すっ転んでもただでは起きない男 その2
2017.08.01
かれらは、おもにシロアリの巣のまわりに住み、シロアリが木を食べてだすフンをえさにしている。
シロアリの気配がうすい場所が好きな種類ならば、昼のうちにシロアリに食い荒らされた朽木をぶち壊しておき、夜またそこにいけば、その朽木の表面にたくさんたかっているので、かんたんに採れる(巣をこわしたときにただようにおいに引きよせられ、集まるのだ)。
ところが、シロアリの気配のうすい場所が好きな種の場合、単純にシロアリの巣をこわしてもまず姿をあらわさない。
だから、この手のマンマルコガネは確実にとる方法がなく、めずらしい種類が多い。
そのため、ジャングルの地面の表面をうすく広い範囲にけずっておくと、人間の鼻では気づけないがうっすらシロアリのにおいがただようらしい。
これで、ふつうなかなかとれないマンマルコガネをあつめられるようなのだ。
わたしが転んだとき、こすれた地面からたまたまいいシロアリのにおいがただよったらしく、夜になって夜行性のマンマルコガネが引きよせられたのだ。
なお、この場所のすぐそばの朽木に大きなシロアリの巣がある。
昼間にこれをこわしたところ、夜にはたくさんのマンマルコガネがやってきた。
だがそれらのなかに、あの黒い種の姿は一匹もなかった。そのあとジャングルで何回シロアリの巣をこわしても、黒いやつはいっさい来なかった。
エクアドルから帰ってしばらくたった後、わたしはマンマルコガネを研究している外国の研究者とメールで話す機会があった。
そのとき、彼がいつもマンマルコガネを採るのにつかう方法を教えてくれたのだが、そのなかにあろうことか「森で地面の表面をうすくひっかいておく」というのがあった。
まったくの偶然だが、わたしはジャングルですっ転んだのがきっかけで、その道の研究者が使うのと同じめずらしい虫の採り方を見つけたのだ。
「風が吹けば桶屋がもうかる」ということわざがあるけど、本当に人生というのは、なにがきっかけでなにが起きるかわからないものだね。