2021.04.09

GIGAスクール時代を生き抜く! 未就学児のインターネットの歩き方

教えておきたい情報化社会のルールとマナー|デジタルネイティブの育て方#3

寄稿家:豊福晋平

ひとり1台の端末が配られるGIGAスクールが開始され、ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)化された日常を子どもたちは生きていくことになりました。スケールの大きな学びにつながる一方、心配のタネが増えることも否定はできません。とくにインターネットは、大人でも「やらかす」ことがあるため、警戒心を持つ保護者も多くいます。情報社会で子どもを育てるにあたり、アメリカで提唱されている「デジタル・シチズンシップ教育」を日本に紹介している教育学者、国際大学GLOCOM主幹研究員の豊福晋平先生に、幼児期から教えるべきルールとマナー、親の心構えについて教えていただきました。

写真提供:Melia & Yukimasa

便利だけれど使い方を間違えるとあぶない! 現代のヒゴノカミ

みなさん、「ヒゴノカミ(肥後守)」をご存知でしょうか? むかしの子どもの筆箱に入っていた折りたたみ式の小型ナイフのことです。鉛筆をけずったり、紙を切ったりと、便利なものですが、使い方を誤ればケガをするし、人を傷つけることもあります。このヒゴノカミを、教育学者の豊福晋平先生は、デジタル機器にたとえます。

「僕がはじめてヒゴノカミをもらったとき、父はひとことこう言いました。『怪我だけはするなよ』。つまり、とても便利なものだけれども、使い方を間違うとあぶないよ。でも、お前なら十分扱えるだろう、という意図があってのことだと思います。

ICT機器を子どもに渡すときも、これと同じでいいと思います。リスクはちゃんと教えて、でも、必要以上に怖がらせる必要はありません」(豊福晋平先生)

だからといって、いきなり野放しにするのは危険です。まず、インターネットを使うときは、外を歩いているときと同じという意識をもたせましょう。知らない人に声をかけられても応答しないこと。個人情報やお金のやりとりはしないこと。入っていい場所、いけない場所があること。危険を感じたとき、判断ができないときはすぐに大人を呼ぶこと。幼少期なら、このあたりから教えていくのがいいでしょう。

ムダな親子ゲンカを避けるためのフィルター規制や使用制限のコツ

有害サイトを制限するフィルターをかける、端末を子どもに預けっぱなしにしないなど、基本的な対策は必要です。

「フィルターは強くしすぎると、なにもできなくなるので、加減が難しいかもしれません。でも、小学校中学年ぐらいまでは、意図せずにショッキングなものを見る危険があります。『意地悪をしているのではなく、夜寝られなくなっちゃうようなこわい思いをすることがあるからね』と、きちんと理由を説明して、納得させることが大切です」(豊福晋平先生)

インターネットの使用を時間で制限する人もいますが、豊福先生は行動と結びつける方法をすすめています。

「たとえば、ごはんの時間や家族団らんの時間には使わないなど、行動と結びつけたルールを子どもといっしょに考えましょう。学校に入れば、テストの前はやらないといった状況に応じた優先順位も必要になるかもしれません。一律に時間で制限するなど、守りにくい約束で負荷をかけても、親子ゲンカのもとになるだけです」(豊福晋平先生)

インターネットやデジタル端末の使用をめぐって、親子が対立してしまうと、かえって危険をまねく場合もあります。保護者の目の届かないところでトラブルに巻き込まれ、それを相談できずに事態が悪化する恐れがあるからです。

「子どもはチート(ゲームなどにおけるいかさま行為)の天才です。規制をかけても、抜け道を見つけるのが大好き。押さえつけるのではなく、かといって放任もせず、『心配しているよ。危険を感じたらいつでも相談してほしい』と、伝え続けることが重要です。

『どういうのを見ているの?』と聞いたら、教えてくれる関係になれれば、『それ、やばいんじゃない?』と教えることができます。中学生にもなれば、本当にやばいものは教えてくれなくなりますから、素直に教えてくれる今のうちに、いろんなケーススタディをさせたいですね」(豊福晋平先生)

使う人によって見える世界が変わるインターネット

インターネットが使えるようになったら、自分の言動に責任があることも教えていきましょう。

「インターネット上の履歴は、消せない“あしあと”になることは知らせておく必要があります。このとき、『悪いことしても、監視されているんだぞ』などと、子どもを脅してはいけません。『なにかあったときのために、記録が残るようになっているからね』と、ポジティブな言葉で伝えてください」(豊福晋平先生)

インターネットの履歴は、好みの情報を割り出し、検索サイトや広告などに優先的に表示するためにも使われています。この仕組みにより、フィルターバブルといって、かたよった情報に囲まれてしまいやすいといわれています。

「どんなサイトを見ているか、SNSでだれと友達になり、どんな発言をしているかで、見えてくる世界が変わってくるのです。こうした意識を持たせるためにも、デジタル・シチズンシップ教育は必要です」(豊福晋平先生)

子どものためのデジタル辞典

[デジタルあしあと]インターネットでサイトをみたり、かきこんだりすると、「あしあと」がのこります。あとからけしても、きろくがのこります。

[フィルターバブル]デジタルあしあとをみて、コンピューターがどういうひとかをけいさんして、すきそうなものをおすすめしたり、けんさくにヒットしやすくします。

SNSトラブル、依存症、視力低下……、ICT利用の心配事はいろいろ

年齢制限がなく、幼児でも参加できるSNSはたくさんあります。なかでも、見落とされがちなのが、通信機能のついたゲームのSNS機能。SNSである以上、子ども同士のトラブルも起きれば、子どもを狙った悪い大人と接触する危険もあります。

「ゲームメーカーは熱心に注意喚起や対策をしています。保護者は注意書きや説明書をよく読んでから、子どもにあそばせましょう。近年では、年齢制限がある大人向けゲームが、子どもたちに流行する例もあり、保護者のモラルも問われています」(豊福晋平先生)

“インターネットやゲームに熱中しすぎて、切り替えができない” “モニターを見ていると視力の低下が心配”など、発達や健康への影響を心配する声もあります。

「視力に関しては、たしかに影響があるかもしれません。でも、それは読書でも同じです。だからといって『目が悪くなるから、子どもに本を与えないように』とは言いませんよね?  

それから、大人だって、新しいパソコンを買った日は1日中いじっていたいはず。子どもならなおさらです。WHOが『ゲーム依存』の診断基準を示していますが、この要件に当てはまるケースはほとんどありません」(豊福晋平先生)

WHOによるゲーム障害(ゲーム依存)の診断基準

1.ゲームをする時間や頻度をコントロールできない
2.日常生活でゲームを最優先してしまう
3.悪影響が起きているにもかかわらず、ゲームを続けたり、エスカレートしたりする

これらが12ヵ月以上続く場合

「ICTの利用と依存症との相関関係を示すデータはありますが、因果関係があるというエビデンスにはなりません。ICTを使ったから脳が変質するとか、頭がおかしくなるなんてことはありません。

どんなことでも、やり過ぎれば体調をくずすことはあります。その限度は個々人によってちがいますから、自分にとっての適正量を、お子さんが自分で把握できるように、親子で話し合うことが大切なのです」(豊福晋平先生)

依存症になる人もいるけれど、すべての人が依存症になるわけではないというのは、大人の「飲酒」に置き換えるとわかりやすいでしょう。いずれにしても、行動は結果に過ぎません。切り替えがうまくできなくて心配なときは、子どもが熱中する背景や理由を探ってみることも必要です。

保護者としての心配は尽きませんが、インターネットを通して、広い世界へと歩みだす子どもたちの姿はたのもしくもあります。多少の失敗は想定しつつ、彼らの小さな冒険を応援していきましょう。

取材・文/湯地真理子

寄稿家紹介

豊福晋平

豊福晋平(とよふく・しんぺい)
国際大学GLOCOM主幹研究員/准教授。修士(教育学)1967年北海道生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退。専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。教育の情報化をテーマに研究を続けるとともに、学校におけるプログラミング教育やGIGAスクール構想などへの提言も積極的に行っている。
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