
みんな大好き!「国語の教科書」に載るお話、どうやって決まるの? 自作絵本が教科書に載った作家と教科書編集者に聞きました
絵本『はるねこ』が教科書に掲載された著者・かんのゆうこさんと教科書編集者へインタビュー
2025.04.10
「はるねこ」のモチーフは、とある「ぬいぐるみ」?

かんのゆうこさん(以下、かんのさん):童話作家になる前、テディベア作家をめざしていた時期がありました。そのころ訪れたテディベア作家さんの個展で、首や手足が動くテディベアタイプの、緑色の猫のぬいぐるみと出会ったんです。
その作家さんは、生地を自分で緑色に毛染めされていたようです。それを見て、緑の猫なんてすごくめずらしいなと思いました。
もしこういう猫が童話に登場するとしたら、何をするだろうとか。どんな物語だったらこの緑色の猫にふさわしいだろうとか。いろいろ想像を巡らしてるうちに、「そうだ。若草色の猫が、春を運んでくる作品を書こう」と思ったのが、『はるねこ』ができたきっかけです。
どうして『はるねこ』が!? 教科書掲載の依頼を受けて

写真/幼児図書編集部
かんのさん:最初に教育出版さんから、文科省認定の教科書に使用したいとの書類が届いたのですが……。
いや、もう本当にびっくりしました! というのも、「四季ねこ」シリーズ※は発売当時、そこまで大きな話題にはならなかった絵本なんです。
いったいどうやって見つけだしてくださったのだろうとか、しかも教科書に載るのって、もっとたくさん売れて話題になった本とか、有名作家さんのお話とかのイメージがあったので、なんで『はるねこ』が? とびっくりしましたね。
同時に、すごく嬉しかったです。作家になってすぐのころ、ある絵本の表紙に、「教科書に出てくる本」というシールがばーん! と貼ってあるのを見かけたことがありました。
そのときに絵本が教科書に載ることを初めて知って、とても憧れて……。そんなことがあったので、掲載が決まったときは、プレゼントされた機会のように感じました。
『はるねこ』 文/かんのゆうこ、絵/松成真理子
『なつねこ』 文/かんのゆうこ、絵/北見葉胡
『あきねこ』 文/かんのゆうこ、絵/たなか鮎子
『ふゆねこ』 文/かんのゆうこ、絵/こみねゆら
季節を題材に、ふしぎな猫たちとの出会いを描いた、講談社の絵本シリーズです。

写真/幼児図書編集部
『はるねこ』には、図書館で出会いました。2年生の初めのほうに読む作品を探していたときで、登場人物の行動や会話を捉える教材としても、春のお話としても、『はるねこ』はまさにぴったりでした。
決め手となったのは、春の楽しそうな雰囲気が伝わる作品であるということ。折り紙で春をつくるシーンを見て、子どもたちがわくわくするんじゃないかと考えたからです。
そして実際に、『はるねこ』が載った教科書をお使いになった学校の先生から、「クラスみんなで折り紙をして、春を作りました」といううれしい報告もいただきました。
教科書の改訂は、だいたい4年ごとにおこなわれます。令和6年度の改訂の際、小学国語教科書の物語作品で、新たに掲載されたものは、当社では数作品ありました。
そのなかの一作品である『はるねこ』もこの先、『モチモチの木』や『スイミー』のように、教科書の定番として、ずっと残せたらいいなと思います。![]()
お気に入りシーンは未掲載、全貌はぜひ絵本で!

かんのさん:そうですね。教科書には、決まりによって使えない記号や、短くする必要のある文章などがあったので、その部分は改訂しました。
それから、『はるねこ』は小学1年生から2年生にあがって最初に学ぶお話で、小さな子を対象にしているので、文章全体の長さをコンパクトにまとめる必要があったんです。そこで、教科書では、絵本に出てくる「歌」の部分をすべてカットすることになりました。
教科書だけでもお話として自然に読めるようになっていますが、「歌」はこの物語の見せ場のひとつ。松成真理子さんの素敵な絵もだいぶカットされているので、教科書で『はるねこ』を読んだ方は、ぜひ絵本でも読んでいただけたらうれしいです。
つぎの世界を作る、子どもの空想力
かんのさん:『はるねこ』は、子どもの想像力とか、空想力とか、そういうものの素晴らしさを描いた絵本です。
私は小さいころ、家族でのドライブが楽しくて、自分でも新しい車を作ろうと思い立ったことがありました。
どうやって作るのかなんてわからない。何からできているのかさえ知らない。なのにベニヤ板を引きずってきて、これで本物の車が作れるぞと自信を持っていたんです。結局作れないとわかって、愕然としましたが(笑)。
でもよく考えてみると、この世界にあるものって、すべてがひとつ残らず、最初はだれかの心のなかにあったものなんですよね。だれかの心や頭のなかになかったものは、ひとつも誕生していません。机も椅子も、車も飛行機もスマートフォンも、最初は「空想力」から始まったはずなんです。
だから子どもの空想力って、この世界を作った原点なんだと思います。
『はるねこ』ではあやちゃんが折り紙を使って「春」を作りますが、これは子どものたわいもない空想ではなく、とても大切な力。子どもたちとこの絵本を読んでくださる大人の方は、ぜひ自分のなかにある空想力や想像力を思い出していただけたらうれしいです。そして子どもたちには、この絵本を通して、ひとりひとりが持っているすばらしい宝物を、大切にはぐくんでいってほしいなと思います。
素敵なお話を、ありがとうございました! 2025年6月には「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズの新刊が、2026年初夏ごろには「ソラタとヒナタ」シリーズの新刊絵本が発売予定とのこと。これからのご活躍も、応援しております!
教科書に載った絵本『はるねこ』

若草色のふしぎなねこと少女の出会いを描いた、春に読みたい物語。今、教科書を使っている子どもたちの心にも、やさしく残っていくでしょう。
文/かんのゆうこ、絵/松成真理子 講談社刊
※読み聞かせは5歳から、ひとり読みは7歳から

松成 真理子
大阪府出身。イラストレーター、絵本作家。『まいごのどんぐり』(童心社)で児童文芸新人賞受賞。絵本に『たなばたまつり』『きんぎょすくいめいじん』『よみきかせ日本昔ばなし はなさかじいさん』(文:石崎洋司)『はるねこ』(文:かんのゆうこ、以上すべて講談社)、『まいごのどんぐり』(童心社)、『じいじのさくら山』(白泉社)、『ころんちゃん』(アリス館)、『蛙のゴム靴』(作:宮沢賢治 ミキハウス)、『せいちゃん』(ひさかたチャイルド)、『あめあめぱらん』(文:木坂涼 のら書店)、『雨ニモマケズ』(文:宮沢賢治 あすなろ書房)、『ヒョウのハチ』(文:角田隆将 小学館)、『しあわせになあれ』(詩:弓削田健介 瑞雲社)『ふっと…』(文:内田麟太郎 BL出版)などがある。 装画・挿絵に『山のトントン』(作:やえがしなおこ)『おはなし日本文化 雅楽 ひなまつりの夜の秘密』(文:戸森しるこ)『どうぶつのかぞく ペンギン はらぺこペンギンのぼうけん』(作:吉野万里子 以上すべて講談社)など、紙芝居に『つるのおんがえし』(文:坪田譲治 童心社)などがある。 『さくらの谷』(文:富安陽子 偕成社)で第52回講談社絵本賞受賞。
大阪府出身。イラストレーター、絵本作家。『まいごのどんぐり』(童心社)で児童文芸新人賞受賞。絵本に『たなばたまつり』『きんぎょすくいめいじん』『よみきかせ日本昔ばなし はなさかじいさん』(文:石崎洋司)『はるねこ』(文:かんのゆうこ、以上すべて講談社)、『まいごのどんぐり』(童心社)、『じいじのさくら山』(白泉社)、『ころんちゃん』(アリス館)、『蛙のゴム靴』(作:宮沢賢治 ミキハウス)、『せいちゃん』(ひさかたチャイルド)、『あめあめぱらん』(文:木坂涼 のら書店)、『雨ニモマケズ』(文:宮沢賢治 あすなろ書房)、『ヒョウのハチ』(文:角田隆将 小学館)、『しあわせになあれ』(詩:弓削田健介 瑞雲社)『ふっと…』(文:内田麟太郎 BL出版)などがある。 装画・挿絵に『山のトントン』(作:やえがしなおこ)『おはなし日本文化 雅楽 ひなまつりの夜の秘密』(文:戸森しるこ)『どうぶつのかぞく ペンギン はらぺこペンギンのぼうけん』(作:吉野万里子 以上すべて講談社)など、紙芝居に『つるのおんがえし』(文:坪田譲治 童心社)などがある。 『さくらの谷』(文:富安陽子 偕成社)で第52回講談社絵本賞受賞。
かんの ゆうこ
東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。児童書に「はりねずみのルーチカ」シリーズ、(絵・北見葉胡)、 「ソラタとヒナタ」シリーズ(絵・くまあやこ)、『白うさぎと天の音 雅楽のおはなし』(絵・東儀秀樹)(以上、講談社)、 『とびらの向こうに』(絵・みやこしあきこ/岩崎書店)など。 絵本に、『はるねこ』(絵・松成真理子)、『はこちゃん』(絵・江頭路子)、プラネタリウム番組にもなった 「星うさぎと月のふね」(絵・田中鮎子)(以上、講談社)などがある。令和6年度、小学校教科書『ひろがることば小学国語二上』(教育出版)に、絵本『はるねこ』(絵・松成真理子/講談社)が掲載される。
東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。児童書に「はりねずみのルーチカ」シリーズ、(絵・北見葉胡)、 「ソラタとヒナタ」シリーズ(絵・くまあやこ)、『白うさぎと天の音 雅楽のおはなし』(絵・東儀秀樹)(以上、講談社)、 『とびらの向こうに』(絵・みやこしあきこ/岩崎書店)など。 絵本に、『はるねこ』(絵・松成真理子)、『はこちゃん』(絵・江頭路子)、プラネタリウム番組にもなった 「星うさぎと月のふね」(絵・田中鮎子)(以上、講談社)などがある。令和6年度、小学校教科書『ひろがることば小学国語二上』(教育出版)に、絵本『はるねこ』(絵・松成真理子/講談社)が掲載される。