じつは、熱帯のジャングルの地面には、いたるところにシロアリが住んでいて、地表の浅いところを通り道につかっている。
そのため、ジャングルの地面の表面をうすく広い範囲にけずっておくと、人間の鼻では気づけないがうっすらシロアリのにおいがただようらしい。
これで、ふつうなかなかとれないマンマルコガネをあつめられるようなのだ。
わたしが転んだとき、こすれた地面からたまたまいいシロアリのにおいがただよったらしく、夜になって夜行性のマンマルコガネが引きよせられたのだ。
なお、この場所のすぐそばの朽木に大きなシロアリの巣がある。
昼間にこれをこわしたところ、夜にはたくさんのマンマルコガネがやってきた。
だがそれらのなかに、あの黒い種の姿は一匹もなかった。そのあとジャングルで何回シロアリの巣をこわしても、黒いやつはいっさい来なかった。
エクアドルから帰ってしばらくたった後、わたしはマンマルコガネを研究している外国の研究者とメールで話す機会があった。
そのとき、彼がいつもマンマルコガネを採るのにつかう方法を教えてくれたのだが、そのなかにあろうことか「森で地面の表面をうすくひっかいておく」というのがあった。
まったくの偶然だが、わたしはジャングルですっ転んだのがきっかけで、その道の研究者が使うのと同じめずらしい虫の採り方を見つけたのだ。
「風が吹けば桶屋がもうかる」ということわざがあるけど、本当に人生というのは、なにがきっかけでなにが起きるかわからないものだね。