種村有希子の絵本『きいのいえで』制作日記
第34回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第3回「子供のように粘ること」
2022.07.28
年の始めで頭がまだぼ~っとしていますが、制作モードに体を戻していかねば! 今年もどうぞ宜しくお願いいたします。
昨年最後の打ち合わせでは、前回の打ち合わせ後に直しをいれた原画の提出をしました。
原画をチェックする(エ)さんの目線は真剣そのもの。しばし無言の緊張の時間! 今回一番心配だったのが、扉の絵です。
締め切り前日までに二度描き直したものの、提出日の朝「やっぱり何かまだ違う」と思い、ぎりぎりまで粘ってもう一枚描き直しました。
私としては、やっと引っかかっていた部分をクリアできた感触がありましたが、どう見えるだろう? どきどきしながら二枚を比べてもらったら、(エ)さんが選んだのも当日描いたものでした! よかった~。
二枚の絵は、主人公の姿勢が少し違うだけなので、一見すると微妙にしか違いはないのですが、これが結構印象の大きな差になるのです。
私は、ひとつのイメージを掘り下げる際、いつも一枚の絵の中で何度も消して直すのではなく、納得がいくまで同じくらいの完成度の絵を複数描いていきます。
そうやって比べながら、最良の一枚を導きだす方が、判断しやすいからです。
また、絵本の場合は全部の絵のつじつまが合わなければいけないので、自分の中での判断の基準も違います。どんなによく描けた一枚でも、全体の中で浮いてしまうと流れを遮る要素に早変わりするのが恐ろしい!
絵も文章も、絵本の中で気持ちよく時間が流れていくための素材なんだと、今回直しの作業をしながら実感しました。そして、大方の絵はOKが出て、(一枚再提出のものを残し……)怒濤の2012年は終わりました。
今回も、余談を少し。昨年の選挙投票日に、投票場所の小学校へ行った時のこと。
会場の教室で、三歳くらいの女の子が、絵本を抱きしめて真剣な顔で本棚の前からずっと離れないのです。どうやら教室にあった絵本を持ち帰りたいようで、お母さんが説得中。
感動したことは、その子の頑固さとお母さんが自分の都合で絵本を取り上げてしまわないこと。
きちんと子供が納得をして本棚に自分で戻すまで待ってあげたのです。自分もこんなお母さんになれるだろうか?
そして、こんなに真剣な読者が相手なのだから、私も粘ることを怠らずに作ろうと身が引き締まりました。