2022.07.22

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異世界描写がこわい! 人気劇作家・前川知大が話題作「ゴーストブック おばけずかん」を最速解説

「超常的世界観」で演劇賞多数受賞・映画化続々の劇作家がおばけ「旅する雲梯」を気に入ったワケ

劇作家・演出家:前川 知大

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

“異世界”冒険ファンタジー映画「ゴーストブック おばけずかん」(22年7月22日より大ヒット公開中)。
話題の映画を「超常的な世界観」の作風で知られる人気劇作家・前川知大さんが観ました。

前川さんは、劇団『イキウメ』を主宰。「関数ドミノ」、「太陽」や、「奇ツ怪」などで、紀伊国屋演劇賞や読売演劇大賞など、国内演劇賞を多数受賞。また、舞台作品が続々と映画化され、映画「散歩する侵略者」は、25ヵ国で上演されました。

手がける作品は、目に見えないものと人間との関わりや、日常の裏側にある世界といった、SFやオカルト、ホラーの要素を取り入れたもの。舞台では、観客をシームレスに異世界の空間へ誘ってしまう演出に定評があります。
また、小泉八雲や水木しげるにまつわる作品の書き下ろし、舞台化も手がけられてきました。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

映画の物語は、“どんな願いも叶えてくれる一冊の本=おばけずかん”を手に入れた子どもたちを待ち受ける、“異世界”冒険ファンタジー。“その世界”に詳しい前川さんに「ゴーストブック おばけずかん」を観た感想を独自の目線から語っていただきました。

原作の雰囲気を映画にも感じた

「おばけ、好きでしょう?」と編集者に言われ、映画「ゴーストブック おばけずかん」の試写会にお邪魔させていただいた。ちなみに僕は怖がりなので、おばけは好きではない。でも大丈夫、小学生が主人公の映画に、本気でトラウマを作りにくるものはないだろう。実際ホラー的要素はなく、家族で観られる異世界冒険ファンタジーという趣であった。

仕事がら、原作をどう料理したのかが気になるので、書籍も資料として貸していただく。3冊の「おばけずかん」をテーブルの上に置いていたら、小学4年生の息子が帰ってきて、「お、『おばけずかん』じゃん。昔学童でよく読んだわー」と懐かしそうにしている。

ただ、本を持って懐かしそうに目を細める息子の態度には「ま、オレはもうここ通り過ぎたけどね」という上から目線が滲み出ている。そう、原作の童話『おばけずかん』は、未就学児から小学生低学年向けの内容なのだ。図鑑というだけあって、そこには主人公も冒険も存在しない。

映画はというと、「おばけずかん」を手に入れた子どもたちが異世界に迷いこみ、「おばけずかん」におばけを封印したり召喚したりして、危機を乗り越えていく物語になっている。図鑑形式の童話から映画という2時間の物語へ翻案するにあたり、主役はおばけから子どもたちに変わっているわけだ。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

ただ、原作の雰囲気が、そこはかとなく映画の空気感に取り込まれているように感じた。童話「おばけずかん」の語り口はこんな感じだ。
「こんなおばけがいるよ。こわいね。でも大丈夫。こうやったら、ほらね」というもの。
怖がらせるというより、怖いことを認めながらも、でも大丈夫なんだよ、と安心させるほうに重きを置いている。

映画では、4人の子どもと偶然巻き込まれた一人の新米教師が、異世界に迷い込む。ただ一人の大人であるこの先生が頼りなく、特に活躍もしなければ、子どもからの信頼も薄い。それでも先生は「でも大丈夫。なんとかなるよ」と励ます。「なんとかなんねーよ」とその説得力の無さに呆れつつも、子どもたちはトラブルを乗り越えていく。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

実際、おばけたちとの戦いは命がけで、生きて現実に戻れるかは分からない状況だ。それでも映画の雰囲気は、どこか暖かく優しげで、みんなちょっとのんきなのだ。子どもたちも先生も、不安を抱えつつも異世界を楽しんでいる。このバランスが面白く、原作の空気感と通じるものがある。

主人公の子どもたちも小学6年生だし、うちの息子のように、本の「おばけずかん」を通り過ぎた子どもたちは、この映画を観てそんな懐かしさも感じるかもしれない。

個人的に怖かった、異世界の描写

映画では7体のおばけが出てくるのだが、百目や一反木綿といったクラシックなものもあれば、原作オリジナル「旅する雲梯(うんてい)」というものも登場する。これが映画の中で動いているのを見るのは、読者は嬉しいのではないだろうか。

個人的に気に入ってしまったというのもあるが、この「旅する雲梯」というおばけが、この映画の雰囲気を象徴するというか、実写化するにあたって原作の空気を持ち込むことに大きな役割を果たしているような気がする。雲梯というある時期にだけ身近なモノがおばけになっているのも、子ども目線を捉えていていい。

「旅する雲梯」にぶら下がった人は、その手を離すことができなくなる。カラフルな雲梯は、獲物が掛かったとみるや、つぶらな瞳を開き可愛らしい笑顔を見せ、ナナフシのように6本足で歩きだす。空気の階段を登るように中空へ駆け上がり、雲の切れ目から差し込む神々しい光(ヤコブの梯子!)へ向かっていくのだ。旅の終着点はあの世。なんともシビアな遊具である。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

CGで描かれたおばけたちは、総じてキモかわいいのだが、それぞれ微妙に世界観が違う。ピクサー、ポケモン、水木しげる、FFのように、ちょっとずつ違う雰囲気のものが共存している。妖怪、霊、モンスターと、うるさく言えば定義はあるだろうが、ざっくり「おばけ」という言葉でくくってしまう潔さが原作タイトルにはあり、それを残してくれたことはありがたい。

映画を観ても、やっぱり「GHOST」よりは「おばけ」という言葉がしっくりくる。映画オリジナルの図鑑坊というキャラが、シーツをかぶって登場するのも「おばけ」という言葉を強く意識してだろう。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

おばけの雑多あるいは多様性は、画面の中で実写の登場人物との共存にも一役買っているかもしれない。登場するのは、微妙に世界観の違う7体のおばけ、個性も性別も異なる4人の子ども、子どものような大人が1人。多数派なんてどこにもいない。現実からちょっとズレた異世界を背景に、みんながおばけというように、不思議な統一感を醸し出している。おばけと人間が対等に描かれていて、そこに本質的な対立はない。そのせいか、冒険なのにどこか和む、不思議な映画だ。

個人的に唯一怖かったポイントは、この異世界描写だった。謎の古本屋から出てみると、世界は少しだけ変わっている。あらゆるところが文字どおりズレている。停めてあった車が家と融合していたり、2階部分が切り離されてわずかに浮いていたり、看板や標識の文字が日本語のようで日本語でない、文字化け状態になっているのだ。

バグっている、という表現がしっくりくるような異世界。ロード・オブ・ザ・リングの世界に放り込まれたら「さて、どうするか」と袖をまくるが、こういうバグった世界に放り込まれたら正気を保っていられる自信がない。劇中、「遊園地みたいで楽しくね?」というセリフもあるので、子どもは平気なのかもしれない。公開したら息子を連れていってみようと思う。

「ゴーストブック おばけずかん」
2022年7月22日(金)全国東宝系公開。
【出演】城桧吏、柴崎楓雅、サニーマックレンドン、吉村文香、神木隆之介、新垣結衣。
【監督・脚本・VFX・ストーリー原案・キャラクターデザイン】山崎 貴「ALWAYS 三丁目の夕日」「DESTINY 鎌倉ものがたり」)

どんな願いも叶う禁断の書「おばけずかん」を手にした少年たちの異世界冒険ファンタジー「ゴーストブック おばけずかん」。子どもたちは、数々の試練を乗り越え、願いを叶えることができるのかーー。

前川知大さん作の絵本

「くらいところからやってくる」 作:前川知大/絵:小林系

まえかわ ともひろ

前川 知大

劇作家・演出家

劇作家・演出家。2003年結成の劇団『イキウメ』主宰。 目に見えないものと人間との関わり、日常の裏側にある世界からの人間の心理を描く...

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