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『ごんぎつね』『白いぼうし』『走れメロス』……「覚えてる~!」という方も多いのではないでしょうか。あるいは、お子さんが学校で勉強中、という方もいるかも?
今、教科書を作っている出版社・光村(みつむら)図書が公開している「教科書クロニクル」が話題になっています。
「教科書クロニクル」は、入力した生年月日に対応する「国語の教科書」(小学1年~中学3年まで)を検索できるシステム。教科書の表紙や収録教材が懐かしい、大人気サイトの秘密を聞きたーい! そこで、光村図書 広報部長の木塚崇さんと、教科書の編集部長の山本智子さんに、お話を伺ってきました!
コンセプトは「あのころの自分に出会う」 2人に1人は読んだ光村の教科書
──「教科書クロニクル」は、まるで生年月日占いのように楽しいサイトですね。「思い出の宝物」が出てきたようでワクワクしました。なぜこのサイトを作ったのですか?
木塚さん:「教科書に載っていたお話をもう一度読みたい」「タイトルを忘れちゃったので教えて」といった質問が、たくさんくるんです。教科書というのは、使用年度が終わると手に入らないんですね。それなら、せめて「表紙とおもな教材」だけはまとめて見られるように、と作ったサイトです。作ったのは20年前くらいですね。
──そんな昔からあったんですか!
木塚さん:そうなんです。そのときは教科書の表紙と教材名の一覧表を載せただけだったのですが、今年7月のホームページのリニューアルにあわせて、「せっかくだから楽しんでもらいたい。生年月日を入れて自分の使った教科書がわかるようにしたら面白いのでは」と手を入れたんです。
──光村図書は1949年(昭和24年)に創業し、1950年から教科書を出版。現在、小学校と中学校の国語の教科書では国内シェア約60パーセントで、2人に1人は読んでいることになります。読者の方たちに、「教科書クロニクル」をどんなふうに楽しんでもらいたいですか?
木塚さん:コンセプトの一つは、「あのころの自分に出会う」で、教科書がタイムマシンの扉のようになるといいなと思っています。同窓会などで、みなさんでやって盛り上がってもらうネタになるとうれしいです。昔教わって、何となく覚えているお話も、大人になってから読み返すと、違った面白さを発見できると思いますよ。
『くじらぐも』『やまなし』『スーホの白い馬』などは、50年以上にわたって掲載され続けています。祖父母から父母、子どもや孫も学んでいる共通の物語。家族みんなが知っているお話として話題にしてほしいです。
〈『くじらぐも』(なかがわりえこ作/小学1年)……4時間目のこと。1年2組の子どもたちが運動場で体操をしていると、空に大きなくじらぐもが現れます。学校が大好きなくじらぐもは子どもたちと一緒に体操をし、「おいでよう」と子どもたちが呼ぶと、空から降りてきて子どもたちと先生を背中に乗せ、青い空に泳ぎだします。海の方へ、村の方へ。やがて4時間目が終わると、子どもたちはお昼の時間です。くじらぐもは学校に戻ってジャングルジムにみんなを下ろし、元気よく空に帰っていきました。〉
〈『やまなし』(宮沢賢治作/小学6年)……幻灯のように美しい、小さな谷川の底の物語です。5月、2匹の蟹の子どもたちが谷川の底で話しています。「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」。蟹の子どもたちがはいた泡が水銀のように光っています。12月、蟹の子どもたちも大きくなり、泡のふきっこをしていると、トブンとやまなしが川に落ちてきました。「もうじきおいしいお酒ができる」と父蟹が言って、親子の蟹は帰っていきました。〉
『スーホの白い馬』など50年以上も掲載されている物語も
──「教科書クロニクル」を閲覧している方たちの年齢層は? また、みなさんの反応はいかがですか。
木塚さん:X(旧ツイッター)でつぶやかれたのは、中学校を卒業したばかりの子も50代後半の方もいて、幅広い年代の方々が楽しまれているようです。こんな投稿がありましたね。
「旧友に再会した気持ちになった」
「あのころの教室、机の上の鉛筆やノート、風に揺れるカーテン、黒板を背に話す先生の姿……国語の教科書を開きながら目にしていた光景がまぶたの裏に蘇るような懐かしさです」
「音読の宿題で『スーホの白い馬』を母に聞いてもらっていたとき、泣きそうだったけど泣くのをガマンして、そのあとお風呂で号泣しました」
〈『スーホの白い馬』(おおつかゆうぞう作/小学2年)……遊牧民のスーホは倒れている白い子馬を抱いて帰り、大事に育てます。数年後、殿様が競馬大会を開き、スーホと立派に成長した白い馬は優勝します。しかし、スーホは殿様に白い馬を取られて追い返されてしまうのです。悲しみにくれるスーホのもとに逃げ帰った白い馬は、殿様の家来に追われ、全身に矢が刺さっていました。翌日、白い馬は死んでしまいます。夢のなかで白い馬はスーホに「私の体で琴を作ってください」と伝え、スーホは骨と尾で美しい音色の琴を作って奏でるのでした。〉
『一本の鉛筆の向こうに』昔、教科書で読んだ人物のその後
──先ほどのお話にありましたが、同窓会などで話題になったエピソードがありますか。
山本さん:『一本の鉛筆の向こうに』という説明文があるのですが、そこにスリランカのポディマハッタヤさんという人が出てきます。この方が、2021年に亡くなったというニュースがありました。ネットで「昔、教科書に載っていた人だよね」と話題になりましたね。「教科書クロニクル」で検索して、「読んだ読んだ」と懐かしまれたようですよ。
〈『一本の鉛筆の向こうに』(谷川俊太郎作/小学4年)……鉛筆のできる工程やそれにかかわる人々の暮らしぶりをやさしく描いた文章。スリランカの鉱山ではたらくポディマハッタヤさんは、鉛筆の芯の材料である黒鉛を採掘する仕事をしています。上半身裸で黒鉛をくだくポディマハッタヤさんはりりしく、5人の子どもたちは元気に育っています。この物語は1992年から10年間、小学4年生の教科書に掲載されました。当時の小学生に与えたインパクトは大きく、ポディマハッタヤさんのもとには毎日のように手紙が届き、スリランカまで訪ねてきた児童や教員もたくさんいたそうです。そのたびにポディマハッタヤさんは快く迎え、鉱山に案内したり、食事をともにしたといいます。〉
親が子どもの教科書に興味を持てば学力アップにつながる
──「教科書クロニクル」でバージョンアップしたいところはありますか。
木塚さん:ほんとうは少しでも中身を読めるといいなと思っているのですけど……。著作権の問題があってなかなか難しいです。お読みになりたい方は、アンソロジー『光村図書ライブラリー』をお求めになれます。アンソロジーに入っている作品は、「教科書クロニクル」から確認できますよ。
──読者のみなさんにメッセージをお願いします。
木塚さん:「教科書クロニクル」をきっかけに、お子さんやお孫さんがどんな教科書を使っているか興味を持ってもらいたいです。親が子どもの教科書に興味を持つと、自然と学力向上にもつながっていくのではないでしょうか。
【光村図書への取材記事は全3回。第1回では、「国語教科書クロニクル」の開発を担当した広報部長の木塚崇さんにお話を伺いました。続く第2回では、教科書の編集部長の山本智子さんに「昔の教科書と今の教科書の違い」や、教科書の「人気の登場人物」について、教科書づくりの知られざる裏側について、お話を伺います。】
●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
撮影/神谷美寛
高木 香織
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。