者・竹浪和伸先生に聞く、中学受験生の夏休みの過ごし方。前回では、初めて夏期講習を迎える4年生の過ごし方についてお聞きしました。今回は5年生についてです。
塾通いも慣れたころですが、急に勉強が難しくなり、また授業時間も一気に増える5年生。2024年2月に長男くんの中学受験伴走を終えたばかりの教育ジャーナリスト・佐野倫子さんも「わが家も思い出すと、中だるみをした魔の5年生でした……」と語ります。
親子ともにちょっと気が抜ける5年生の夏休みの過ごし方を竹浪先生に解説していただきます。
(全3回の2回目。1回目を読む)
佐野 倫子(さの・みちこ)
東京生まれ、早稲田大学卒。航空業界・出版社勤務を経て作家・教育ジャーナリストに。2024年2月、中学受験伴走終了。おもな著書に『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)。2児の母。
5年生は受験意識がまだまだ低い
──今回は5年生の夏休みの過ごし方についてお聞きしたいと思います。重要単元が目白押しの学年ですが、5年生の子どもたちは、まだ受験への意識が低い、もしくはない子もいるかと思います。そこに親とのギャップを感じるのですが。
竹浪和伸先生(以下、竹浪先生):そもそも子どもは大人と時間の感覚が違います。6年生でさえも、夏のころは「まだ、入試なんて先の話だよね~」と言っている子もいるぐらいですから(笑)。
──そんな調子だから親はやきもきしてしまって……。サピックスの先生方はどうやってそんな生徒たちを引っ張っているのでしょうか?
竹浪先生:「受験生だからやりなさい」みたいな話はあまりしないですね。それよりも、5年生は問題が少しずつ難しくなってくるので、それを楽しく感じさせるようにしています。子どもは本来、難しいことは面白いなって思うことが多いんですよ。
それに、「答えだけを知ることが楽しい子」よりも、「考える過程を楽しめる子」のほうが、強い。成績も6年生になって伸びる子が多いですよ。
切羽詰まりすぎの保護者が続出⁉
──最近SNSなどでは、「できるだけ早い段階で上位コースに上がっておかないと」「αコース(サピックスの上位コースの名称)に5年生のときには必ずいないと御三家は厳しい」という話が、中学受験生の保護者の間で交わされています。まだ早い段階で、すでにピリピリした雰囲気がありますが、それについてはどうお考えでしょうか?
竹浪先生:はい、切羽詰まりすぎだと思っています。「6年生になったら、みんな本気になってからコースは上がらないだろうから、5年生でこのクラスだと、志望校合格は難しいですよね?」などもよく訊かれます。でもそんなことはもちろんないです。
白金高輪校で言うと、6年生になってからも何コースも変わることはざらにあります。6年生の前期は平均よりも下だったけれど、最後αクラスになった子どもを私は何人も見ています。だから、早々に決めつけて焦る必要は決してありません。
──それは希望が持てるお話です! ちなみに伸びる子に共通する点はありますか?
竹浪先生:大切なことは、嫌なことから逃げないことでしょうか。やるべきこと、面倒なことを先送りにしてサボらない。それから、「さあ、勉強始めよう」と言ったときに、パッと始められることですね。
ちなみに私は授業で、最初にテキストを配っているときは、楽しい話をして盛り上げています。配り終わった瞬間が一番面白いようにして、子どもたちが爆笑しているときに、『じゃあ用意、はじめ!』と言っているのですが、そのときバシッと切り替わる子は、後で本当に伸びますね。切り替えは大事な要素。だから毎回、授業で練習させています。
なかには、「先生ふざけてないで早く始めてよ」という視線を送ってくる子もいます。でもそういう緩急をつける、みたいな意識が薄い子は、壁にぶつかったとき、重く苦しむ子が多い。頑張ったからといって、明日すぐに結果が出るとは限らないのが中学受験です。「楽しい」と「頑張る」の切り替えをすることが、5年生の子どもたちには大事ですね。
基礎は分割して取り組む
──真面目一辺倒だけが正しいとも限らないんですね。授業の何気ない雑談タイムひとつとっても計算されている、ということに驚きました。
竹浪先生:「うちの子、基礎トレ(サピックスで配られている1日ごとに10問を10~20分程度で解く算数の教材)をやらないんです」という相談もよく受けます。
そういうときは、「では朝3問やってください。そして帰宅後すぐに3問、残りは寝る前というように、違うタイミングで取り組んでください」と答えています。
分割して取り組むことで、ハードルを下げ、少しずつ面倒なこともサッと取り組めるように、ご家庭でも積み重ねていってみてください。
難易度が上がる5年生の夏
──重要な単元が多い5年生の夏、改めて勉強に対する姿勢についてアドバイスをいただけますか?
竹浪先生:5年生ぐらいから、自分で作業して解くことが増えます。文章を自分なりに置き換えたり、作図をしたり。そういうときに保護者の方が「効率よく解きなさい」と言うのは絶対にやめてください。
無駄に見えても、手を動かす習慣は大切なこと。面倒くさいことをきちんとやっている子は強いです。逆に、頭の中でパパッとできていた子が、6年生になって急激に苦しむケースもよくあります。
──ダラダラとゲームをして、なかなか勉強を始めない子にはどう対応すればいいでしょうか?
竹浪先生:個人的には、無理に止めるよりも、「一度好きなようにやってみたら?」と言うのもいいと思うんです。「3時間やりたいなら、とことんやりな。好きなことぐらい頑張れなくてどうすんの」などと言ってみる。これは6年生で試すのは難しいので、今だからできる作戦ですね。
──なかなか思い切れないですが、確かに「ゲームをやめて!」というのも不毛な争いです。
竹浪先生:勉強に対する集中力って、好きなことで頑張れる時間のよりかなり少ないと思っています。好きなことを頑張れる子は、その元になる集中力の絶対値も高い傾向がある。
4・5年生で「放っておくと丸一日、本を読んでいます」「サッカーの試合が終わって帰ってきたあともボールを蹴っています」という子は、6年生になったときの勉強に対する集中力が高いですね。
好きなことを通して、粘り強さや、悔しいから頑張る、というマインドが培われることが期待できます。そういう子は、受験も最後まで頑張れますね。
──そこまで好きなことがない子はどうすればいいですか(涙)。
竹浪先生:受け身じゃないことだったら何でもいいと思うんです。YouTubeを、ただただずっと見ている、とかは違いますが、主体性があることなら何でもよいと思いますね。
それこそゲームでも、本気で取り組むならアリかもしれません。やりたいって言ったことを、保護者の方が止めなければ、自然に見つかると思いますよ。
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今回、竹浪先生のお話をお聞きして、5年生はじっくりと「勉強の体力」を培う時期だと感じました。小手先の効率の良さ、テストの点数、コース昇降よりも、親御さんは面倒なことから逃げないよう、コツコツ頑張れるようにサポートをしていくのがポイントですね。
また同時に、面倒なことから逃げないマインドを育て、手を動かして問題を解くことも大事にしていくべき時期ということもわかりました。
5年生の教材の量や、カリキュラムを見ると、そのボリュームと内容の難しさに、親としては心配になりますが、地道にコツコツ取り組めるよう、伴走していきましょう。
次回3回目は、いよいよ中学受験の天王山! 6年生の夏休みの過ごし方について、引き続き竹浪先生にお伺いします。
撮影/日下部真紀
取材・文/佐野倫子
中学受験生 夏休みの過ごし方連載は全3回
1回目を読む(4年生編)。
3回目を読む(6年生編)。
(※3回目は2024年7月19日公開。公開日までリンク無効)
佐野 倫子
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57
東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57