「不登校30万人」時代 日本の学校はどう変わるべき? 日韓仏の教育現場を「Nスペ」が徹底取材!
『NHKスペシャル』プロデューサー・岡本朋子さんに聞いた「“学校”のみらい」#1~学校の新たな挑戦
2024.01.26
ライター:星野 早百合
2022年度の不登校の小中学生の数は、約29万9000人。10年連続で過去最多を更新し、今や社会現象となっています。
そんななか、2024年1月27日(土)放送の『NHKスペシャル』(NHK総合)では、「“学校”のみらい~不登校30万人から考える~」と題し、“学校”はこれからどうあるべきかを特集します。
どんな思いで番組を制作したのか、不登校をテーマにする狙いとは? NHKチーフプロデューサー・岡本朋子さんに伺いました。
※1回目/全2回
目次
不登校は子どもの問題ではなく“社会の問題”
――国内外のハードな社会問題の特集が多い『NHKスペシャル』で子ども、それも教育を取り上げるのは、めずらしい印象です。学校や不登校をテーマに番組を制作した経緯を教えてください。
岡本朋子さん(以下、岡本さん) 『NHKスペシャル』で教育を扱うのは、政治や経済、国際情勢などに比べると多くはありませんが、ここ数年はやや増えています。
2023年度で言えば、子どもや若者の幸せを考えるプロジェクト「君の声が聴きたい」の編成期間に、いじめと学校事故をテーマに放送しています。不登校については、2019年にも一度放送しています。
今回の番組を制作したチームは、以前から教育情報番組の『ウワサの保護者会』や『おとなりさんはなやんでる。』(ともにNHK Eテレ)などを制作してきたスタッフが中心で、6年ほど前からずっと不登校について取材をし、不登校の子どもたちや親、その親子を支援する人たちの話を聞いてきました。今回は、その集大成とも言えますね。
コロナ禍があり、不登校の小中学生が過去最多の30万人目前となったこともあって、以前からの問題が社会的にも可視化された今のタイミングで放送することとなりました。
――『NHKスペシャル』としてこだわったのはどのような点でしょうか。
岡本さん 不登校の問題がきっかけではあるけれど、“不登校をどうするか”ではなく、“学校そのものの在り方”を問う点です。
不登校は当事者である子どもの問題ではなく、時代が変わりゆくなかで現れる当然の現象だと思います。悩んだり苦しんだりしている子どもがたくさんいますが、学校に行けない、または行かないのには必ず理由があって、その子が悪いわけではありません。
不登校は社会の問題であり、日本の教育をアップデートするきっかけになるのではないか。そうポジティブに伝えることがこだわった点ですし、難しかった点でもありますね。
また、通常『NHKスペシャル』は土曜夜10時と日曜夜9時から放送していますが、今回は、国内外の教育現場の最前線を紹介する第1部、日本の教育の課題について議論する第2部の2部構成で、第1部は土曜夜7時半から放送します。
これは、学校の主人公である子どもたちに見てもらえるように、私自身がやってみたかったこと。第1部のキャッチフレーズは“子どもといっしょに『NHKスペシャル』”です。
できるだけ平易な言葉を使って番組を制作しましたし、タレントのみやぞんさんがわかりやすくナビゲートしてくださっていますので、小学生のお子さんでも十分に楽しんで見ていただけると思います。
韓の「代案学校」 仏の「エデュケーター」とは?
――第1部では教育現場の最前線を紹介するそうですが、具体的にはどのような学校や取り組みを取材されたのでしょうか。
岡本さん “子どもが学校を欠席する”現象は、日本だけでなく多くの国で現代的な問題として認識されており、特にコロナ禍以降、非常に増えているようです。
例えば韓国は、受験に熱心なことで知られていますが、出生率が低く、子どもの自殺率も日本とほぼ同じで、教育全体でいえば特別うまくいっているわけではないかもしれません。
けれど、日本と大きく違うのは、「代案学校」と呼ばれる、日本でいうフリースクールのような自由な学びを行う学校が、1997年に公立の学校として認可されていること。認可を受けていない代案学校もありますが、認可をされれば授業料は無償ですし、卒業資格も得られます。
もちろん、社会全体で見ると“いい学校へ行って、いい会社へ就職する”という価値観はあるのですが、そのなかにある問題に目を向け、別の教育が必要であると国が認めて、教育の選択肢を広げているわけです。
代案学校は今さらに進化していて、いわゆる5教科的な学びは少なく、生徒が自分で学びたいことを選べるようになっています。
例えば、AIについて勉強したい子もいれば、ラテアートを学びたい子もいる。子どもたちの表情がイキイキとしていて、「日本より先をいってるな」と驚きましたね。
――学校でラテアートを学ぶとは驚きです。子どもの思いが尊重されているのですね。
岡本さん 子どもの思いに寄り添うという意味では、フランスの取り組みも興味深かったです。フランスの学校制度は日本より厳しく、小学生でも求められる学力レベルに到達していなければ落第します。
ただし、子どもが学校を欠席することは、子どもの問題ではないという共通認識があり、大人が責任を持って子どもを支える制度が徹底しています。
フランスの不登校支援校では、子どもの心理や障がいの知識などを習得した「エデュケーター」と呼ばれる専門職がいて、子どもに寄り添い、味方になるのです。
日本で“学校は休んでもいい”という認識は、2017年の教育機会確保法以後に広がってはいますが、“その後”をどうするかは、当事者の親子まかせになっているのではないでしょうか。しかし、親も当然悩んだり迷ったりしますし、仕事もあるなかで考えるのは、とても難しいことだと思います。
何か問題が起きたとき、子どもはひとりで解決できないので、第三者の専門的な知識を持つ大人が手伝う。そうしたきめ細かく子どもに寄り添う姿勢は、非常に参考になると思います。
韓国やフランスのほかに、日本国内の新しい学校づくりに挑戦されている山形県の天童中部小学校や、フリースクールなども取材しています。天童中部小学校は“子どもが主体の学校づくり”として学校改革を行っていて、現場の先生たちの苦悩や戸惑いなども伺いました。
――第2部は、日本の教育の課題について議論されるのですね。
岡本さん 文部科学省の初等中等教育局長・矢野和彦さんをはじめ、学校改革を実践されてきた横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生など、現場の先生や子どもを支援する専門家の方々、若者代表として不登校経験のあるインフルエンサー、現役の大学生に参加していただき、第1部で見えてきた日本の教育の課題について議論しました。
文部科学省も“子どもが主体の学び”を実践しようとしているけれど、なぜなかなか広がらないのか。今後、どのように実践していくのか。また、今この瞬間にも悩んだり苦しんだりしている30万人の不登校の子どもたちにできることは何か。多様な立場から考える内容になっています。
子どもの声を聴ける学校なら子どもは輝ける
――最後に、番組で注目してほしいシーンや見どころなどをお聞かせください。
岡本さん 日本の学校はどう変わるべきなのか。この問いに対し細かいことを挙げれば、必修科目はどうするか、制度はどう整えるか、考えなければいけないことはいろいろあると思います。
ただ、ひとつ言えるのは、今回取材した韓国やフランス、日本の天童中部小学校、フリースクール、どの学校でも、子どもたちがちゃんと発言できているんですね。
そうして子どもたちが声を聴いてもらっている学校では、子どもたちが安心していて、笑顔が輝いていて、意欲的に学びに向かおうとしている。それは、明らかでした。
教育は何のためにあるのか、学校とは何か――。
番組で子どもたちの笑顔を見て、考えてもらうきっかけになったら嬉しいです。
※第2回を読む
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●番組DATA『NHKスペシャル “学校”のみらい~不登校30万人から考える~』(NHK総合)
放送日/2024年1月27日(土)
・第1部 午後7時30分~8時15分 「“学校”のみらい」
・第2部 午後10時00分~10時49分 「話そう! “学校”のみらい」
【再放送】
2024年1月31日(水)
・第1部再放送 午前0時35分~1時20分(火曜深夜)
・第2部再放送 午前1時20分~2時9分(火曜深夜)
【ラジオ特番】
ラジオ特番生放送『ラジオでNスペ・“学校”のみらい』(NHKラジオ第1)
・2024年2月3日(土)午後8時5分~
ラジオ特番『ラジオでNスペ・“学校”のみらい』を生放送!!『NHKスペシャル “学校”のみらい~不登校30万人から考える~』を見て、視聴者が感じた意見を「君の声が聴きたい」プロジェクトのHPで募集中。
●関連サイト
・『NHKスペシャル』公式
・『NHKスペシャル』“学校”のみらい~不登校30万人から考える~第1部
・『NHKスペシャル』“学校”のみらい~不登校30万人から考える~第2部
・「君の声が聴きたい」プロジェクト
・NHKスペシャル公式X(旧Twitter)@nhk_n_sp
・「君の声が聴きたい」公式X(旧Twitter)@nhk_kimikoe