【絵本制作の舞台裏】「ビフォーアフター比較の巻」受賞作がそのまま絵本になるわけではない!?

第44回講談社絵本新人賞受賞作家 みやもとかずあきの制作日記④(4コマ漫画つき)

作家:みやもと かずあき

制作日記 第4回

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受賞作がそのまま本になると思っていたら…

講談社絵本新人賞は、受賞すると必ず出版されるのですが、僕は当初、受賞作がそのまま本になるんだと思っていました。

結局、そのままの絵のところも含め、すべてのページをラフから描き直しました。

今回はその話を。応募作とのビフォーアフターも一部ご紹介します。

話は2023年の12月に戻ります。

担当編集者の福の神との打ち合わせが始まりました。

僕が和歌山に住んでいるため、テーブルを挟んで向かい合いながらではなく、タブレットのモニターを前にオンラインで打ち合わせをします。

草深い田舎に住みながらも便利な世の中になったものです。

制作日記第2回のとおり、鬼の「あおくん」と福の神の「ふくちゃん」は、担当編集者福の神と話をしながら、最初は「鬼」「福の神」と呼んでいたのが、いつのまにか2人のことを名前で呼ぶようになり、キャラクターがどんどん固まっていきました。そこまできたところで、担当編集者福の神はこう言うのです。

「一緒に話しながらキャラクターがどんどんできてきましたね。もう一度描くと、応募作品よりもっと2人が生き生きした絵になるように思いますので、一からラフを描き直してみませんか」

これが出版という名のゴールに向かって、「走れー!!」の最初の号令でした。

応募作と出版された作品、かわったところあれこれ

表紙を開き見開きをめくって出てくる中扉がまず変わりました。

応募作は中扉はタイトルとイメージの絵、お話がはじまる2~3ページには2場面を描いていました。

「ここは読者が初めて2人としっかり出会う場面なので、見開きで大きく見せましょう」
と担当編集者福の神。

そこで、イメージカットをなくし、片方を中扉に、残りを次の見開き(2~3ページ)いっぱいに描きました。

福の神のふくちゃんが鬼のあおくんに交代をゴリ押しする場面です。
↑上が応募作、下が出版時。ふくちゃんが立ち上がり動きも大きくなっています。
見開きいっぱいに描かれた絵は前より迫力が出て、読者がお話の中に入りやすいようになったと思います。

あおくんのお人好しで人の頼みを断れない感じも、ふくちゃんのちゃっかりした感じも前よりもわかりやすく出たと思います。

ストーリーと直接関係ない背景のすみずみまで描き込んで見る楽しさを

家族で福の神を囲んで食事をする場面がいくつかあります。

応募作では描いてなかった家具調度品も描き、食卓の様子も見直して、生活感とまとまりが出たように思います。僕がイメージする昭和に置かれていた家具を調べながら描いていきました。人の配置も変え、子どもたちの顔が見えるように。また、お父さんのつもりだった人を、担当編集者福の神が「おじいちゃん」と間違えていたので、髪の毛をはやし、すこし若々しい見た目に変えたりもしました。
↑上が応募作、下が修正後。家具調度品、テーブルの内容、海苔巻きの持ち方、子どもの位置などなど、細かく丁寧に見直していきました。
手を入れたほうがいいのかなあと気になっていた場面がありました。

鬼のあおくんが「福の神」として一仕事終え、ようやく解放され、自分の家に帰ってくつろぐシーンです。
僕はそこは、あおくんにとっては至福の時間というつもりで描いていたのですが、応募作品の講評で選考委員の先生方から物語の後半、特に家で一人になっているシーンに少し寂しさを感じるというご感想をいただいていました。つまり読んでくださった方に意図が伝わっていなかったのです。

一見開きに、お家に一人帰るあおくんの場面と、きな粉餅を食べているあおくんの場面を描いていました。
思い切ってお家に帰るあおくんの場面をカットして、あおくんがきなこ餅を食べている場面のみを見開きで見せることにしました。

家の中は鬼アイテムを増やし、にぎやかにして、あおくんの表情にも工夫を加えました。

出来上がったラフを担当編集者の福の神に見せると、部屋の中の鬼アイテムが主張しすぎて主人公のあおくんに目線が行かないという意見。そこで鬼アイテムの位置を少しずらしたり、大きさを調整したりして、中央にいるあおくんに視線が集まるようにしました。

また手前の火鉢で焼いている餅を大きくして全体のバランスを整えました。

寂しさが消えてあおくんのくつろぎのひとときを醸し出せたと思います。

他の場面もあおくんに対して寂しさを感じるまで読者の温度を下げないよう描き直しました。

最終的に変更したシーン

とても気にいってる場面がありました。

鬼のあおくんと福の神のふくちゃんが服を交換するシーンです。

鬼のあおくんは虎のパンツを脱いで福の神のふくちゃんに渡します。

鬼のあおくんは背中を向けていますが全裸です。

あおくんから受けとった虎のパンツをふくちゃんははこうとしています。

その姿は「とにかく明るい安村」の「ヘイ!」のように際どいポーズをとってました。

この絵を見た読者をドキッとさせるのが狙いで、おかしみのある場面で気にいってました。

ところが担当編集者福の神がこんなことを言い出したのです。

「海外展開の可能性なども考えて、裸ではなく、なにか着せませんか。それにさっきまで鬼がはいていた、まだ温もりのあるパンツを、神と名のつく福の神にはかせるのはいかがなものでしょう。仮にも神様ですよ」
と言われて
「えっ そうなんや! なるほど ごもっとも」
となり、けっきょく、新しく描き直し、前より品のある絵になりました。
まあこんなやりとりをしながら、すべての場面を少しでも良くなるようにラフを描き直していきます。

担当編集者の福の神から「この場面はこれでいいですね」の言葉がでると、顔は普通を装っていましたが、心の中は、
「よっしゃー!」
ガッツポーズしてました。

20枚も描き直したシーン

15見開きを15枠にして、
OKを◎、
また描き直しを×でつけていくと、
まるでペナルティーキックのスコアボードです。

15枠もかなり◎で埋まってくるとやる気も上がってきます。

しかし、なかなか担当編集者福の神が◎を出してくれない場面がありました。

鬼のあおくんが福の神になりかわったせいで、家族が元気を奪われどんよりしてしまったシーンです。
マイケル・ジャクソンのムーンウォークのように身体を斜めに倒して立っている家族、ゾンビ顔の家族、病原菌で充満した中にいる家族、アップにしたり引いたりもしました。どれもボツになりました。

この場面は20枚は描いていると思います。

いったいどういうふうに描けば良いのだろう。

行き詰まっていました。

こんなときはスターウォーズのメインテーマで気分転換。

壮大な曲を聴き終わると力が湧いてきました。

その勢いで一気にラフを描きあげると早速、担当編集者福の神に見てもらいました。
すると、やっと◎が出ました。

これで15のスコアボードもすべて◎になり、やっと本絵を描くことができます。

この時点で7月、強烈に暑かった夏がはじまろうとしていました。

この続きは、また次回。

気づいたら、年の瀬ですね。みなさま良いお年を。

冬休みにぜひ『あおくんふくちゃん』をチェックしてみてください。
↑『あおくんふくちゃん』発売中! 鬼と福の神がハイタッチしている表紙が目印です。めくると4コマ漫画もついてますよ!
↑いつも昔話4コマでしたが、今回は現代版でまとめてみました。

講談社絵本新人賞 受賞作既刊

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みやもと かずあき

Kazuaki Miyamoto
絵本作家

和歌山県生まれ。第44回講談社絵本新人賞受賞。絵本作家を目指して30年、60歳にして、ついに本作で念願のデビューを果たす。 男の子と女の子の双子育児の傍ら、「講談社フェーマススクールズ」「神戸ギャラリーヴィー絵話塾」で絵本制作を学んだ。受賞歴として第38回日産童話と絵本のグランプリ絵本の部優秀賞、第3回安城市新美南吉絵本大賞入賞など。 現在は、地元でベビー子ども服店を営みながら、みかんや野菜を少々作っている。

和歌山県生まれ。第44回講談社絵本新人賞受賞。絵本作家を目指して30年、60歳にして、ついに本作で念願のデビューを果たす。 男の子と女の子の双子育児の傍ら、「講談社フェーマススクールズ」「神戸ギャラリーヴィー絵話塾」で絵本制作を学んだ。受賞歴として第38回日産童話と絵本のグランプリ絵本の部優秀賞、第3回安城市新美南吉絵本大賞入賞など。 現在は、地元でベビー子ども服店を営みながら、みかんや野菜を少々作っている。