石川基子の絵本『ほしじいたけ ほしばあたけ』制作日記
第36回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第2回
2022.04.10
さて前回、見切り発車のまま応募したため、練り直しに苦労したことを書きました。
なぜそこまで焦って応募したのか……。
それは、ほしじいたけ・ほしばあたけが一足先にほかの作家さんの絵本に出演してしまわないか、どこかの椎茸農園のマスコットに採用されてしまわないか、はたまた妖怪ウォッチの新キャラとして登場してしまわないか等々を恐れてのことです。
授賞式で他の受賞者の方とも話していたのですが、「本体はともかくネーミングを先取りされたらもうアウトですよねー。」
まったくその通りで、応募前も時々「ほしじいたけほしばあたけ」で検索しては、「大丈夫。まだひっかからない。」と胸を撫で下ろしていました。どうしても自分の手でこの二人を世に送り出したかったのです。
落書き帳に、いろいろなきのこのキャラクターを描いていたとき、彼らはひょっこり現れました。
その横に「干ししいたけ」と書いたら、勝手に手が動いて濁点を付け加えました。「じいたけ」がいるなら、「ばあたけ」も当然いるよなあ……と垂乳根のほしばあたけにしてやりました。
この落書きの二人が「わしらを描きんさい」と訴えかけてきたので、作品にしたわけですが、これを見た一部の人がとても気に入ってくれて、ああ、こういうのが好きな人も世の中にはいるんだと、認識を新たにしたものです。
この二人を主人公に、いつか絵本を……と思っていましたが、お話が全然浮かばず、長らく放置していました。
「ストーリーを無理に作り上げようとせず、まずそのキャラクターが住んでいる場所のイメージのスケッチをしたり、登場するキャラクターの性格や血液型、嗜好などを考えてみる」などとよくいわれますが、その攻め方でも進展せず……。
とりあえず通っていた絵本塾のワークショップに出してしまえーと、勢いで電車の中で最初のラフを描き上げました。自分では、笑えるし面白いしそれなりにいいと思っていたラフは、しかしというかやはり酷評されました。
絵本塾では、このようにしたらという答はもらえません。「そうじゃない」という指摘を受けて、「じゃ、こうかなー?」と考え直し描き直し……。塾生仲間の感想やアドバイスにも助けられ、だんだん形になっていきました。そして今は担当のO川さんに頼りきりで……。
つくづく他力本願で、いろいろな方々のお世話になりながらの絵本制作なのに、こんな進捗状況では「わしらをちゃんと描いてくれるのかのう……」とほしじいたけも心配していることでしょう。
ところで、絵本制作中、ほしじいたけとほしばあたけの見分けがつきにくいという指摘を受けました。(自分の中では全然違うと思い込んでいたのですが……)
アート・コンテストの作品のように、タラチネのほしばあたけにしたら? という意見もありましたが、そうすると物語の終盤において大変なことになってしまうので却下させていただきました。(大変なことって何だろうと思われる方、ぜひ完成した絵本をチェックしてくださいね!)というわけで、笠のまるい冬茹(どんこ)の方がほしばあたけです。よろしくお願いいたします。
石川 基子
愛知県生まれ。京都教育大学特修美術科卒業。「子どもの本専門店 メリーゴーランド」の絵本塾で絵本作りを学ぶ。第12回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞、第35回講談社絵本新人賞佳作受賞。第36回講談社絵本新人賞受賞作『ほしじいたけ ほしばあたけ』(講談社)でデビュー。シリーズに『ほしじいたけ ほしばあたけ じめじめ谷でききいっぱつ』『ほしじいたけ ほしばあたけ カエンタケにごようじん』『ほしじいたけ ほしばあたけ いざ、せんにんやまへ』がある。造形教室講師として、子どもたちに一緒に遊んでもらっている。
愛知県生まれ。京都教育大学特修美術科卒業。「子どもの本専門店 メリーゴーランド」の絵本塾で絵本作りを学ぶ。第12回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞、第35回講談社絵本新人賞佳作受賞。第36回講談社絵本新人賞受賞作『ほしじいたけ ほしばあたけ』(講談社)でデビュー。シリーズに『ほしじいたけ ほしばあたけ じめじめ谷でききいっぱつ』『ほしじいたけ ほしばあたけ カエンタケにごようじん』『ほしじいたけ ほしばあたけ いざ、せんにんやまへ』がある。造形教室講師として、子どもたちに一緒に遊んでもらっている。