イヤイヤ期対策にも人気! 2000万DLアプリ「鬼から電話」人気のワケは“意見の反映”にあった!

約9年のロングヒットアプリ「鬼から電話」に迫る 第1回「誕生・開発の経緯と爆発人気の理由」とは

阿部 真奈美

子どもが言うことをきかないと、つい頼りたくなるアプリ「鬼から電話」のパワーとは?
写真:アフロ

2012年にリリースされ、現在までにシリーズ累計2000万DLを記録しているスマホアプリ「鬼から電話」。すでにインストールしているママ・パパも多いのではないでしょうか。怖い鬼が親に代わって叱ってくれるという、それまでになかった子育てサポートアプリで、瞬く間に大ヒットとなりました。

「着信音を聞いただけで、言うことを聞く」「イヤイヤ期に救われた」など、支持する声がある一方で、「恐怖で子どもに言うことを聞かせるのはいかがなものか」「本質的なしつけにならないと思う」など、厳しい声も存在します。

しかし、ご存じでしょうか? 「鬼から電話」は、約9年間アップデートを続け、今や仮想電話の相手は鬼のみならず、妖怪、魔女、妖精、アマビエなど多種多様。目的も、「お片付け」「歯磨き」「お薬」「昼寝」「手洗い」等々、実に細かく設定されているのです。
誕生のきっかけから、現在までどう変化してきたのか。「鬼から電話」ヒストリーを紐解きつつ、人気の理由を探ります。

「悪い子いねぇが~?」のアノ存在がアプリ開発のきっかけ

「私が幼い頃、悪いことをしたり、言うことを聞かなかったりすると、親から『なまはげが来るぞ!』『なまはげさんの所に連れていく!』と言い聞かされて育ったんです」。

アプリ「鬼から電話」の開発・運営会社である、メディアアクティブ株式会社の代表取締役、佐々木孝樹さんは秋田出身。自身の幼少期の体験が、「鬼から電話」の根底にあると語ります。おそらく昔の人たちは、怖い存在として鬼や妖怪を用い、まだ判断力のない子どもに良し悪しを教えたのだろうと。

「鬼から電話」が誕生したのは、2012年9月。その少し前の2011年頃から、世の中ではスマホの個人保有率が増加し始めていました。

「本や紙芝居の読み聞かせには、“読む”“めくる”という動きが必要ですが、スマホなら人力が必要ない。その手軽さに着目しました」(佐々木代表)。

そこで開発したのが、鬼から仮想電話がかかってきて、言うことを聞かない子どもを叱ってくれるアプリでした。ここで断っておきたいのは、「鬼から電話」は怖がらせるためのアプリではないということ。アプリ開発の一番の狙いは、“子どもの行動を促進させる”ことだと佐々木さんは言います。

「親が『片づけなさい』と言っても、子どもは聞き流したり、笑ってごまかしたりして片づけないのが日常茶飯事。でも、第三者から電話がかかってきたら、『何だ? いつもと違うぞ?』と、聞く耳を持つと思うんです。まず子どもの注意を引いて、行動へ促す。それが我々の役目だと思っています」(佐々木代表)。

また、行動促進と同じくらい重要なのが、子どもに行動する意味を理解してもらうことだと言葉を続けます。

「親は忙しいので、『〇〇しなければいけない意味』を割愛しがち。でも、それを説明することによって子どもは理解し、その行動が習慣化されると考えています」(佐々木代表)。

例えば、「鬼から電話」で表示される歯磨きのシチュエーションでは、お化けが「(歯磨きしないと)虫歯にしてやる」と、お着替えのシチュエーションでは、妖怪が「(お着替えしないと)洋服をもらいに行くよ」と言い聞かせるので、子どもは歯磨きしなければいけない意味、お着替えしたほうがいい理由が分かるというわけです。

お話を聞いたメディアアクティブ株式会社の代表・佐々木孝樹さん。
ZOOM取材にて

ユーザーからのリクエストをほぼ100%反映し ロングヒットアプリに

現在、アプリ「鬼から電話」は、シリーズ累計2000万DLを突破しています。ユーザーは、25~44歳が約85%を占め、そのうち女性が70%。ほかにも、Amazon Alexaで展開され、1日3000人前後に利用されています。

知名度が一気に広がったのは、リリースから2ヵ月後の2012年11月。当時放送されていた朝のワイドショー『とくダネ!』(フジテレビ系)で取り上げられてからでした。

「総合司会の小倉智昭さん(当時)が取り上げてくださったんです。当時はアプリの数も少なく、実用系アプリはほとんどありませんでした。ましてや、子どもの教育において『ほめる』『励ます』が良しとされる時代に、『叱る』という真逆のアプローチですから、そういうエッジの効いた面も、メディアで紹介しやすかったんだと思います」(佐々木代表)。

しかし、メディアの力よりも強大だったと佐々木代表が語るのが口コミ。実際の子育ての中で、「早く寝てくれた」「ご飯を食べてくれるようになった」など、行動促進に結びついたという生の声が、ユーザーの間で広がり、レビューやSNSを通し拡散されたのだそうです。

当然、アンチ的意見もありますが、すべてに目を通し、改善できる点があれば早急に対応。「ここを直して」「こういったシチュエーションがほしい」「こんなキャラクターで作って」というリクエストも数多く寄せられ、そのほとんどを反映しているといいます。

例えば、シチュエーションの中の「トイレトレーニング」は、もともとユーザーのリクエストに応えたもの。初めは怖いフレーズで行動促進していた部分も、ユーザーの要望で「トイレが上手にできることは、格好いいことなんだ!」というアプローチに方向転換しました。ユーザーに重宝されているタイマー機能(ストップウォッチ形のアイコンをタップすると、10秒後、30秒後、50秒後に自動で電話がかかってくるよう設定できる機能)も、「子どもの前で操作していると、アプリだとバレる」との声から生まれたそうです。

アプリ内、右上に表示されるストップウォッチがタイマー機能のアイコン。
画像提供:メディアアクティブ

「パパママ」の声かけも今の時代をとらえて変更

「過去に、サンタクロースが『パパママの言うことを聞いて、いい子にしててね』と言い聞かせるセリフがあったんです。現代の家族のカタチはさまざまだと、お叱りの電話を頂いて、すぐに『おうちの人の言うことを聞いて』と修正しました。子どもの心に傷を負わせたかもしれないと深く反省しましたし、それ以降は、『パパ』『ママ』というワードをセンシティブに捉えています」(佐々木代表)。

「鬼からアプリ」の「お問い合わせ」ページには、メールフォームだけでなく運営会社の電話番号を大きく表示しています。これは、「ユーザーの意見が一番率直。それをかなえられるアプリ、サービスこそが愛され、長く利用される」と考えているからだそう。時代に合わせて、常にアップデートしていく。ロングヒットアプリの理由は、ここにあるのかもしれません。

優しい声で言い聞かせてくれるサンタクロースは、常に人気のコンテンツ。
画像提供:メディアアクティブ

仮想電話の相手は「妖精」や「動物」「有名人」と時代で変化

ユーザーの声に耳を傾け、時代に合わせてアップデートを重ねてきた「鬼から電話」には、2012年のお目見えから現在まで、鬼以外にも多様な仮想電話の相手が登場しています。親の困り事や子どもの個性・状況に応じて使い分けられるよう、少し怖めのキャラ(お化け、妖怪など)から、優しめ・ゆるめのキャラ(妖精、動物、アマビエなど)まで、常時80~90個のコンテンツ(シチュエーション)を配信中です。サッカー選手や子どもYouTuberなど、実在する人物のアプリも目を引きますし、ハロウィンやクリスマスといった季節限定コンテンツも人気が高いといいます。

「キャスティングは、そのときどきの時代背景を考慮しています。最近だと、2021年3月にYouTuberのHIKAKIN(ヒカキン)さん、5月に俳優兼歌手の山崎育三郎さんのコンテンツをリリースしました。ヒカキンさんは、言わずもがな子どもの憧れの存在。山崎育三郎さんは、コロナ禍の今、お母さんたちに癒やしを届けたいという思いでお声がけしました」(佐々木代表)。

YouTubeでおなじみのフレーズも聞ける「ヒカキン鬼」。 “ヤクソク”を守ると、カードを集める楽しみもある。

画像提供:メディアアクティブ


コンテンツのアップデートやキャスティングに、大きく関わってくるという時代背景。それでは、新型コロナウイルスの感染拡大により日常生活が一変した2020~2021年春の1年強、「鬼から電話」の周辺はどう変化したのでしょう。
後編では、コロナ禍で見えたユーザーの変化や、コロナ禍から生まれた新アプリなどを紹介します。

※「鬼からアプリ」の秘密と最新情報に迫る記事は全2回。次回は21年6月5日9:00〜公開です(公開日時までリンクは無効)。
第2回「コロナ禍で注目の『ネクスト鬼から電話』的アプリ」とは?

あべ まなみ

阿部 真奈美

ライター

ライター。1976年生まれ、宮城県在住。旅情報誌やグルメ記事、インタビュー記事を中心に執筆。 韓国への留学経験を生かし、最近はゲームのシナリオ翻訳も手がける。好物はトウモロコシ。

ライター。1976年生まれ、宮城県在住。旅情報誌やグルメ記事、インタビュー記事を中心に執筆。 韓国への留学経験を生かし、最近はゲームのシナリオ翻訳も手がける。好物はトウモロコシ。