今作「まよなかのせおよぎ」は、自分が本当に好きだと思った世界を素直に描くことが出来た作品です。前年は、挑戦する気持ちばかりが先行して自分を見失い、落選。我に返ったところで「そうそう、こんなのが描きたかった」と自然にアイデアが生まれ、そのままのシンプルな気持ちで描いた今作で受賞することが出来ました。
今、新たな意欲を持って日々作品と向き合っています。その中で感じた沢山のことを綴っていきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。
担当編集者のOさんとのメールでのやり取りを経て、遂に絵本作りがスタートしました。早速ラフの練り直しから始まります。Oさんから提案を頂いたり、自分から確認したりと、1ページずつ進めていきました。応募時からかなり時間が経っているため、自分でも積極的に修正したい箇所があり、ページの使い方や人物の配置や大きさ、さらには内容変更まで、かなりのページを修正することになりました。
ある場面についてOさんから、「客観的すぎるのでは」という指摘がありました。この物語の主人公は女の子なのですが、その場面は物語後半の大きな山で、その女の子の気持ちを全面に表す必要があります。
この作品はとても感覚的な作品で、読む人が一緒になって体感出来るような作品にしたいと思って描きました。それには、女の子が物語の中でどれだけ驚いているか、喜んでいるか、楽しんでいるかが表されていなくてはなりません。
久しぶりに原画と対面して、なんだか全体的にボヤけてる? と感じたのですが、それらの要素が足りていなかったのです。作品を作る時に客観的な視点を持つことはとても大事なことですが、作品そのものが客観的だと物語の中に入り込めないということがよく分かりました。
打ち合わせをする度に思うのですが、編集者さんとのやり取りがとにかく楽しい! です。今までずっと独りでやってきたので、共同作業する相手がいて、その相手から反応がある嬉しさ、楽しさは半端ではありません。
打ち合わせをしてはラフを修正し、またそれを持って出向き、意見を頂いて、それを受けてこちらもアイデアを出し、何度も何度も何度も修正を行います。この作業を繰り返すことで、より一層物語の世界に入り込みます。そうすると、キャラクターも画面全体もしっかりしてきます。
本番の前に選手の皆さんはそれぞれの個人メニューで練習しているのですが、その泳ぎの優雅なこと! 一切無駄のない滑らかな泳ぎにいちいち感動してしまいます。大会全体が面白かったのですが、その練習風景がとにかく美しく印象的でした。
一つのレーンを左右二分して泳ぐという、人と人とが限りなく接近する中、全くぶつかる気配もなく、黙々と自分の練習メニューをこなす選手の皆さんの姿には、感心させられるとともに集中することの尊さを改めて実感させられました。練習の伸び伸びとした泳ぎと、本番の真剣勝負。絵本の中に取り入れたいものと、私自身の制作活動に必要な熱意と、大切なものを頂いたように思います。
話は変わって、毎年恒例の新人賞受賞者による年賀状作りですが、私も楽しく作らせて頂きました。今作とイノシシ、どうやって絡めよう!? と、最初は頭を悩ませましたが、突然あっさりと解決して作り終えました。いかがでしょうか?
夕方から夜に変わる途中の空と、一軒家やマンションの一室から漏れるあたたかい灯りが、打ち合わせで充実した心をさらに盛り上げてくれます。スキップでもしたいくらい、気持ちのいい時間です。街の生活の音や気配を感じながら、その日の反省、これからの作業にかける思い、次はこんなものが描きたい!
……色んなことに思いを巡らせて帰路につきます。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。それではまた。
近藤 未奈
多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業後、おもに個展での作品発表を中心に活動。 2018年、第40回講談社絵本新人賞を受賞し、はじめての絵本となる『まよなかのせおよぎ』を刊行。東京都在住。
多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業後、おもに個展での作品発表を中心に活動。 2018年、第40回講談社絵本新人賞を受賞し、はじめての絵本となる『まよなかのせおよぎ』を刊行。東京都在住。