
「ヒグラシ」の起源は日本最古の歌集「万葉集」! 涼しげで儚い鳴き声のヒグラシとはどんな昆虫?
【ちょっとマニアな生きもののふしぎ】昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ
2025.09.28
昆虫研究家:伊藤 弥寿彦
2023年は、家の近くの公園で夜、ニイニイゼミとアブラゼミの羽化を観察し、静岡県でクマゼミの羽化を撮影して、それをMOVEのコラムで紹介しました。(こちら)
2024年は、当時書いていた本の中でヒグラシの写真が必要になり、7月31日、撮影にチャレンジしてきました。どこに行けば良いのか、あては全然なかったのですが、とりあえず自分の勘を頼って、東京から海を渡って千葉県の袖ケ浦市を目指しました。気温35度近い炎天下の中ではヒグラシは見つからないと思い、家を出発したのは午後になってからでした。![]()

ヒノキの森
たどり着いたのは、千葉県袖ケ浦市の里山です。田んぼや畑の周りに雑木林が広がっている場所を車で走っていると、案の定ヒグラシの声が聞こえてきました。でも時間はまだ14時です。開けた場所ではアブラゼミとミンミンゼミが鳴いています。ヒグラシの声は鬱蒼とした森の中から聞こえていました。畑の中の道を進むとヒノキの植林がありました。
ヒグラシの声はこの森から響いていました。
ヒグラシの声はこの森から響いていました。

ヒノキ林の小径
車を降りて森の中に入ってみると……いました。ヒグラシです! 正に狙いどおり! 森の中を進むと、セミたちが驚いて止まっていた木から次々と飛び立ちました。すごい数です。私の顔に当たってくるほどでした。早速、三脚を立てて撮影開始。
ヒグラシは体長30~38mm 。透明なはねに、緑で縁取られた茶色い胸、腹部には銀色っぽい毛に覆われてます。決して地味なセミとは思えないのですが、これが薄暗い森の中でヒノキの樹皮に止まっていると見事な「隠蔽色」になって、見つけるのは非常に難しいことが理解できました。
ヒグラシは体長30~38mm 。透明なはねに、緑で縁取られた茶色い胸、腹部には銀色っぽい毛に覆われてます。決して地味なセミとは思えないのですが、これが薄暗い森の中でヒノキの樹皮に止まっていると見事な「隠蔽色」になって、見つけるのは非常に難しいことが理解できました。

ヒノキの幹に止まるヒグラシ。見つけるのは難しい!
撮影のコツは一度飛ばして、再び止まったところを確認して狙うこと。でもこれはたくさんいるからこそできる方法です。そもそもヒノキの森は薄暗く、下草もあまり生えないので虫も少ないため、普段の私は見向きもしない環境です。
でもヒグラシにとってはここが絶好のすみかになっていたのでした。
でもヒグラシにとってはここが絶好のすみかになっていたのでした。

逆光で見たオスの腹は中が空洞で透けて見える

ヒノキ林の中にはたくさんのヒグラシの抜け殻があった!

大きさは25mm ほど。アブラゼミに比べるとずっと小さい。
ヒノキ林の中の小径を抜けると所々に竹(マダケ)が生える明るい雑木林になり、ヒグラシの声はピタッと聞こえなくなりました。やがて小径は尾根道になり、再び薄暗いヒノキの森に。途端にヒグラシの声のシャワーです。
【#ヒグラシ 】薄暗い夜明けと夕暮れ時に鳴く
この場所では抜け殻もたくさん見つかりました。そこでヒノキの幹に静止する奇妙なヒグラシを見つけました。体に真っ白な綿菓子のようなものを付けています。

セミヤドリガに寄生されたメスのヒグラシ。
私はそれが、セミヤドリガに寄生されたセミであることがすぐにわかりました。そのとき、カメラを持っていなかったので、あわてて、そのセミがいる木のそばに目印を置いて、カメラと三脚を取りに走りました。
セミヤドリガは、幼虫がセミの体液を吸って成長するというまさかの肉食性のガです。セミヤドリガの成虫は、見た目は普通のガなのですが、(多分)オスがいません。単為生殖といって、メスが交尾することなく繁殖できるのです。
セミヤドリガは、幼虫がセミの体液を吸って成長するというまさかの肉食性のガです。セミヤドリガの成虫は、見た目は普通のガなのですが、(多分)オスがいません。単為生殖といって、メスが交尾することなく繁殖できるのです。

終齢幼虫は体が白い蝋状物質に覆われているセミヤドリガの幼虫。
木の幹に産み付けられたセミヤドリガの卵は、ヒグラシが羽化するのを待ち構えていたように孵化して、0.7ミリほどの小さな1齢(初齢)幼虫がセミに取り付くのだといいます。ヒグラシの成虫が生きている、おそらく1ヵ月にも満たないであろう短い間にセミの体の上で4回脱皮をして5齢(終齢)幼虫にならなければいけません。幼虫は4齢までは茶色いイモムシ型ですが、終齢幼虫になると体が白い蝋状の物質で覆われます。そしてサナギになる時が来るとセミの体から地上に落ちて蛹化するといいます。
このガに寄生されたセミは死んでしまうのかというとそうではありません。セミはどうやら適当に体液を吸われているだけらしいのです。これは是非捕まえて、ガを成虫にしてみたい!と思いました。撮影後、そっとネットを近づけたのですが、あっという間にセミは飛び去ってしまいました。寄生されたセミは弱っていて簡単に捕まえられると思ったのですが、とんでもない。ピューっと飛んで行ってしまったのでした。残念!
でもセミヤドリガについては、どうやってセミの体液を吸っているのか?どんなガの成虫になるのか?など疑問と知りたい欲求がフツフツと湧いてきたので、いつかまた改めて探してみたいと思っています。
このガに寄生されたセミは死んでしまうのかというとそうではありません。セミはどうやら適当に体液を吸われているだけらしいのです。これは是非捕まえて、ガを成虫にしてみたい!と思いました。撮影後、そっとネットを近づけたのですが、あっという間にセミは飛び去ってしまいました。寄生されたセミは弱っていて簡単に捕まえられると思ったのですが、とんでもない。ピューっと飛んで行ってしまったのでした。残念!
でもセミヤドリガについては、どうやってセミの体液を吸っているのか?どんなガの成虫になるのか?など疑問と知りたい欲求がフツフツと湧いてきたので、いつかまた改めて探してみたいと思っています。
写真提供/伊藤 弥寿彦
伊藤 弥寿彦
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。