ムーミンファン必見!「ムーミンやしき」に込められたトーベ・ヤンソンの想いと北欧フィンランドの素敵な文化

ムーミンファンなら知っておきたい、ムーミン谷のシンボル「ムーミンやしき」や北欧の暮らしについて

ライター:内山 さつき

フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンが生み出したムーミンシリーズは、ムーミントロールをはじめとする個性豊かなキャラクターたちが冒険に繰り出したり、自分らしいあり方を模索したりする日々が描かれる、世界中で愛されている物語です。
今日はムーミンたちが暮らす、「ムーミンやしき」に注目してみましょう。
ムーミン谷にあるムーミンやしきは、赤い屋根に青い壁のかわいらしい家。ムーミンパパが自分で建てたものです。ムーミンパパとムーミンママ、ムーミントロールの家族のほかにも、友だちのスニフや、気難しい哲学者のじゃこうねずみ、後に養子となったリトルミイ、はにかみやの小さな女の子ニンニなどが住んでいることもあります。

ムーミンやしきの扉には、いつも鍵がかかっていません。ムーミンパパとムーミンママは、どんな人でも食卓に招き入れ、寝心地のよいベッドを用意してくれるのです。
フィンランドのナーンタリにある、ムーミンのテーマパーク「ムーミンワールド」のムーミンやしき。撮影/筆者
「そんなわけで、ムーミンやしきはいつもにぎやかでした。
だれでも好きにやっていましたし、明日のことなんかちっとも気にかけません。
ちょいちょい、思いがけないこまったことが起こりましたが、そのおかげで、退屈することもありませんでした」
『たのしいムーミン一家』(トーベ・ヤンソン/作 山室静/訳 講談社)より

ムーミンやしきのモデルは灯台!?

この誰にでも開かれた、あたたかいムーミンやしきは、作者トーベ・ヤンソンが子どものころから夏を過ごしていたフィンランドの群島地域の、小さな島の灯台の形から着想を得ていると言われています。ムーミンの物語は、戦争のさなか、心のなぐさめを求めたトーベが、幸せだった子どものころの思い出を織り交ぜながら紡いだのがはじまり。どんな人でも分け隔てなくあたたかく迎え入れてくれるムーミンやしきは、作者自身の心の避難所だったのかもしれません。

そしてムーミンやしきの塔のような形は、確かに少し灯台に似ていますね。この灯台は、今はかつての形をとどめていませんが、地元の人々によって大切に保存されています。
ムーミンやしきのモデルとなったと言われる、グロースホルムの灯台。時代によって形を変えているが、1863~1939年までの形はムーミンやしきにそっくり。撮影/筆者

ムーミンやしきの中に感じるフィンランド

ムーミンやしきのインテリアにも、フィンランドや北欧の住まいが反映されています。例えば、『ムーミン谷の冬』で描かれる、ムーミンたちのご先祖さまが逃げ込んだ円柱型のタイルストーブ。この柱型のストーブは、北欧の伝統的なスタイルで、古い建物では今もよく見かけます。
フィンランドの古い家屋にある円柱のストーブ。ストーブの素材はタイルだったり、金属だったり。形も円柱だったり四角い形だったり、さまざまなヴァリエーションがある。撮影/筆者
ムーミントロールによると、ムーミンのご先祖たちは大昔、タイルストーブの後ろで暮らしていたとのこと。『ムーミン谷の冬』で、居場所を失いそうになったご先祖さまが新しいすみかにしたのも、このタイルストーブでした。ムーミンやしきもどことなくこのストーブの形に似ているのは、こうしたムーミン族の歴史があるからなのかもしれません。

また、寒い冬の間、冬眠に入るムーミンたちが眠りに落ちる前、埃よけの覆いをかけるシャンデリアや、挿絵に描かれている大きな柱時計などのインテリアも、フィンランドの古い邸宅や博物館ではよく目にするものです。ムーミンやしきの中に、フィンランドの文化と伝統を感じる瞬間でもありますね。
フィンランドのムーミンワールドに再現された、ムーミンやしきのリビング。食卓にはブルーベリーパイも。撮影/筆者
また、ムーミンたちの大好きな食べものといえばパンケーキですが、北欧には一つのフライパンで一度にたくさん焼ける、パンケーキ専用のフライパンがあります。このフライパンを使ってスナフキンが焚き火でパンケーキを焼いている様子が、『ムーミン谷の彗星』に描かれていますよ。
『「コーヒーなしで、どうしたらいいんだ!」
ムーミントロールがさけぶと、スナフキンがいいました。
「パンケーキを食べるのさ」
そこで三人は火をおこして小さなパンケーキを作り、焼けたそばから食べていきました。
これが、パンケーキの正しい食べ方なのですよ』
『ムーミン谷の彗星』(トーベ・ヤンソン/作 下村隆一/訳 講談社)より
フィンランドのフィスカルス博物館に展示されていたフライパン。小さいサイズもあってかわいらしい。撮影/筆者
このフライパンは、きっとムーミンやしきの台所にもあったことでしょう。『たのしいムーミン一家』では、なくなってしまったムーミンママのハンドバッグが無事見つかったお祝いに、山盛りのパンケーキとジャムを準備したパーティーを開くというシーンもあります。夏の庭で、ごちそうをたくさん用意して、みんなでダンスや音楽を楽しむパーティーを開くなんて、素敵ですよね。

ムーミンの物語では、手に汗を握るような大冒険も、日々の日常に時折巡りくる楽しい出来事も、同じように丁寧に魅力的に描かれています。それはまるで子どものころの夏休みの思い出のように、輝きを失うことはありません。

そして、冒険もパーティーも、それが終わったときにムーミンたちがまた帰っていくのは、自分の居場所であり、心から安心できる場所。つまり自分の家である、ムーミンやしきなのです。

“ムーミンやしき”を絵本で楽しむ!

『In the...MOOMINHOUSE ムーミンやしきへようこそ!』
(原案/トーベ・ヤンソン 文・絵/リーナ&サミ・カーラ、アンダース・ヴァックリン 講談社)
そんなムーミン谷のシンボルである“ムーミンやしき”の形をした、楽しいしかけ絵本『In the…MOOMINHOUSE ムーミンやしきへようこそ!』(講談社)が登場しました! 幼いお子さまから親しめる、ボードブックタイプ。ページのあちこちに、フラップ(めくり)のしかけがあって、ムーミンやしきを絵本で探検できちゃうんです。この絵本の中にも、タイルストーブやフライパンが描かれていますよ。ぜひ探してみてくださいね。

また、灯台の形をした『In the...LIGHTHOUSE ムーミンパパのとうだいへようこそ!』(講談社)も同時発売。どちらもお部屋のインテリアとして飾りたくなるデザイン。2冊それぞれ楽しんでみてください。
『In the...MOOMINHOUSE ムーミンやしきへようこそ!』(原案/トーベ・ヤンソン 文・絵/リーナ&サミ・カーラ、アンダース・ヴァックリン 講談社)
『In the...LIGHTHOUSE ムーミンパパのとうだいへようこそ!』(原案/トーベ・ヤンソン 文・絵/リーナ&サミ・カーラ、アンダース・ヴァックリン 講談社)
うちやま さつき

内山 さつき

Satsuki Uchiyama
ライター

ライター、編集者。旅・物語・北欧をテーマに雑誌や書籍で執筆・編集を行っている。著書に『とっておきのフィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(共にGakken)。 北欧・フィンランドに関わるものでは特にトーベ・ヤンソンとムーミンに関わる書籍や展覧会、翻訳などの仕事も手がけている 。 Instagram @satsuki_uchiyama

ライター、編集者。旅・物語・北欧をテーマに雑誌や書籍で執筆・編集を行っている。著書に『とっておきのフィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(共にGakken)。 北欧・フィンランドに関わるものでは特にトーベ・ヤンソンとムーミンに関わる書籍や展覧会、翻訳などの仕事も手がけている 。 Instagram @satsuki_uchiyama